第4話 5人集めたらなんか貰えますかね

 エイニー。


 それがこの元銀髪女、現銀髪天使の名前である。


 彼女はクソ女神が帰った後、真っ先に俺を治療し、身体を元通りにしてくれた。

 それも、手の平を俺の頭にかざし、暖かな光で全身を包むというなんとも奇跡的な方法によって。


 これについては、流石天使と言えよう。

 後遺症も残ってないし、本当に助かった。


 が、問題はその後である。彼女は。



「……ふぅ。なんとか治りました。流石私ですね!」



 と、ホッとした表情を浮かべたと思えば。



「さて、それでは私は帰りま────あれ!? ゲートが閉じてる!? なんで!?」



 と慌てだし。



「じゃあアンカーをたぐって…………外れてる? パ、パスもほとんど切れてる……?」



 とその顔が絶望に染まり。



「こうなったらもうゲートをこじ開けて……! って神力が無い!? す、すっからかんです! ヤバいです!」



 と頭を抱えて蹲り。



「うわぁぁああああああああああん!!! セラフィナ様ーーー!! お姉様ーーー!!!」



 とギャン泣きしたと思えば。



「ひっく……えっく……ぐすっ……」



 と膝を抱えてめそめそ泣き始め、今に至る。


 そしてそれからずーーーーーっとそのままだったので、俺はもうこいつを放置して先に進もうと考えていたのだ。


 いや……うん。分かるよ?


 確かに俺はこいつに命を助けて貰った身ではある。

 それに同じクソ女神の被害者であることを鑑みれば、同情の余地もある。


 だから可哀想だし、もう少し優しくしてあげるべき。

 その気持ちは分かる。

 というか俺も最初はそうしようと思った。


 思ったのだが。



「『大丈夫か?』と声を掛けたら『汚い身体で近寄らないでください! 穢らわしい!』と言い。『まあまあ落ち着け』と返せば『そもそも貴方のせいで私は置いていかれたんです死んで詫びなさい!』と喚き。更には『返せ! 私の神力を返せ! そして土に還れ!』と石を投げ付けてくる始末……流石に同情する気も失せるわ」


「し、仕方ないじゃないですか! 動揺してたんです! それにちゃんと謝ったじゃないですか!」


「ああ、謝ったな。『いくら穢らわしいとはいえ、女神様から下賜された命を無駄にするのはやり過ぎでした。どうかお許しくださいセラフィナ様』……だったか?」


「そうです。私はちゃんと謝れる天使です」


「そうか。ひとつ聞くけど、本気でこれが俺への謝罪になると思うのか?」


「当然でしょう。貴方のような卑賤の身にはこれでも過分なくらいです」


「そうかそうか────あばよ駄目天使」


「ちょちょちょちょ!? どこ行くんですかぁ!」



 この天使、めっちゃ生意気なのである。


 一度口を開けば罵詈雑言の嵐。

 躊躇いも反省もなにもなく、ただひたすらに暴言を投げ付けてくる。

 よくここまで口が回るもんだと逆に感心するくらいだ。


 俺は別に聖人ではない。

 だからこの天使から受けた散々な仕打ちに、大して太くもない堪忍袋の尾はあっさりとプッツンし。


 もうこいつを慰めるのはやめよう────そう決心するに至ったのだった。



「お前の居ない場所」


「正気ですか!? この世界のことを何も知らない脳みそ空っぽの貴方が単独行動とか自殺行為以外の何ものでもありませんよ!?」


「うるせぇ黙れ! お前は説得したいのか馬鹿にしたいのかどっちなんだよ!」


「どっちもです!」


「よーしいい度胸だそこに直れぶん殴ってやる」


「…………争いは良くありませんよ。落ち着きましょう? ね?」


「ふんッ!!!」


「待っ────痛ぁああッ!?」



 どこまでも人を舐め腐った天使に鉄拳制裁。

 俺の拳が銀色の脳天にクリーンヒットすると、エイニーはその場に崩れ落ち、頭を抱えて悶え苦しむ。


 そのままたっぷりと十数秒間転げ回った後、痛みから復帰した彼女はキッとこちらを涙目で睨み付けた。



「信じられません! こんなに可愛くて美人な天使に手を挙げるなんて!」


「可愛い……?」


「なんで疑問系なんですか。どこからどう見ても可愛いし美人でしょう私は!」



 そう言いながら、エイニーはその慎ましやかな胸を誇らしげに張る。


 なるほど。

 そう言われて見れば、確かに彼女は非常に整った顔立ちをしている。


 サラサラとしたショートボブの銀髪に、陶器のように透き通った肌。長い睫毛と、赤にも黄色にも見える宝石のような瞳。ほんのりと赤みがかった頬に、桜色の唇。すらりと伸びた細長い手足。


 高品質のビスクドールのようなその美貌は、ほんの僅かなキズすらない完成された美であると言えよう。


 そんな彼女の顔をじっと見つめていると、俺はなんだか、とても────



「めっちゃイラつくしボコボコに殴りたくなる」


「いやなんでですか!? 頭おかしいんじゃないんですか!!?」



 おっとつい本音が。


 いや実際、可愛いとは思うよ?

 それこそこんな出会い方でなければ惚れていたかもしれないくらい、美少女ではあると思う。


 だが悲しいかな。今の俺にはこの顔がにっくき怨敵のクソ女神にしか見えない。

 エイニー自身の言動も相まって、俺がこいつにときめく事など1ミリたりともあり得ないのであった。



「しかし銀髪の天使か……なあお前、もしかしてあと4人くらい同じ髪色の天使居たりする?」


「えっ。なんで貴方が知ってるんですか。私が五人姉妹の四女だってこと」


「え?」


「え?」


「マジで居るの?」


「いや貴方が聞いてきたのに何故そんな驚いた顔を」



 きょとんとした顔をする俺に、エイニーが胡乱げな瞳を向ける。


 あーなんか銀色の天使って5つ集めたくなるよなーってノリで適当に聞いたらまさか本当に居るとは。

 もしかして金の天使も居たりするのだろうか。



「居るも何も。そもそもほとんどの天使の髪は金か銀ですよ」


「わかるー」


「どういうノリですかそれ」



 うんうん。と頷く俺。

 そうだよな。天使といえば金と銀とおもちゃの缶詰だよな。



「で、残りの四人ってどんな奴なんだ? お前みたいなのがあと四人も居るのか」


「どういう意味ですか。……お姉様達も妹も、私なんかよりずっと素晴らしい天使ですよ。貴方には分からないでしょうけど」


「ふーん。名前は?」


「上からアイニー姉様、イーニー姉様、ウイニー姉様、そして妹のオルタナティブメサイアちゃんです」


「なんか一人ヤバそうな奴がいるんだが」


「それは貴方ですね」


「なるほど喧嘩売ってんだな。買った!」


「暴力反対!」



 俺が腕を振りかぶると、エイニーはさっと頭を隠して防御の姿勢をとる。


 そんなくだらないやりとりをしばらく続けた後、色々と有耶無耶になった俺たちは、どちらともなく草原の向こうへと歩き出すのであった。 



─────────────────────

五姉妹はみんなカラーパレットが同じです。色塗りが楽。


色々と設定を練り練りしてみてますが、説明ばっかだと話が進まないですね。難しい。

とりあえず次話かその次くらいで第一異世界人いせかいびとを発見出来るやうに頑張ります。

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