第36話 マオウ城 ⑥
「こんばんは、マオウ様」
バルコニーに現れたマオウに、メランサは声をかけた。
「こんばんは。えっと、もしかして、お邪魔になったかな?」
「いえ。むしろわたくしの方こそ、マオウ様とアラト様の邪魔になりますわね」
「いえ、そんな……」
「では、お邪魔虫はこれで退散いたします。どうぞ、お二人はごゆっくり」
メランサは片足を後ろへ引いて、もう片膝を曲げて、少し礼をして、バルコニーから離れた。
「何だか悪いことをしちゃったね」
「だな。一番最初来たのはメランサだったのに」
そして俺が月を見ることの邪魔になって。
「で? メランサさんとはどうなった、さっき? キスくらいはした?」
「いや、何でそんな発想が出たのよ」
「ええ? じゃ何でわざわざメガネを取ったのよ?」
「そんなことをする為じゃなかったから。っていうかいつから見たの?」
「いつって、最初から? 舞台を降りて、アラトを探そうとしたら」
マオウは俺と並んで、一緒に月を見るような場面になった。
「綺麗な月」
「そうな」
「あんないい雰囲気だったのに、キスくらいもしなかったの? アラトの意気地なし」
「いや、何でそうなるんだよ」
「メランサさんと何度も密会したくせに」
「いや、それは……えっ? 何でそんなことを」
「この目で見たから。ウンディちゃんと一緒にね」
ウンディの失言で誤解になってから、あれから俺は地下室にメランサに会う時必ずウンディに「マオウの護衛をする任務」を与える。
ウンディが付いて来ないように。
てっきりウンディに反対されると思っていたが、まさかあっさり受けてもらった。
ずっと疑問を持っていたが、今はようやく原因が分かった。
マオウ本人が覗きに来たら、一緒に居るウンディも自然に俺の護衛をやっていた。
わざわざ反対する必要もなくなる
「というか、マオウはそんなことが見たかったの? 俺とメランサと、その……」
「そうね。本当はそれを聞いてちょっと安心したね」
「だろう。俺も、マオウが他の男とキスすることなんて、絶対見たくない」
「でも、あれは私たちの大事な仲間だよ? 悪いことをする私とアラトの、数少ない仲間」
悪いことをしている、か。
確かに。
妹とあんなことをして。
邪悪なマオウ軍に入って。
ある意味で人間の身を捨てて、吸血鬼として魔族の中に入って。
名前まで、今はもう渡来新人ではなく、アラト・ワタライにした。
「いや、そもそも向こうはそんなつもりがないだろう」
「んー。アラトはそう思っているんだ」
「なに、その意味深な言い方」
「別に。まあ、いずれ時が来るでしょう。その時はちゃんと向き合って、アラト」
なんでマオウがそんなことを言うんだろう。
何だかムカついたので、マオウに軽くキスした
「ちょっ! いきなり何を」
「意気地なしじゃないって証明してあげる」
そしてマオウを抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこってやつ。
「ウンディちゃんが見ているよ? ほら」
顔を上げると、黒ニーソに包まれる脚二つが屋上から垂れて揺るんでいる所が目に入った。
「気にするな。ウンディなら、もっと凄いものをとっくに見た。というか、ウンディだけじゃなく、このまま中に入って、みんなにも見せてあげよう?」
「いや……分かった、アラトは意気地なしじゃないってもう分かったから、だから降ろして?」
「分かった。じゃこのまま部屋に戻ろう」
「全然分かっていないじゃない! って部屋に? それは……」
「嫌?」
「……いいよ。元々そんなつもりでアラトを探しに来たから」
なるほど。
今まで試したことがないから知らなかったけど、マオウも、攻められたら顔がこんなに赤くなるんだ。
「そういえば、アラトにこうして抱き上げられるなんて、初めてね」
「言われてみれば……」
「祈里ちゃんやメランサさんにはもうしてあげたね。ああ、アラトの一つの初めて、手に入れなかったな……うっ!」
そんなことを言う口はさっさと封じればいい。
「もう……」
「もう一回欲しい?」
「……うん」
ダンスを終えて、降ろした銀髪からいい匂いがする。
月の光で、純白の恰好はより神秘が増えたようだ。
愛しくて愛しくてたまらない。
「ねえ、アラト」
俺の顔を見上げ、マオウが聞いてくれた。
「私たちの居場所、気に入った?」
「うん」
ウサミは本当に要望の通り、姫路城とノイシュヴァンシュタイン城の融合したものの新しいマオウ城を実現してくれた。
旧魔王城も消えたし、メランサの意見でこれを新しいマオウ城にした。
「マオウ様の名前で名付けたようで、素敵ですわ」
「これもマオウのお陰だ」
「アラトと二人のお陰だよ」
「……だな」
「これから一緒に、私たちの居場所を守ろう」
「そう……」
答えをする前に、首に腕がかけられ、唇が封じされた。
マオウ軍幹部ニート大公 雲本海月 @KmUmitsuki
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