第3話 現状把握。これ大事
「ひっく、ぐすっ………えぐっ……」
「…………」
さて、あの後どうなったか簡単に説明しよう。
とりあえず結論から言うと────何もわからん。
この世界のこととか使命とか未だに意味不明だし、むしろ考えれば考えるほどに謎が増えていく。
とはいえ、それでもいくつかの進展はあった。
まずひとつ。
俺が今いる場所はめっちゃ広い草原のど真ん中であることが分かった。
見渡す限り草と石と木とばかりで、人の気配は全くない。遠くの方に山らしきものは見えるが、それだけだ。
地平線までほぼ緑一色で、建物とか人工的なものは見えない。
要するに大した情報はない。
強いて言うならば、このあと地平線の果てまで何キロメートルも歩く運命が確定したといえる。クソが。
「ひっく……ひっく……」
「…………」
そして二つ目。
狼によってズタボロにされた俺の身体だが、治療することが出来た。
詳しい経緯はあとで説明するが、ひとまずモザイク必須の状態からは脱した。喉も完治したから声も出せる。なんなら、怪我をする前より調子が良いくらいだ。
ただし、服はそのままだ。
狼の牙やら爪やらで散々に虐められた俺の服は、もはや服としての機能を果たしていない。ただの汚い布切れだ。
要するに、今の俺はすっぽんぽんである。
せめてもの救いは、腰回りを隠す程度の布だけは死守できたということだろうか。
こんな状態で誰かに出会えば、変質者だと誤解されるのは目に見えている。
つまり俺はこのあと数キロメートルも歩いた挙句、犯罪者として投獄される運命が確定したといえる。クソが。
「ぐすっ……えぐっ……ぅぅぅ」
「…………」
そして三つ目。
これは結構深刻なことなのだが……俺は記憶を失っている。
より正確には、俺自身に関することとか、昔の思い出とか、そういう記憶がすっぽり抜け落ちている感じだ。
一般常識とかその辺の知識は覚えている。だが、それ以外で唯一覚えているのは自分の名前くらいだ。
佐藤タケルという名前。それが今覚えていることの全て。
本来なら悲観すべきなのだろう。
だがこの状況では、むしろプラスに働く可能性がある。
なにせ、未知の世界に放り出され、右も左も分からない状況なのだ。これで自分の家族とか友人のことを思い出してしまったら、絶望に拍車が掛かってしまったかもしれない。
そう言う意味では、記憶を失ったお陰で冷静に思考出来ているといえる。
ただし、身元を証明する方法が何もないのは問題である。
つまり俺はこのあと投獄された挙句、身元不明の不審者として詰問される運命が確定したといえる。クソが。
「ひっく……ひぐっ……えぐっ……」
「…………」
そして四つ目。
これが最も重要で、今の俺の最大の悩みの種でもある。
銀髪女……こと女神セラフィナは、依代である天使を置き去りにして天に帰っていた。
そう、あいつは俺に押し付けやがったのだ。自分の部下であるはずの天使を。何の躊躇いもなく。ゴミのように。
「ひっく……ひっく……」
「…………」
まあ、それは別にいい。
色々と思う所はあるが、この広い草原で独りぼっちは流石に心細い。そういう意味では、助かった面もある。
それに、天使だ。
天使といえば、神の使い。
あのクソ女神の関係者なのは間違いないし、この世界については俺なんかよりもずっと詳しいだろう。
なんなら天使らしく神聖なパワーとか奇跡とかで、これからの旅路を助けてくれるかもしれない。
そう、期待していたのだが────
「さっきから泣いてばかりで役に立たんしもう捨てていいかなコイツ」
「なんて酷いこと言うんですか!? 少しは心配して下さいよ!!」
「断る」
────女神セラフィナの置き土産は、あまりにも期待通りに期待外れな駄目天使なのであった。
─────────────────────
主人公の設定とか過去回想とか考えるの面倒なので、とりあえず記憶をポイーしました。
がんばれモルモット君。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます