銀河より

 「分体を切り離したわ。」

 「え?!」

 此処は何処?!

 俺は誰?!

 

 此処は俺の部屋で、俺もさっきと変わらない。

 「私のイメージを貴方と共有して、貴方が思う貴方のイメージで分体を作ってるから、何時もの貴方自身ね。」

 なんてつまらない展開なんだ。


 「分体を切り離したってどういうことだ?俺は幽体離脱でもしたのか?」

 「貴方が考えた方がいいと思うわ。」

 ?

 「分からんから聞いてるんだが。」

 「貴方が考えた事が正しいと思うわ!」

 なんでやねん。

 「自分の状況が全く分かってないのに、俺が当てずっぽうで考えたって仕方ないだろ。やった本人なんだから、ヨーデルの人の方が分かるだろうが。」

 「感覚的にやってるから、何をしているのかわからないのよ!私、あんまり賢くないの!貴方に教えを乞いたいって言ってるんだから分かるでしょ!」

 知らんがな! 

 何でこんなことでキレるんだ!

 リアルツンデレってこんなんなのか。

 何してるか分からんのに、他人をどうこうするとは、された方はどうすればいいんだ。

 無責任だ。

 そう思ってヨーデルの人は、と見るとこれでもかと胸を張り、腰に手を当てて偉そうだ。

 胸を大きく見せたいんだろうか。

 いやいや、そういうことでなく。

 腕がブルブル震えて、少し涙ぐんでいる。

 虚勢を張ってますと全身で言っているようだ。

 仕方ない。

 許してやるとしよう。


 「可能性で考えてみると…心を預けるって言葉みたいなもんじゃなかろうか。結婚する時に、他人同士が共に暮らすわけで、価値観を合わせないと生活出来ないから、相手の価値観に一部染まる。それで、心を許した相手には、染まる、心を預けるってことが起こる…」

 「そうね。それが分体ってことだと思うわ。」

 「さっきは分からないって言ったのに、どうして断言出来るんだ?」

 「他人の、表層だけれど、心を読むのが得意なの。理由が分かれば分かるのだけど…」

 「無意識だったものが、意識出来るということか。」

 「そう、そうね!意識出来るから他人、まあ、敵ね。敵の心を読むと、焦ってビクつくから確信出来るの。」

 「へえ、すごいな…」

 というか、その能力すごく恐いんじゃ…

 「貴方の心はいつも読んでいるわ。読みやすいのよ。単純だから。」

 ぎゃー!

 小さな声で、真っ直ぐだから…と付け足してはくれるが、恐いのは変わらんぞ!

 「是非止めて欲しいのだが。」

 「そうしないと、会話出来ないのよ。」

 左様で…

 「それで、幽霊の話よ。貴方の話を聞いて敵の心を読んだら、かなり焦っていたのよ。敵の動きを察知することが出来るわ。」

 「そりゃあすごいな。」

 「貴方がやるのよ。」

 ?

 「私、超古代文明をつくったことで、罪悪感を感じて、敵の暗示にかかっていたの。でも、貴方と話して自分を許せるようになったわ。それで、敵の支配から逃れる事が出来たの。」

 ふむふむ。 

 イマイチ主旨が掴めないんだが。

 「つまり、どういうことなんだ?」

 「分体に分断することに協力させられていたのよ。私、とても能力が高いの。」

 「左様ですか。それで?」

 「今から暗示を解くわ。」

 ?


 ヨーデルの人が、すっと手を滑らせると、枷が取れるような感覚がした。

 今は肉体があるわけではないのだが、重石が取れて身体が軽くなったかのようだった。

 「何か変わったことは無い?」

 「変わったって、そりゃ…」

 説明しようとしたのだが、何か違和感を感じた。

 異物が入り込んで、流れが滞るような不愉快な感覚だ。


 ’第六感ー気付きの能力’


 「それが、貴方の能力ね。」

 「どういうことだ?」

 「さっき何故、分体になるかって話したわよね。信頼したら、その相手に心を預けるって。貴方が、多少私を信頼してるから、分体に分ける事が出来た。」

 「心の一部を分ける事が出来るということか。多重人格と基本は同じってことか。それを他人がどうこう出来る…サブリミナル効果とか、催眠術みたいなものか?」

 「そうね!そんな感じだと思うわ!」

 「他人が、心を操る事が出来る…サブリミナル効果や、催眠術は、本人が自分について意識出来ない状態でかかるもんな。意識出来ない…だから眠っている方が操りやすい?」

 「そ、そうね!そうだわ!」

 合っているのかしら…と、小さな声で呟いているのだが、大丈夫なんだろうか…

 「つまり、分体に分けるというのは、何らかの理由で多重人格になっている状態があって、それを本人が意識出来ず、信頼する相手が心を操っている状態ってことでいいか?」

 「…」

 「おい?」

 「難しくて分からないわ!」

 ブルブル震えて、泣きそうになっている。

 俺がいたいけな少女を虐めてるみたいじゃないか!

 「…暗示を解くって具体的に何をやったんだ?」

 「だから、貴方が私を信頼してるから、その分貴方の心を私が操る事が出来るのよ。」

 「ふむふむ。」

 「…その上で、私が罪悪感が強くて、敵に操られて、貴方の能力を封印していたの。罪悪感が軽くなったことで、敵の支配権を取り戻したってことかしら。」

 …ん?

 今、聞き捨てならない事が…

 「つまり、俺は単にヨーデルの人を信頼していたってだけなのに、全く関係ない他人に能力だかを封印されていた?」

 「そういうことになるわね。」

 「ヨーデルの人は、意図的な悪意は無かったにしても、敵に与していたということか?」

 「そんなことしたかったわけじゃないわ!」

 大凡ヨーデルの人が悪いんじゃ…と、言おうとした所で、泣きながら駆け出してしまった。

 少女漫画さながらに。

 何が地雷になるか分からん。

 リアル美少女ってあんなんなのかな。

 漫画と違う。 

 俺のようなオタクには取り扱い説明書が欲しいと思う。

 姿も声も聞こえなくて、一人取り残され、途方に暮れる。



 「恥ずかしくて、出て来れないそうなのじゃ。」

 急に話し掛けられてビクつく。

 さっきまで居なかっのに

 「びっくりした!中日如来には声が聞こえてるのか?どうなってるんだ?」

 「本人が話そうとした者にしか、声は聞こえんのじゃ。」

 「そうなのか。」

 ああ、そう言えばと思い出す。

 「中日如来は俺の能力だかについて、何か知ってるか?さっきまであった違和感が消えてるんだが。」

 「儂が退治したのじゃ。」

 ?

 誰も彼もどうしてこう話が飛躍するんだ。

 「マナトが能力を使ったら、儂の中に居った敵が見えたから浄化したのじゃ。でも、まだ何かあるようじゃが、自分では、はっきりせんのじゃ。もう一度能力を使ってくれんかの。」

 「へえ、第六感って、他人についても分かるのか。」

 「普通は、本人のことしか分からんのじゃ。マナトは類稀な能力者なのじゃ。」

 褒められて悪い気はしない。

 意気揚々と、腕を振り上げてみたりして、少年漫画さながらに、叫んでみる。


 ’第六感ー気付きの能力’


 黒い靄のようなものが、立ち昇る。


 「儂には、悪い念は黒く見えるのじゃ。それをマナトにも見せておる。」

 そう言うと、錫杖を取り出し、可動明王は、焔を背負い気迫で敵を押さえ付け、黒い靄は消え、同時に俺の中の違和感も消えた。

 

 「これで、何か変わる気がするのじゃ。」

 「何か?」

 「何かが、現れるのじゃ!」

 

 緊迫感を孕んだまま、中日如来が見遣る方角を見詰めるが、何も起こらない。

 「何も現れないが?」

 「そうじゃのう。どうも、儂を認めるのが嫌なようじゃ。大人しく待つのじゃ。」

 そう言うと、お行儀良く正座する。

 可動明王と般若菩薩は中日如来の中に入ったようだ。

 俺はどうしようか…

 やることがない。

 中日如来の隣に正座してみる。


 「マナトも中日如来なのじゃ?」

 中日如来は無邪気にはしゃぐ。

 じゃ、って言ってみたい。

 中日如来みたいになってみたいと思うと、中日如来の姿になった。

 本当にイメージした通りになるんだな。

 「中日如来なのじゃ!」

 「儂も中日如来なのじゃ!」

 「中日如来は、可愛い感じがするのじゃ。見た目が、偉い仏像みたいで違和感が半端ないのじゃ。」

 「目を瞑ってたら、癒やされるのじゃ。」

 「目を瞑るのじゃ。」

 「癒やされるのじゃ。」

 「だ…と言っては駄目なのじゃ!」

 「オフレコなのじゃ!」

 「メタ発言なのじゃ!」

 「なのじゃ!」


 

 「あの…出て行きづらいんですが…」

 おっと。 

 じゃ遊びに夢中で、本来の目的を忘れていた。


 そこには、俺でも知ってる芸能人が居心地悪そうに立っていた。

 「貴方は確か、横浜ぎんばっえ…!」

 「違います。」

 一蹴された。

 検索すると、何か上下で出て来るんだよな。

 名前は確か…



 「横浜銀河です。

ー貴方は俺の恩人だ。」

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