⑨日曜の遅い朝

 目を覚まして、ハッとした。

 あたしは、握っていたケータイを確認する。


『6時』


 絢さんからのびっくりするくらい簡潔なメールは、六時過ぎに届いていた。

 時間を確認する。十時少し前だった。

(もう、寝てるかもなぁ・・・)

 と思ったけれど、指がオートマチックに動き出す。


『今日もバイト、頑張ってね!

 梅むすび、美味しかった♪』


 少し期待したけれど、やはり返事はなかった。


 開封していない昆布むすびとグラスとケータイを持って、下階に下りる。

 母がシンクで洗い物をしていた。

「お味噌汁、ある?」

「あるわよ」

「それだけでいいや」

「目玉焼きは?」

「要らない」

 あたしはそれだけ言うと対面キッチンのカウンターの椅子に腰掛けた。

 おむすびのセロファンを剥がして食べていると、母が温めた味噌汁と箸をあたしの前に置いてくれた。

「ありがと」

 あたしは、箸は使わずに味噌汁を啜った。

「ねぇ・・・お母さんとお父さん、どこで知り合ったの?」

「・・・なぁに?」

 目の前で洗い物をしていた母が、いぶかし気な表情であたしを見た。

「どうしたの、急に」

「二十二歳だよね、結婚したの」

「そうよ。知り合ったのは二十歳。友達の紹介よ?・・・言わなかったっけ?」

「聞いたかもだけど、興味無いから忘れてた」

「まぁっ!」

 母は大袈裟に目を見開いてみせた。

「・・・好きな人でも出来たの?」

「まぁね」

 あたしは今度は箸を使って、お碗の中の豆腐を掴んで口の中に放り込んだ。

「昨日の飲み会?」

「うん」

「どんな人?」

「フリーター。見た目は中村倫也を一般人にした感じ」

「え?」

「何?」

「フリーター?」

「うん・・・ダメかな?」

「ダメって言うか・・・好きなだけなら、いいんじゃないの?」

「好きなだけなら、って?」

「だから・・・付き合うとか結婚は・・・」

 と、その時。

 ブーブー、ブーブー・・・

 ケータイがカウンターテーブルの上で音を立てた。

(絢さん?!)

 期待しながら画面を見た。りりあからの電話だった。少しだけ落胆する。

「もしも~し」

「紅美、おはよー!」

 りりあの声はえらく上機嫌だった。

(好村さんといぃ感じになれたんだろうか?)

 ふと、そう思った。

「おはよ」

「突然だけど・・・今日、カフェれる?」

 その誘いにあたしは(りりあ、好村さんと絶対いぃ事あったんだ)、と確信した。

「うん、カフェれる!」

「じゃ、一時に『珈琲屋』で」

「了解~」

 あたしは電話を切ってから、「今日、りりあと出かける」と母に告げた。


『珈琲屋』とは、母校の高校の近くにあるカフェで、その頃からの行き付けの店だ。

 当時は一番仲良くしていた咲子とよく足を運んでいたが、大学に入ってからはりりあと利用する事が多くなった。

(そう言えば、咲子・・・元気かなぁ・・・)

 咲子とは大学も一緒なので縁が切れたワケではなかったが、学部が違うので会う回数は自ずと減って行った。


 おむすびと味噌汁で軽く朝食を済ませたあたしは、ゆうべお風呂に入らずに眠ってしまった事を思い出し、シャワーを浴びる為に浴室へと向かった。

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