第4話 指輪に宝石を
「そもそもこれ、一体何のものなの?」
「実はわたくしにも良く分かりません。偶然手に入れた、神から盗んだもの、と言うべきでしょうか」
翌日になって、また元気になったメランサは俺と舞央に一人に一つずつ宝石くれて、宝石のことについて説明してくれた。
「知っているのは、この宝石に凄い力が貯まっているはずですわ。でも一体何の力かわたくしにも分かりません。今まで色んな方が試しましたけど、何の反応がありませんでした。ですからわたくしはこの宝石の力を引き出せる者を召喚しました。
あやふやな条件で、範囲も広すぎましたから、魔力の消耗も凄かったですわ。使い切ってもダメなら諦めるつもりでしたけど、魔力がギリギリ切る前に本当に出たなんて本当に良かったですわ」
要するに、偶然凄いものを手に入れたけど使えない。だからほぼ全ての魔力を使って、使える人間を召喚した。異世界から。
「分かった。でも俺たちはどうやってこんなものから力を手に入れるのか?」
「申し訳ありません。わたくしにも分かりません」
もう何回目の「分かりません」かもう分からない。
「なあ。俺たちを元の世界に帰らせて、また新しい候補を召喚してみたら? そいつなら方法を知っているかもしれない」
「無理でしょう……あっ、決してアラト様とマオウ様を帰らせないなんて思っていません。ただ、以前のわたくしならできると思いますが、今は魔力欠の状態で……」
無理か。
「もしかしてこの世界に不満ですか? 召喚条件として、こんな世界に行きたいものしか召喚していないはずですが……」
「いや、あれは一時的な気の迷いと言うか……しかも人間じゃなくて、魔王軍に召喚されて……」
やっぱりあの時の俺が馬鹿な考えをしたせいか。
舞央まで巻き込んじゃって。
「もし人間側に行きたいのでしたら、そちらに入っても構いませんわ」
「えっ? いいの? 敵同士じゃないの?」
「そうですが、わたくしはこれ以上お二人の人生を壊したくありませんわ」
こいつ、聖人、いや、聖女なのか?
「でもそうなると、お二人は離れ離れになりますので、ご注意ください」
「どういうこと?」
「教会に許されませんから」
そしてメランサは教会のことについて教えてくれた。
この大陸の人間が信仰している宗教、聖リリー教。一番上の者は聖女と呼ばれる。
最初はとても小さくて、名前すらもなかった宗教だった。
でも当時の聖女リリーの努力で、一気にこの大陸に広まった。
そして二百年前、使命を果たした聖女リリーは神に召されて、教会に唯一の「大聖女」と追認された。
同時に「聖リリー歴」という暦法も作り上げた。
丁度今年は聖リリー歴199年で、もうすぐ新年の200年を迎える。
ここまでは問題がない。
問題は、この宗教は兄妹が一緒にいることを認めないのだ。
一緒にいられないって言うのは結婚禁止のことじゃなく……いや勿論結婚も禁止されるが、教会は八歳以上の兄妹が同じ場所に居ることすら許さない。
ちなみに、教会に血縁関係を確定する術があるらしい。
「何でそんな無意味なことを!」
「確か、兄妹が一緒に居ると悪魔になって、世界を破壊しますと」
舞央のつ込みに答えたメランサ。
「じゃ行けないね。新人までと離れ離れなって嫌だ」
「やっぱり、暫くここで生活するしかないな」
「わたくしもそう思いますわ。あっ、ここでもできるだけ遠くに行かないでください。他の魔族に見られたら面倒なことになる可能性がありますから」
「えっ?」
「この魔王軍、人間とは敵同士ですので、人間を恨むものが多いですわ。この領地はまだいいですけど、他の領地に行ったら問答無用攻撃されてもおかしくありませんわ」
「いや。だったら人間の俺たちが魔王になるのも……」
「それはご心配無用ですわ。この魔王軍、割と実力主義ですから」
死にたいものは居ませんからね、とメランサは補足した。
「それに、何と言うか……人間側は上層部しか知りませんが、魔族のみんな、最初から人間だったのですよ。両親が魔族で最初から魔族として生まれたものも居ますけど」
「えっ」
何だか結構暗い設定が出た。
「みんな色んな理由で魔族の体に改造されて、この魔王軍に集まりました。ですから、人間のアラト様とマオウ様を歓迎する魔族もきっと居ますわ」
そうだね。
目の前のメランサもその一員だし、ね。
「では今日の説明は以上です。宝石はお二人に預かります。何かがあったらまた教えてください」
「分かった」
でもこれ、どうしようか。
「ねえ新人」
舞央は左薬指を見せながら提案した。
「ここに嵌めたらどう?」
「いや、そこは簡単に宝石を嵌める場所じゃないだろう」
未来の旦那様がすることだから。
「いいじゃん。こうして持ち歩いたら、失う心配も減るし」
「わたくしもいいと思います! 特別な力がなくても、綺麗なアクセサリーになりますわ」
「……まあ、いいか」
「よし! せっかくだから、ここで嵌め合うよ!」
「いや……」
「はい。できたよ」
舞央が持っていた宝石はもう俺の左薬指に付けた指輪にある。
「まあいいか」
俺も、俺より小さなあの手を持って、そのすんなりとした指に付けた指輪に宝石を嵌めた。
「綺麗だね……あっ」
舞央は左手を上げ、満足そうで宝石が付いた指輪を見た頃、宝石が急に強く輝いて、俺は思わず目を閉めた。
同時に、俺の指輪の所も暖かく感じる。
その暖かさが手や腕を沿って、頭に上がって左目に届いた気がする。
同時に脳に直接、何かの情報が入っている。
再び目を開けた時、俺の指輪に付いた宝石はもう見えない。
舞央の指に嵌めた宝石も、いつの間にか消えた。
その代わりに、舞央の右目は紫になった。
まるでさっきの宝石のように。
「なるほど。こんな力か」
呟いた舞央も、多分俺と似たような経験をしていた。
「新人も分かったよね? この力を」
「そうだな」
脳に入った情報は、自分の力のことだけじゃない。
相手の力のことも。
「ねえ、メランサさん。『マセキ』というものを用意出るのかな?」
「分かりました!」
今回は前みたいな黒い渦巻が現れず、メランサは魔石を取りに行った。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
前の宝石と似ているが、色は赤。
「じゃ行くよ」
舞央はその赤い魔石を指輪に嵌めた。
そして、
「こうなる……かな?」
手のひらに炎が現れた
「あつい!」
また水が出て、炎が消えた。
「大丈夫? 火傷をした?」
「ううん。上に燃えるようしたから、大丈夫だよ」
俺は舞央の手を持って、手のひらをよく見たけど、明らかな痕跡が見えない。
「念の為、わたくしが治癒魔法を掛けますわ」
「お願いします」
俺がお願いした通り、メランサは治癒魔法を掛けな。
「凄いですわ、マオウ様!」
「いえ、ただ魔石の魔力を使っただけ」
「それでも凄いですわ! 確かに魔石は魔力を持ちますけど、誰でもこんなに直接使えませんわ! 魔道具の魔力源しかなれないはずですもの」
「魔道具?」
メランサの説明によると、魔道具は人間に神具と呼ばれるが、魔王軍は神という言葉が嫌いで魔道具と呼ぶ。
そして神具はその名の通り、「神に作られたもの」って。
「つまり、人間も魔族も作れない、とてもレアなものだと言われますわ。そしてどんな魔道具にも必ず充分な魔石が付いていますので、こんなものって全然役に立ちませんわ」
「つまり、ありふれたってこと?」
「それは違いますけど。実際この屋敷にはこの一個しかありません。しかもこれもうちのメイド長の私物みたいなものですわ」
「ええ? じゃ私に消耗されちゃダメだね!」
「まあ、手に入れる方法なら心当たりがありますけど……」「新人、お願い!」
舞央が宝石を指輪から取って、俺にくれた。
メランサの話に凄い興味があるけど、いずれ聞こう。
「分かった」
俺はその魔石を自分の指輪に嵌めた。
そしたらその魔石は……消えた。
「えっ?」
「良く見てください。新人の力を」
俺は集中して、脳内で魔石のことを読み取る。
なるほど。
これ、核分裂の燃料みたいなものだ。
エネルギー、じゃなくて、使える魔力の密度も、核分裂の燃料と同じくらいだ。
「できた。これ、メイド長に返してください」
俺は指輪に現れた赤い魔石を取って、メランサにあげた。
「それと……よし。一。二。三。四……」
「こ、これはどういうことですか?」
指輪から魔石を取ってから、また新しいのを生成する。
それを繰り返して、俺は大量の魔石を生産した。
「これが俺の力です。同じ種類の魔石を必要な量で飲み込んで情報を理解しら、いくらでも作り出せる。あっでもオリジナルの魔石はもう消えたと言うか、情報が俺の一部になった感じだ」
「アラト様の一部、ですか?」
メランサは俺の左目を見つめている。
「多分そこで違いがない」
「でもまだ紫のままですわ」
やっぱり、舞央の右目と同じように紫になったか。
「そのものじゃなく、情報だけみたいな感じね」
「要するに、マオウ様が魔石で魔法を使って、アラト様が魔石を生み出しますね! 凄い力ですわ!」
俺と舞央の脳に伝わったことは、今メランサにも理解された。
「でも後で出たのはもうそのオリジナルじゃってことだ。だからメイド長にちょっと悪いことをしたかもしれない……」
もしあれが思い出の宝物だったら、ちょっと悪かったね……
そこで、俺の意識は一瞬消えた。
気が付いた頃、俺は自分の部屋のベッドに横になっている。
そばには椅子に座っている舞央。目を閉じたまま、少し寝ているみたい。
俺は少し身を上げた。
外はもうすっかり暗くなった
この半日舞央はずっと俺の看病をしていたんだろう。
「もう気が付きましたか、アラト様? 良かったですわ、魔力欠のせいでもう三日でしたので、ずっと心配しておりましたわ」
メランサは「西红柿炒鸡蛋」とお粥を持って部屋に入った。
「えっ? 三日?」
「そうですわ。そしてその間にマオウ様はずっとアラト様のそばに居ましたわ」
どうやらこれは当日の夜ではなく、三日後の夜だ。
「アラト様が良くなるようにって、よくアラト様の頭を自分の太ももに置いてナデナデしましたわ」
ん……
以前も舞央にされたことがあるけど、誰かに見られたのは初めてで何だか恥ずかしい。
「あとは、口と口で水を飲ませたりとか、色んな面倒を見ていましたわ」
「メ、メランサさん? み、見たの、それも?」
多分俺とメランサに起こされて、目を開けた舞央はそれを聞いて、頬が赤く染まった。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいでしょう? 初対面の時も見ましたし、お二人の仲ですから、これくらい……あっ。そういえばお二人、確か夫婦ではなく、兄妹でしたっけ?」
「はい」
どうやらまた俺と舞央の関係に勘違いしたみたい。
「えっと……そうですわね! あの頃のアラト様に水を飲ませる為にも、それが一番の手段でしたわ! そうしないとアラト様が死にましからわ! ですからそれは何のおかしいことではありませんわ! わたくしも理解しますわ! うん、うん!」
気まずそうなメランサ。
舞央も目を逸らして、顔が更に赤くなっている。
俺も。
そもそも昨日の夜……じゃなくてもう三日前か……俺は召喚されたあの瞬間のキスの感触と匂いを考えながら、一晩中ずっと眠れなかったぞ。
こんな話を聞かされて、俺も顔が熱くなっている。
「それでは、晩御飯はここに置きますから、あとはごゆっくりどうぞ!」
料理を置いて、メランサは何故か逃げたように部屋から出た。
「じゃ、冷めないうちじ早く食べよう。はい。あー」
「いや。自分で食べるから」
こんな光景を見ると、また昔の記憶が浮かんだな。
あの頃の舞央もお粥をを作ってくれて、こうして食べさせてくれた。
「これ、舞央が作った?」
「分かる?」
「まあ。あの頃と同じ味だから」
「メランサさんは料理ができないからね」
使用人も居ないみたい。
「それにしても、この三日間どうやって俺に食べさせたの?」
「知りたい?」
「ちょっとな。あっ……」
一瞬で答えが脳に浮かんだ。
そしてその答えを確信させるように、舞央は答えを発表した。
「も、もう分かったから、あとは自分で食べる」
「う、うん」
流石舞央も、お粥味のキ……答えを発表したことでもう目を合わせることができない。顔も、もう完熟したトマトになった。
「終わった」
「私も」
お互い無言で夕飯を済ませた。
「私が片付けをするから、新人はそのまま休んで」
「お、おう」
「それと念の為、今日も一緒に寝てあげるから……」
「それはダメ」
また眠れなくなるから。
「分かった。じゃ何かがあったら大声で呼んで。隣の部屋に居るから」
こうして一人で寝ることになった。
それでもあんまり眠れなかった。
きっともう三日連続で寝たせいだ。
決して匂いとか感触とか味とか忘れられないせいじゃないんだ。
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