第17話 最高権力機関・七人会議
出発する前に、俺たちは今回の計画について何度も検討した。
七人会議で提案を通す為に、多数の賛成票が必要だ。
でもその「多数」は参加者の多数ではなく、「七票」の多数である。
つまり今回の場合で、
「五票の中で四票が必要ですわね」
先代魔王の二票は消えて、残りは五票しかない。
つまり反対者は一人より多い失敗する。
メランサ自身は発案者なので、当然賛成票を入れる予定だ。
エルフ領がメランサと友好的で、多分簡単に解決出来るとメランサはウンディの顔を見ながら主張した。
ドワーフ領と悪魔領も、条件付きとはいえ、こっちの提案に積極的な返事をしてくれた。
「問題は獣人領ですわね」
こっちへの返事が来なくて、結構非協力的に見える。
事実上、獣人領はもうこの魔王軍の半分以上の土地を持っている。
戦力的にもかなり強力的だ。
質というと、強い種族が一杯で、その中に魔法と身体能力が同時に超強い竜人も居る。
その領主ニーズヘッグもこの魔王軍の唯一の緑の目の持ち主として、実力が今の自分より上だとメランサが判断した。
量というと、寿命が長くないけど繁殖力の強い種族も沢山で、数も中々だ。
だから、今代魔王が亡くなった今をきっかけに、より相応しい権力を求めるのもおかしくない。
「その一票なしでも通るけど、本当にそうなると、最悪の場合即座に内戦になりそうな……どうしたの、舞央?」
俺の顔をずっと見ていて。
「ううん、なんでも」
――――――――
丁度リリスのイベントお陰で、幹部達が全員ここに集まったので、臨時の幹部会議を行うことになった。
会議の内容は勿論、舞央を新たの魔王様にすることだ。
「では皆様、これから表決を始めます。それと、申し訳ありませんが、その前にわたくしに一つの重大発表をさせていただきます」
もう直ぐ投票を始める所だったが、メランサは突然宣言した。
「この人、マオウ様の兄、ワタライ・アラト様」
えっ? 何で俺の名前が出たの?
「そしてこのわたくし、メランサ・ワタライ。先日、つい婚姻関係を結びました」
幹部たちから驚いた声。
いやいやいや! なにこれ? 俺は知らないよ!
って言うかメランサ・ワタライって何よ!
疑問の目をメランサに向けたが、メランサはみんなの視線を正面からを受けている最中で、俺に構う余裕がなさそう。
仕方なく、舞央に視線で聞いた。
舞央もこっちを見てくれて、微笑んでいながら指を唇に置いて、「今は黙って」って示してくれた。
「本当? おめでとう、メランサ様! ようやくですね! でもそうか。メランサ様の
シルフィーは本心で喜んでいるみたい。
「本当かい? 水くせえな、おい。先に教えてくれたら良かったのに」
すまん、フレイドマル。教えることが出来なくて。
俺にも知らなかったから。
「そうなのでありんすか。だったら……」
リリスは意味深な目で、獣人領の領主ニーズヘッグを見ている。
表決とは言え、俺達はもう事前に七票、いえ、五票の中の四票を集めた。
そして多分メランサの重大発表の影響もあって、その四人は考えを変えることがなく、あっさりと票を入れてくれた。
結論はもう明らかだ。
この場の全員はニーズヘッグに視線を集中した。
「もう結論が出たと思うんだ。この状況、すでに我の意見に意味がおらん。さっさと決めたまえばいい」
「でも、これはニーズヘッグ様の権力ですので……」
「メランサ様」
ニーズヘッグは舞央の隣に座っているメランサに目を向けた。
「大勢の部下を統べる者として、メランサ様も理解すると思うんだが、今の我はもはや自分だけの意志で動くことが出来ぬ」
それは分かる。
例えば、自分が王になったら、部下たちも貴族になる。
だからもし機会があれば、部下たちも反乱を望む。
自分の意志に関わらず。
もしその期待を裏切ったら、部下も自分を裏切ってもおかしくない。
そんなこと、もう歴史に沢山書いてある。
そしてただの竜人領から拡張し、魔王軍の半分を手に入れたニーズヘッグは、下から避けきれない期待が特に複雑だろう。
「故に、我はここで棄権するしかあるまい。これはもう我の最大の譲歩だ」
でも実際、この七人会議に投票は同意とその他という二つ選択肢しか存在しない。
提案が通る条件は「四票の同意」。
つまり、棄権も欠席も、今回の先代魔王みたいにその投票権を持つ者が全く存在しないことまで、全てが「反対」と同じだ。
ここであえて「反対」を言わず「棄権」を示したのは、事態を拡大したくないことにすぎない。
「では決めますわね。おめでとうございます、マオウ様。これでマオウ様が正式に魔王様がなりましたわ。名の通りですわね」
「あっ、はい」
身を上げた舞央はみんなの拍手を受けながら、両手をメランサに握られている。
流石舞央でも、いきなり異世界で魔王になったら緊張するな。
まあ、これで一件落着ってことだろう。
これからは色々とありそうだが、暫くはゆっくりしよう。
「では、わたくしはここで、今日の二番目の提案をします」
えっ?
戸惑う舞央は目で俺に聞いている。
いや、俺にも何も知らないけど?
幹部たちにも予想外のことみたいで、みんなメランサを見ている。
「先代魔王様、つまりお父様の領地、魔王城のことですが。私に一時的に管理させていただきましたけど、もうマオウ様が居る今、マオウ様に返すべきだと思います。皆様はどう思いますか?」
つまり、魔王領を魔王に返す。
「うん……私はメランサ様の決定なら何でも賛成しますよ? でも次はちょっと事前に教えてくれたらいいな」
シルフィーは無条件に賛成した。
「まあ、ワシから見れば、あれがもうお前のものだから、お前の好きにすればいい」
「あたいも。そもそも先代はただメランサ様の代理官でありんすね。最初からあれがメランサ様の領地の一部ってみんなが思っているのでありんすわ」
フレイドマルとリリスも同意した。
そして何となく想像がついたが、やっぱり先代であるお父さんじゃなく、メランサ本人こそこの魔王軍のボスだったのか。
「マオウ様はどう思いますか?」
「えっ? 私?」
「そうですよ。マオウ様はもう魔王様ですから、きちんと投票権を持っていますわ。今は一票だけですけど、もう直ぐ魔王城をもらって二票の権力ですわよ」
「そんな……」
「ちなみに、もう四票を集めましたので、もう決定事項ですわ」
「うっ……分かった」
予想外な提案だけど、メランサは簡単に五票を集めた。
「ではこれで、魔王領はマオウ様に……」
「お待ちたまえ」
ずっと沈黙していたニーズヘッグは声を出した。
「ニーズヘッグ様? この状況で、もう結論が出たと思いますので、ニーズヘッグ様の意見は意味がありませんわよ?」
「これは我の権力というものだ」
お互いは前の提案の時と真逆な態度だ。
「我は反対する」
「そうですか。では、何も変わらなく五票の同意で、魔王領がマオウ様のものになりますわ。おめでとうございます、マオウ様!」
マオウの名前でちょっとややこしく聞こえるけど、問題がないか。
「では今日はこれで……」
「お待ちたまえ」
ニーズヘッグはまた声を出した。
「そうなった以上、ここで我に今日の三番目の提案をさせてもらう」
身を上げたニーズヘッグはその大きな体を見せた。
「その魔王領と言われる領地を、これから我のものにする」
それを聞いた幹部たちは理解不能な表情になった。
「確かにそこが事実上でメランサ様の領地と公認されたが、今はもう違うんだろう?」
「それは……」「一理があるのでありんすけど……」
ドワーフと悪魔が動揺した。
この魔王軍のボスはメランサであることが、この光景を見たらはっきりと分かる。
お父さんの魔王なんて、ただの代理に過ぎなかった。
今幹部たちもそう思っている。
証拠として、名目上でメランサのではない領地でも、みんなは彼女のものだと公認していた。
でもそれを
「それ、わたくしに喧嘩を売る気ですか?」
メランサは赤い瞳で幹部たちを見渡した。
こんなちょっと寒気を感じさせるメランサは俺が初めて見た。
「メランサ様はそう受け取るなら、そ、そうなるんだろう。ちなみに」
威厳の化身であるニーズヘッグでも、少しだけ声が震えていた。
「メランサ様。その目、以前より大分魔力を感じ取っておらんけど、何か事情か?」
ニーズヘッグは意味深で、その緑の独眼でメランサの
「ニーズヘッグ様? 確かにメランサ様の領地にはメランサ様以外に戦力になれる者が居ませんでしたが、今は違いますよ。例えばそこに居る元勇者様」
シルフィーはメランサに加勢した。
「えっ? ウンディをお呼びですか?」
「何でもないよ。もう少し寝ても」
「いえ。何だかさっきから殺気が溢れていますので、眠気が一気に飛んじゃいました」
この場の難しい話を聞いて俺の体に持たれて寝ていたが、ウンディは直ぐ臨戦態勢の目になった。
「そう。そのことだ。無数の同胞の命を奪ったあの勇者を連れて来るって、一体どういうこと? 闘技場で殆どの領民が気づいていなかったようだが、いずれバレるんだろう。その時はどうするつもり?」
「ウンディーネ様も私達と同じように、人間に迫害された仲間ですよ?」
「それ、領民たちにも言える?」
「言えます。というかもう全員に言いました」
「なるほど。少子化で絶滅寸前の領地は管理しやすいな。でも獣人領でそんなことをしたら、間違いなく内乱が起きるんだろう」
「なっ! 言っておきますが、エルフ領は少人数ですけど、戦力というなら全員が精鋭ですよ! まさか試したいと言うのですか?」
シルフとニーズヘッグの間にますます火薬の匂いがしている気だ。
もう魔王になった舞央は主席に座ることになったけど、そわそわして全然落ち着かない。
メランサは相変わらず、冷たい赤目でニーズヘッグを睨んでいる。
ウンディは真剣な表情と適度の緊張感で、いつでも剣を振ってもおかしくないような感じだ。
「な、なあ? 少しワシも言わせてくれよ。その領地のことだけど、あれはもう嬢ちゃんのものだろう? そして他人の領地にちょっかいを出すわけいかねえのはこの魔王軍の筋だろう?」
「そうだな。我々魔王軍の法によっては、領主は自分の領地に絶対的な権力を持って、他人が口を出す権力がない。でも魔王様の領地は違う、な」
「げっ」
勇気を出したドワーフは事態を鎮めようと努力したけど、ニーズヘッグの反論で、即座に失敗した。
不自然な沈黙。間違いなく嵐の前の静けさ。
その静けさを破ったのは、突然現れたコウモリ一匹だった。
「わたくしの使い魔は、今、ここに? 嫌な予感しかしませんわね」
メランサは呟きながら、コウモリから手紙をもらった。
コウモリが赤い霧に変化し、直ぐ姿が消えた。
そしてこれだけの短い時間で、メランサはもう手紙を読了した。
多分簡潔な内容だろう。
「皆様。この三つ目の提案を一旦置きましょう。もし魔王領そのものがなくなったら、全部無意味な話ですから」
メランサにさっきの冷たい感じがもうしない。
「魔王城に敵が進軍中。規模は……前の決戦より小さくないらしいですわ」
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