➄重なるキモチ
「え?」
「ぇ?」
あたしと絢さんの台詞が被る。
「俺、今から注文すんだけど・・・お兄さん、エスパー?」
店員さんを見上げる絢さんは、目をパシパシさせる。
「いゃ・・・あちらのお客様が注文されまして・・・」
店員さんが悠吾さんの方に目をやった。釣られて、あたしと絢さんもそちらを見やる。彼はノリノリで喋っていて、あたし達の視線には気付いていない様子だった。
「あーねっ!」
絢さんが、店員さんとあたしを交互に見ながら言った。
「こちらのお飲み物でお間違いないでしょうか?」
店員さんが不安そうに絢さんに訊ねた。
「オケオケ!ありがと。後、枝豆よろしく~」
「かしこまりました」
店員が去る。
「ぷっ」
あたしの中で堪えていた笑いが、遂に漏れてしまった。
「何が可笑しいんだよ~」
絢さんが膨れっ面をした。
「めっちゃウケる!『エスパー』って!」
「やっと笑ったな!」
「ぇ?」
「ずっとムッとしてるから、俺、嫌われてんのかと思ってたわ」
絢さんが微笑みながらあたしを見てきたので、また緊張してしまった。
「いゃ・・・寧ろ・・・なんですけど」
「何?」
「・・・です」
「声ちっちゃいんだって~」
「だから!寧ろ、逆なんですってば!」
(ひゃぁ~~っ!どさくさに紛れてあたし、何て事言ってんのよ~~鎮まれ、あたしっ!)
「へっ?」
(どうすんのよ~変な事口走るから、絢さん、変な顔してるじゃないのぉ~)
だけど、回り出したあたしの歯車はお酒の力も手伝って、もはや制御不能だった。
「だから・・・『嫌ってる』、の逆ですっ!」
(きゃーーー!言っちゃったぁ~~!いきなり告っちゃったよぉ~♡)
「それは『好き』って事かな?」
訊かれて顔を上げると、頬杖をついてあたしをみつめる絢さんと目が合ってしまった。反射的に、あたしはまた俯いてしまった。
(絢さん、
だけど、絢さんは容赦なく続ける。
「俺は好きだよ?・・・紅美ちゃんの事」
(ひぃぃぃぃぃいい!何なのこの展開~~~あり得んっしょーーっ!!つか、顔がニヤけるっ!ヤバ過ぎでしょ!)
この動揺を隠す為あたしは、この場に相応しいであろう台詞を、頭をフル回転させて絞り出した。
「・・・少し、酔い過ぎなんじゃないですか?」
ようやく辿り着いた言葉に、自画自賛。なかなかナイスな台詞が出てきたもんだ。
すると、絢さんは、時間が経ったせいでプスプスと穴が空いた泡を乗せたジョッキを持ち上げ、不敵な笑みを向けてきた。
「ん?・・・俺、まだ一口も飲んでねーけど?」
「ぇ?」
(ちょっと待ってぇ~~それって、どーゆー事をぉーー?!)
赤面するのを自覚しつつ、ニヤけも止められない。あたしは、必死で己と闘った。
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