～薔薇の王座～乙女ゲームの悪役魔女に転生した件

思い切って魔力を使った

カルサ城。

これは、ロマンシア大陸の南西端に位置する小さな国境都市である。

また、ゲーム「薔薇の王座」の幕開けの場所でもある。

私は今、カルサ城の中央通りを走り、ゲームの記憶に従って街の南西端にある路地に曲がった。

すぐに、酒場を兼ねている宿屋が目に入った。

表門の外には、木製の看板が掲げられていて、その上に酒場兼宿屋の名前が書かれている──チューリップ

RPGが登場そうな建物の中には、RPGのような多くの客でに賑わい、お酒を飲んだり、おしゃべりをしたり、テーブルを囲んでトランプをしている人もいて、昼間っから吞だくれて観客たちの下品な笑い声が溢れかえっている。

一階のはしゃいでいる群れとは違って、2階にフードをかぶった二人がただ静かに木製の手すりに寄りかかっている。フードの下から髪の毛がかすかに見えるだけで、少し背の高い方は金髪、もう一方は茶色だ。しかし今の私は彼らに構う暇などいない、酒場のドアに足を踏み入れた後、急いであちこちある姿を探してみたら──

あった！！

テラス席のテーブルに座り、ひげを生やしてビールっ腹の中年の男が友達とトランプをしている。

実体の姿はCGとは少し差があるが、幸いこの世界に拉致されたとき私の頭にリアの記憶が湧いてきたので、すぐにその人を認めた。

「カール店長！」

私はその男の名前を大声で叫んだ。

騒がしい酒場は一瞬、しんとした。。

「うるせぇ、誰だ！」

ひげの男はイライラした表情で振り向き、私を見ると驚いた。

私はためらうことなく大股で彼の前に歩いていく。

「カール店長、すまないが、クリスタルリングを返してくれないか？あなたがくれた金貨は全部返すから」

そう、このひげ男はカールという、この酒場のマスターである。

クリスタルリングを手に入れた後、リアは誰に売ったらいいのかさえ分からなかった。チューリップ酒場はいつも様々な外客を招待するので、カール店長も見識が広い、最後にリアは彼に売ることを決めた。。

私の錯覚なのか？

「クリスタルリング」と言った時、2階のフードをかぶった二人が私の方を向いてきた。

「なんのリング？　何言ってんだ？」

やばいことに、カールは何も知らないふりをして、すべてを否定する様子だ。

彼の意図を察し、私は怒りを覚えた。

クリスタルリングはアクア家の家宝として、もちろん凄く貴重で、だがカールはわずか5枚の金貨でそれをリアの手から買って、そしてもっと高い額で転売するつもりだ。

したがって、今のような態度になった。

「カール店長、あなたは否定するつもりなのか？ちょうどさっき、まだ30分も経ってないのに、あなたにクリスタルリングを売ったの」

そう言いながら、私はポケットから布製の財布を取り出した。

「これはあなたがくれたすべての金貨だ。私は全然動いたことがないから、リングを返してお願い」

「先からお前何言ってんだおい！俺に物を売ったって、証言できる人はどこにいる？」

カールは酒場を見渡して大声で尋ねた。そして周りの人もまた爆笑した。

私は怒りで顔を赤らめたが、どうしようもなかった。

リアは、自分がクリスタルリングを売ったことがばれるのを恐れ、目撃者なしでこっそり酒場の裏路地にカールと取引したのだ。

証人は、ない。

「ちょっと、こいつはマリア修道院のリアじゃん？嘘つきがこっちに来てぼったくるつもりか？」

誰かが悪口を言い始めた。

まずい。

元のリアは性格が暗くて大嘘つきで、みんなに残る印象はずっと悪い、たとえ弁解しようでも信じてくれる人はいないだろう。

「カール店長、お願い。それは私の友達の大切なものだ」

私はドレスの縁をしっかりとつまんて、懇願する。

「ねぇって言っただろ！出て行け！」

カールは遠慮なく咆哮し始め、酒場の人々も私を見て軽蔑に笑った。

唇を噛んで、焦る気持ちあが胸を締め付ける。

「カール店長、ほんとにお願いだから。どうすればリングを返してくれるの？」

「だから持ってねえって！そんなぎゃお前は証明してよ」

カールは、私が証明できないと確信し、冷笑した。

酒場の人もざわめき、私の狼狽した様子を待っている。

私は目を閉じ、深く息を吸って、焦る気持ちを落ち着かせて考え始めた。

クリスタルリング非常に貴重で、カールもそれを知っているに違いないから、たぶん今もそれを肌身離さずどこかに隠しているはずだ。リングが彼の体に隠されていることをみんなに気づかせればいいんだ。

強引に突破しようか？

──いや、だめだ。

この考えが浮かび上がる時点で私は拒否した。カールの回りにはすでに数人が囲んでいて、手伝いに違いない。私の体力では、彼の体に近づく前にそれらにうつ伏せされる可能性が高い。

他に方法は？

ない、みだい……

仕方がなくて、私は落胆し始めた。

すべてソルのせいだ。私をこのゲームに引き込まなければよかった。それとも最後で火刑に処された魔女に転生したなんて.....

ちょっと待って──

頭に、ちらりと一つのアイデアが浮かぶ。

クリスタルリングはアクア家の家宝であり、極めて貴重な魔法道具でもある。その上に嵌めされた青い水晶石には巨大な魔法エネルギーが含まれており、魔力の共鳴によっては輝く光を放つ！

心臓の鼓動が急に速くなって、私は胸をしっかりと押さえた。

私が転生した対象は、魔女になる運命を定められたリヤだ。

この体には、魔力も潜んでいるに違いない！魔力をを解き放つことができれば、クリスタルリングと共鳴できる！

──でも、どうすればいい？

深く息を吸って、ゲームCGの魔法陣の映像を頭の中で想像しながら、意識を集中させてみる。

不思議なことに、自分の中に本当に暖かい流れを感じた。

──くる！

私は、狂喜の叫び声をあげそうになる。

「この女どうしたの？おかしいぜ……」

「おい、何やってんだ！」

周りからいろいろな騒がしい音が立てて、私はそれらを無視し、ただ一生懸命に意識を集中させる。

──だめだ。

魔力が湧いても、体外に送ろうとする時は、魔力は停電したかのように何の反応もない。

再び、深く息を吸って、再試行したが、それでも無駄だ。

「早く出て行け！」

カールはもう耐え切れない。

店員らしい一人の大男がカールの命令を理解したよう、にっこりと私に向かって歩いてきた。

「ちょっと待って！」

私は慌てて叫んだ。

眼中の涙をこらえて魔力を一生懸命送ってみたが、まったく役に立たず、魔法は使えない......

何度も何度も試してみたが、使えない、使えないんだ......

あの大男はもう私に近づいてきた。

「バカだな。カール店長にあらさがしなんて」

と、大男は冷やかした。

私は気にせず、拳を握りしめて震え始め、ゲームの魔法に関する情報を必死に思い出す。

「呪文のせいなのか？それとも何かの手順が必要か？......太陽神様、私に力を与えてください？......光を与えてください？」

私はつぶやき、呪文を試し続ける。

まだダメ......涙がこぼれそうなのに、なんで私は何もできないの？

酒場の大男はもう目の前に近づき、臭い指先が私の体に触れそうになる。

二階で一つのフードの姿がちらっと動いた──茶髪のあの人だ。でも彼の行動はすぐに金髪の人に押された。

体は震えていて、自分が何もできない無能な子供になってしまったような気がしす。今の私には、ベラの一番大切なものさえ守れない......

「早く出て行け！」

酒場の大男の口調には軽蔑が満ちて、私の肩に押し付けられようとする瞬間。

「返して！」

震えながら、私は大声で叫んだ。

大男は私の勢いに驚き、一歩下がった。

「ベラのものを、返して！」

再び胸から怒鳴り、呪文を考えず、ベラのものを守る信念だけがすべてを圧倒する。

変化は一瞬で起こった。

私の前の空気は白い光を出し、火種をつけたようなまぶしい光の炎だ。

私を捕まえようとした大男は、まばゆい光に驚いて尻餅をつき、何人かの観客にぶつかった。

同時にカールの服の中で、あるものが青い光を放った。

「熱っっっ！」

体の動きは思ったより速く、カールはすぐに隠したものをつかんで振り払った。しかし、その物体はそのまま地面に落ちるのではなく、青い光の層に包まれて空中に浮かんでいる。

周りの観客たちは口を大きく開け、この不思議なものを見つめる。

透き通った青い水晶がはめ込まれたリング――やはりベラのクリスタルリング！

「それは――！」

二階の茶髪のフードの人はまた驚いて声を出し、少年の澄んだ音です――何処から聞いたことがあるような気がしたが、いまそれを考える暇はない。

私は顔を上げて、青ざめたカールを見つめ直した。

「今は、リングを返してもらえる？」