②待ち合わせ

 合コン当日の土曜日の夕方。

 あたしとりりあは、少し早目に落ち合った。

 市駅の少し外れに、小さな公園がある。遊具はブランコに滑り台だけで、形ばかりの砂場がある。そこはきっと野良猫のトイレになっている、と想像される。後は、かすれた木の素材の二人掛けのベンチが二基、離れて置かれている。ベンチの片方には六十半ばくらいの小汚い恰好をしたおじさんが寝そべっていて、もう片方にはお洒落をしたりりあが座っていた。公園には、他に誰もいなかった。

 りりあをみつけたあたしは、彼女に手を振りながら小走りで近付いた。

「ごめん!・・・待った?」

「ううん。あたしも、今、来たとこよ~」

「つか、りりあ、めっちゃ気合い入ってるじゃん!」

「当ったり前じゃないの~・・・って、紅美もいつもと違うじゃん!」

 りりあは笑った。

 あたしは、りりあの隣に腰を下ろした。

「ところでさぁ。今日の女子メンバー、あたしの知らない人達って言ってたけど・・・りりあとはどういう関係なの?」

「軽音部の先輩だよ~もう卒業しちゃったけど!」

「え?・・・タメじゃないの?!」

「二人共、あたし達より二つ上だよ?」

「二つ?・・・社会人?」

「今年からね~」

「それ、早く言ってよぉ~~」

「言ったら、紅美、合コン断るかも知んないじゃん?」

 りりあはもう一度、笑った。

「男子メンバー、会社員って事以外に何か判ってる事あるの?」

 あたしは、質問の矛先を変えた。どちらかというと、こちらの方が大事である。

「んー・・・三人は、同じ会社の先輩後輩らしい」

「・・・もう一人は?」

「元々は、同じ会社の四人が来る予定だったんだけど。向こうも一枠空きが出ちゃったみたいでね~・・・幹事が知り合いに声を掛けたらしい」

「判ってる事、それだけ?」

「うん。あたしが聞いてるのは、それだけ」

「で・・・ライバルは、大人の女性、って事・・・だよね?」

「・・・だね」

「それ、絶対勝ち目ないヤツじゃーーん」

 あたしは大袈裟に項垂うなだれた。

「それなっ!」

 りりあはあたしを指さした。

「少し早いけど・・・そろそろ行く?」

 りりあは、もうひとつのベンチを見ながら提案してきた。

 確かに、そこにいる物体が非常に気になる。

「そうだね・・・移動、しよっか」


 公園を出て暫く歩くと、信号がある。その信号を渡り、アーケードに入る。そこから二、三分程歩いた所にある本屋を左に曲がると、裏通りに出る。かれこれ十分は歩いただろうか。三階の壁から『月下美人』と看板が突き出ているビルが見えてきた。

 ケータイで時間を確認する。十八時迄、後二十分もある。すごく中途半端な時間に着いてしまった。

「ちょっと先輩に連絡してみるね」

「ぁ、うん」

 てっきり文字を打つのかと思っていたら、電話の方だった。

「あっ、紗世さよ先輩!お疲れ様です!今、どこですかぁ?・・・え?マジですか?・・・はい、店の前です・・・はい・・・わかりましたぁ~」

 電話を切ったりりあは、あたしに困り顔をして見せた。

「何て?」

「なんか、もう勢揃いしてるっぽぃ」

「えーーー?!」

「とりあえず、入ろっ」

「ぅん」

 暗くて狭い階段を、あたしはりりあの後に付き三階まで上がった。

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