⑥最悪の結末

 と、その時。

「お二人さん?盛り上がってるところ恐縮なんだけど・・・」

 突然、清士朗さんが話し掛けて来た。

「ん?」

「はぃ?」

 あたし達が返事すると、今度は紗世子さんが、「なんか、席替えするらしいよ?男子が左に一個ズレるんだって~」と説明してくれた。

「って事は・・・俺、あっち側に行けばいぃの?」

 絢さんは、右の方を指さした。

「そう。で、俺がそこ」

 清士朗さんが、絢さんの席を指さした。

(えぇ~・・・せっかくいぃところだったのにぃ~~!絢さん!お願いっ!断って!)

「了解~」

 だけど、あたしの祈りも虚しく絢さんは、ジョッキと箸を持って立ち上がった。

「ん、じゃあな!」

 絢さんはあたしに向かって一言残すと、さっさと指定された席に移動した。

 あまりの呆気なさに、あたしは放心状態だった。

(え?・・・あたしの事、好きだって言ったのに・・・あれ、冗談だったの?)

 そこから先の記憶は、あまり無い。

 斜め前に移動して来た悠吾さんの「みどりのおっさん」とか言う小人の話はちょ

 っと興味深かったけれど・・・それ以外の事は、殆ど憶えていなかった。


「えーっと~八時になるんで、そろそろお開きにしようと思いまぁす!・・・で、二次会はカラオケにしようと思いますが、皆さん、どうですかぁー?」

「いいじゃん!行く行くっ!」

 カラオケが趣味だって言ってた紗世子さんが、一番に返事をした。

「紗世子が行くなら、私も参加で」

 次に、麗子さんが胸の前で小さく手を挙げた。

「俺も行く」

 清士朗さんが言うと、「僕も参加で」と好村さんが続いた。

 好村さんの参加を知ったりりあが、「あたしも参加しまーす」と元気よく答える。

「俺はバイトだから、パス」

 絢さんの声が遠くから聞こえて来た。

「え?マジかよぉ~」

 悠吾さんが言う。

 「わっりぃ」

 その瞬間のあたしのテンションは、もうだだ下がりだった。

「あの・・・あたしも用事があるので・・・」

 最後にあたしが答えると、「え~~。紅美、来れないのぉ?」と言いながら、りりあが向こうからあたしと目を合わせて来た。

「ごめん」

「よっし!じゃあ、ノセと紅美ちゃん以外は参加って事で!・・・とりあえず、ここの会費を徴収しまっす!男子六千円、女子二千円です!お釣は二次会に回しまーす」

 あたしは財布から二千円を出して、悠吾さんに渡した。

(・・・終わった。あたしの『春』は高速で終わってしまった・・・)


 狭い階段を、清士朗さんを筆頭に皆で並んで下まで降りた所で、りりあに声を掛けられた。

「紅美が来ないの、残念~」

「ごめんね」

「ま、明日、また連絡するから!」

「うん。りりあは楽しんでねっ!」

 あたしは努めて明るく振舞った。

 すると、「もしかして・・・絢さんが不参加だから?」と、りりあがあたしの耳元で囁いて来た。

「それも、ある・・・かな?」

(それしかないんだけどね・・・)

 苦笑いすると、「どんまい」と返され更に落ち込んでしまった。

 気になって横目で絢さんを探すと、彼は背中を向けてもう既に歩き出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る