③一目惚れ
店員に案内されるまま進むと、奥のテーブルに男女の集団が見えた。
「遅れました~」
テーブルに近付いたりりあが誰に言うでもなく口にすると、「いや。遅れてないからー」と、茶髪の、少し派手目の女性が言いながら笑った。見た事あると思ったら、りりあのバンドのボーカルさんだ・・・卒業したから、もう違うかもだけど。
「ま、座りなよ」
真ん中の男性がそう言って、目の前の女子側の空いてる席を指さした。
「あ、はい。失礼しまーす」
りりあがボーカルさんの隣に座ったので、会釈をしながらあたしも隣に腰掛けた。
あたしの前は空席だった。
「ちょっと早いけど・・・とりあえず、飲み物だけ注文しとく?」
先程の男性が、ボーカルさんに訊いた。
(この二人が幹事なのかな~)
なんて思いながら、何気に男性陣を視た。
(うーーん・・・社会人ってのはいいんだけど、何かパッとしないなぁ・・・)
「・・・み?・・・紅美?・・・紅美!」
「え?」
「飲み物。何にする?」
メニューを差し出すりりあに訊かれて、ハッとする。
「ぁ・・・あぁ・・・んーっと・・・じゃあ・・・酎ハイカルピスで」
メニューを見ながら、だけど、あたしは無難にいつものを頼んだ。
「紅美、いっつもそれじゃ~ん。偶には違うのも飲んでみなよ~」
りりあにそう言われて、もう一度メニューを覗き込んだ。
「んー・・・」
迷っていると、「ま、いいじゃん。お代わりで別の物頼んでもいいんだし」と、あたしの斜め前の男性が助け船を出してくれた。
十八時になったと同時くらいに、飲み物が運ばれて来た。
だけど、あたしの前は未だ空席だった。
「えー。約一名がまだ来てないんだけど、時間が来たので始めまーす」
真ん中の男性が音頭を取り、乾杯をした。
「ではでは・・・まずは自己紹介から。俺から左回りで!」
(え~~自己紹介とか、めっちゃ苦手なんだけど・・・やだなぁ・・・)
そんな事を思っている間に、それは有無を言わさず開始されてしまった。
「
「その『大手』っての、要る?」
ボーカルさんが素早くツッコむ。
「要るっしょ!あっはっは!」
悠吾さんは高らかに笑った。
「えーっと。
「
自己紹介は、つつがなく進んでいった。
「
「りりあです。大学三年で心理学部です。サークルは軽音でギター担当・・・趣味もギターです」
(次はあたしだ・・・落ち着け、落ち着け・・・)
「えっと・・・く、紅美です。大学三年、心理学部。カフェ巡りが好きです。」
「
「はいっ!って事で、一応自己紹介済んだんで、後はテキトーにやって下さーい!料理は店側にお任せしてるけど、欲しい物あれば各自で追加注文して下さい!」
悠吾さんが仕切る。
(んー・・・全員そこそこ格好いいんだけど・・・なんだかなぁ・・・)
そんな事を思っていると、りりあが耳元で「あたし、好村さん」って囁いて来た。
「そうなの?・・・あたし、今日も全滅かも」
別の意味で、あたしも小声になる。
と、その時。
「わっりぃ~~遅れたぁー」
その場の空気にそぐわない、ボサボサ頭のヨレシャツ男があたし達の空間に
「ノセ~~遅過ぎだぞ~!もう自己紹介、終わったしっ!」
きっと仲が良いのだろう。悠吾さんが冗談っぽく文句を言った。
「ぇ?自己紹介?メンドクセ~」
そう言いながらノセと呼ばれたその男は、あたしの前の空席に腰掛けた。
「えー。名前は、
すると、隣の清士朗さんが「趣味とか?」って答えた。
「あぁ・・・趣味はゲームとゲームとゲームっ!」
「おっまえ、ゲーム三昧じゃん~」
悠吾さんがツッコンだ。皆が一斉に笑う。
だけど、あたしだけは笑わなかった。というか、笑えなかった。というか、それどころではなかった。
「どうしたの?」
皆が笑っているのに一人だけ無言のあたしに気付き、りりあが声を掛けて来た。
「りりあ・・・あたし、ヤバいかも」
りりあの耳元で囁くと、「え?・・・具合でも悪いの?」と心配そうに彼女があたしを覗き込んで来た。
「好きかも」
「ぇ?」
「絢さん」
「え?!・・・マジ?!」
飛び出しそうな眼をして驚くりりあに、あたしは目をハートにして頷いた。
大学に入って丸二年。
めっきり恋に縁遠かったあたしにも、ようやく「春」がやって来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます