④無礼な男と無表情の女

 絢さんの自己紹介が終わった直後。

「りり、席、替わって!」

 という紗世子さんの声が聞こえてきた。

「あ、いいですよ~」

 フラットな感じで答えているけれど、りりあは今、内心嬉しい筈だと思った。

 紗世子さんと交替すれば、りりあは好村さんの席に近くなる。

 りりあと入れ替わった紗世子さんは、先ずあたしに話しかけて来た。

「突然の誘いにも関わらず参加してくれて、ありがとうね。助かったわ~」 

「いぇ。家にいてもする事ないし・・・逆に、ありがとうございます」

 紗世子さんにそう言われたけれど、お礼を言いたいのは、あたしの方だった。「ん?・・・って事は、人数合わせで呼ばれたの~?」

 絢さんの声が飛んできて、ドキッとした。

「ぁ・・・まぁ・・・」

 ジッとみつめられて、あたしは思わずうつむいてしまった。

「なら、3vs3でやってくれてもよかったのになぁ?」

 顔を上げると、絢さんはあたしに笑い掛けていた。

(それって・・・合コンに参加したくなかったって事?)

 得体の知れない『もやもや』が、あたしを襲う。

「初めまして~紗世子です!」

「ぁ、どーも」

 紗世子さんは清士朗さん狙いでこっちに移動して来たのだろうか?あたしと絢さんの会話を華麗にスルーして、清士朗さんに声を掛ける。

 あたしは、心の中でグッドポーズをした。

「まっ、アブれ者同士、仲良くしようぜ!」

 ずっきゅーーーーん♡

(なになに、何なの~~この展開っ!最高じゃないのぉ~~~♡)

「ぁ・・・はぃ」

 心とはうらはらに冴えない返事をしてしまう自分に、自己嫌悪。

「俺、みんなの自己紹介、聞いてないからさ。同じ事言わせちゃうと思うんだけど・・・名前は?」

「紅美です」

「紅美ちゃんね!・・・何してる人?」

「まだ学生です。三年です」

「学生だったんだぁ~・・・女子は全員学生なの?」

(何で他の人を気にするの・・・?)

 少しだけ哀しくなる。

「いぇ。学生は、あたしとりりあだけです」

「りりあ?可愛い名前だなぁ・・・どの子?」

(やだ!何か、この会話の展開、嫌過ぎる~)

「あたしの隣の隣の子」

「ふぅ~ん」

 絢さんはりりあを見たけど、すぐにあたしに向き直る。

(よかった~りりあには興味無いみたい!)

 気持ちが上がり下がりする自分に、急に可笑しさが込み上げてきた。

「家でする事ないっつってたけど・・・趣味は?」

「ぁ・・・カフェ巡りです」

「そっか。俺、オタクだからねぇ・・・俺ら、相性悪そうだね?」

 絢さんは、目の前の唐揚げを頬張りながら、とても失礼な台詞を口にした。

「え?」

(何、それーーーっ!急に何?!何が言いたいの!)

 心で叫びながらも、あたしは平静を保つ。

「ですね。おうちでゲームやゲームやゲームばかりされてるのなら、あたしとは合わないかもです」

めろー!あたし、めろっ!何言ってんのよ~~そんな事全然思ってない癖にぃ~~~早く取り消せよ!)

 心ではそんな悲鳴を上げながらも、あたしは平気なフリをして酎ハイカルピスをごくごくっと飲んだ。

「紅美ちゃんっておもしれーね!」

「そうですかね?」

「つか、俺、飲み物ねぇじゃんっ!」

「注文されたらどうですか?」

(もっと優しく言いなよ~~何でそんな冷たい言い方すんのよ、あたしぃ~~)

と、その時。

「お待たせしましたぁ~生中なまちゅうで~す」

 タイミング良く絢さんの前に、ビールの入ったジョッキがドンっと置かれた。

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