ヨーデルの人

 「…」

 「何で返事しないんだよ?」

 「駄目なの。ミナトって言っても、恥ずかしくて貴方の前だと、出て来れないのよ。」

 「後ろから斬りつけてきておいて、今更何を言ってるんだ。」

 「あれだって、無理していたのよ!自分をどうにかしたいって、なりふり構わずに、貴方に向かって行ったの。そうじゃないと、まともになんか話せないんだわ。それくらい、貴方に歯向かい続けたことを恥ずかしく思ってるのよ…」

 「あそこ迄、悪の道を突き進んでると、いっそ潔いけどな。アニメの悪役みたいで。」

 「アニメの悪役は大体私がモデルよ…バっイキンマンとか、エっヴァンゲリオンのアスカとか!」

 「え?ああ!確かにそんな感じ!上手く描かれたもんだなあ!」

 「因みに、主人公は大体貴方よ!」

 「ええ?!」

 「だから私、貴方より若くて可愛くなったの。そうしたら、プライドが傷つかない、貴方より負けても構わないって。今生こそ、貴方に教えを乞いたいと、決意して転生したの。」

 「前向きなんだか、後ろ向きなんだか。」

 「私、可愛いでしょ?凄くモテるのよ!」

 「あ、そうなんですね。」

 「だけど、付き合った…セックスした男が、他の女と付き合って、私をブサイクだとか、スタイルが悪いとかって貶してくるの…どうしてなの!」

 「そりゃ、一回ヤって、自分の女だって支配下に置いたつもりで、思い上がって、でも相手の男の方が弱いって敗北感を覚えて、負け惜しみとか、被害妄想だな。こんな女と付き合わされて自分はツイてないって、自分が思い上がってることの正当化がしたいんじゃないか。犯罪者が、自分はやってないって殊更、逆の事言うのと同じで、疚しいから正反対の態度取ったりするヤツ結構いるぞ。」

 「そうね!そうだったのね!目から鱗が落ちたようだわ!」

 「因みに、何歳だっけ?」

 「14歳よ。」

 ぎゃー!

 俺、14歳の頃、何してたっけ?

 テレビアニメ見てたくらい。

 ドラマや映画でキスシーンがあっても、よく分からんかった。

 「余計なお節介かも知れんが、まだ若いんだから、もっと自分を大事にしろよ。子供なんだから、子供らしくしとけばいいだろ。」

 「…そうね。」

 腕組みをして考え込むと、一回消える。

 何なんだ。

 すると、その直後、頭に直接大声が響く。

 「わ、私、ソフィアっていうの。あ、貴方になら、呼び捨てにされてもいいわ!」

 「じゃあ、ヨーデルの人で。」

 「何でよ!」

 「mytubeで、ヨーデルを歌ってる美少女に似てるんだよ。」

 「美少女…そう、美少女だものね!構わないわ!そうね、ヨーデルの人くらいがいいわ…貴方にソフィアなんて呼ばれたら、私…!」

 霊体がグラグラして、たまにおっさんになってる。

 大丈夫だろうか。


  

 「さあ、早速始めましょうか。ベッドに横になって。」

 「え?いやあ、俺は、その。子供はちょっと…」

 「だっ、誰が貴方をどうこうするって言ってんのよ!ばっ、馬鹿じゃないの…」

 どうして尻窄みになるんだ。

 「眠っている時の方が分体を操りやすいのよ。いいから、早くベッドに入って。」

 「あ、はい。」

 何だろう。

 俺、女の尻に敷かれるタイプなのかな。

 

 ベッドに入ったはいいが、凄く視線を感じる。

 中日如来、可動明王、般若っ菩薩も、お行儀良く正座して見守ってくれている。

 こんな、監視されて眠れるわけが…

 

 「眠りなさい。」

 ースヤァ

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