⑮憶測と約束
翌日の木曜日。
学食で昼食を済ませたあたしとりりあは、大学構内に設置してある木製のベンチに移動した。
「・・・で?相談って?」
あたしを見るりりあの顔を、柔らかな木漏れ日が照らす。
「うん・・・」
「絢さんの事?」
「うん・・・」
「もしかして、デートで何かあった?!」
「ううん」
「・・・じゃあ、相談って?」
りりあはしかめ面をした。
「それがね・・・絢さん、土日のバイトしかしてないのに・・・ポルシェに乗ってたの」
「ポルシェって・・・あの、ポルシェ?」
「うん・・・どう思う?」
「ポルシェでデートとか、超羨ましいっ!」
りりあはとても素直な感想を述べてくれた。だけど、あたしが聞きたいのはそれではない。
「ャ・・・そうじゃなくて・・・フリーターでポルシェ、どう思う?」
「うーーん・・・とりあえず、『研修』とやらを明確にしないと始まらないんじゃない?推測だけの話になっちゃうし」
「推測でいいから・・・今、直ちに考えられる事の案が欲しいの」
「えっと・・・それは、その・・・お金をどこから得ているか、的な?」
「単刀直入に言うと、そう」
「そうねぇ・・・不労所得があるとか、投資、とか?・・・後は、実はユーチューバーだったり、とか?・・・後は、そうねぇ・・・悪の組織に関わってる、とか?」
「・・・悪の組織?」
「例えば、オレオレ詐欺、とか?」
りりあは、至って真面目だった。
「後は・・・ホストとか!んで、貢いでくれる女がいるとか!」
「何で、その『ホスト案』だけ疑問符じゃないの?」
あたしも至って真面目だった。
「ャ、なんか、絢さんのイメージに一番しっくりきたから」
確かに・・・いわれて見れば、そんな気がしなくもない。
「てか、なんかさぁ・・・後付け理由ではあるんだけど。紅美との今日迄の出来事も、なんかトントン拍子過ぎない?」
「どういう事?」
「カラオケまで参加して連絡先を交換したにも関わらず、あたしと好村さんには何の進展もないのに。なのに、紅美達は、一次会で別れたにも関わらず、こうやってもう既にドライブデートしてる。これって、女慣れしてる証拠にならない?」
言われて、また『エリさん』を思い出す。
(そんな人が、あんな発言、するだろうか・・・)
「ってか、紗世先輩と悠吾さん、めちゃくちゃ仲良しみたいだから・・・紗世先輩経由で、真相、確かめてみる?悠吾さんと絢さん、幼馴染なんでしょ?」
りりあから、尤も過ぎる提案が出された。確かに、それが一番確実且つ近道かも知れない。だけど・・・もし、裏で自分の事を調べられてるって知ったら、絢さんはあたしから離れて行ってしまわないだろうか・・・そう思うと、怖くてその名案には首を縦に振る事ができなかった。
(ホスト、かぁ・・・)
後はもう寝るだけ、の状態になり自室のベッドの上に寝転んで、考える。
(確かに、イメージ的には一番しっくりくるよなぁ・・・だけど、ホストって、週末が稼ぎ時なんじゃ・・・)
そう思って、あたしは枕元のケータイを取り上げ、某プロバイダの検索欄に『ホストクラブ 営業日』と入力した。
出てきた結果の一番最初の文字をタップして、出てきた文章を走り読みした。
"日曜日は大体営業している"
"混むのは金土の夜"
"休みは月~水の店が多い"
"月末月初が休みの店もある"
(うーん・・・微妙だなぁ・・・)
走り読みした文章を今度はしっかり読もうと、文字を上にスクロールしていると、突然、ケータイ画面の上方に絢さんの名前が通話で表示された。
心臓がドクドクと音を立てた。
「・・・もしもし」
「ぁ、俺だけど」
「あ、うん・・・こんばんは」
今日は、別の意味でドキドキする。
「昨日言えば良かったんだけど。ゴールデンウィークの紅美ちゃんの予定的なの、軽く教えてもらえると助かる」
「今?!」
「ゴールデンウィークは研修ないから、コンビニの方にガッツリ入る事になりそうなんだよね・・・んで、コンビニの方のシフト希望、紅美ちゃんの予定に合わせようかなって」
「え?」
「予定合わねぇと、遊べないじゃん?」
瞬間、違う意味でドキドキし始めた。あまりの自分の調子の良さに、うんざりする。だけど、今は『好き』が止められない。
「あたしも!シフト希望、これから出すんだよっ!」
自然と声が弾む。
「え?マジ?・・・じゃあ、合わせる?」
ケータイの向こうで左の口角を上げる絢さんを想像して、勝手にニヤける自分が気持ち悪過ぎる、と思った。だけど、それも止められない。
「うん!」
(これって、めっちゃくちゃ恋人同士の会話じゃーーーん♡)
絢さんとの電話を切った後あたしは、手帳の五月のページの『2』の文字を、ピンクのペンを使ってハートで囲んだ。
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