ゴリラ人形

希見 誠

第1話

 初めて見たときのことは絶対に忘れないよ。雷に打たれたかと思っちゃった。

 いつものように、リビングのソファにぼんやりともたれて、テレビを見ていたの。

 そしたらアニメが始まった。

『魔法少女ミラクル☆ハニー』

 最初はよくある子供向けの番組だと思っていたわ。

 きっとよくわからない悪の組織が世界制服を企んでいて、ハニーって女の子が変身して魔法でやっつけるやつだ。

 でも、私の目はすぐにテレビに釘付けになってしまったの。

「ハニー様…」

 なんてかっこいいのかしら。

 設定やストーリーは私の予想通りだったけど、主人公のキャラクターにハートを撃ち抜かれちゃった。

 その日から、私の推し活人生が始まったの。

 寝ても覚めてもハニーのことばかり考えてしまう。

 時間が経つのがもどかしい。早く毎週の放映時間が来ないかな。待ち遠しくてたまらないわ。

 私もハニーのようになりたい。あんな風に綺麗でかわいくてかっこよくなりたい。

 だから私は、みんなが寝静まったあとに毎晩少しずつ夜鍋をして、ハニーのコスプレ衣装を作ったの。

 髪が伸びるのを待って、ハニーと同じ髪型にした。黒い髪をピンクに染める。

 目の色を変えて、無駄毛を剃って、肌の色までハニーそっくりにした。

 ハニーの決めポーズをして、決めゼリフを練習する。

 もう、どっからどう見てもハニーそっくり。生まれたときの私はもういない。私はハニーよ。

「ねえ、ママ。娘の誕生日プレゼントだけど」

「何、パパ?」

「確かミラクル☆ハニーの人形が欲しいって言ってたよね」

「ええ、それがどうしたの?」

「君、もう買ってきた?」

「今度の日曜にあの子をおばあちゃんの家に預けてから、一緒にデパートに行く予定だったでしょ?」

「僕もそのつもりだったんだけど、ねえ、なんでリビングのソファにハニーの人形が座ってるのかな」

「え?」

「それと、ここにあったゴリラの人形はどうした?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴリラ人形 希見 誠 @warabizenzai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ