素直なヒーローとツンデレ異世界人【エピソード1】
双瀬桔梗
女子高生ヒーローは可愛い敵幹部を激推ししたい
「レジーナ姫は今日も可愛いッス! とっても可憐ッス〜」
「貴方ねぇ……今は戦闘中ですのよっ!」
丈の長い漆黒のドレスを身に纏った少女は、二丁の銃でゴム弾を撃ち込みながら叫んだ。それを黄色いパワードスーツに身を包んだ女子高生は、ハンマーで打ち落とす。
「今の撃ち方、すごくカッコよかったッス!」
女子高生ヒーロー・スナオイエローこと
「いい加減、その恥ずかしいうちわを仕舞いなさい!」
少女は弾を打ち落されたことよりも、ミナが持っているうちわに対して怒りをあらわにする。顔を真っ赤にしてミナを睨みつけるが、怒られている
異世界人『ツン・デーレ
異世界から世界征服(本当は友達作り)にやってきた、ツン・デーレ
それゆえミナは戦闘中であろうと、レジーナが二丁の拳銃で放つゴム弾を、避けたり打ち落としたりしながら、彼女に声援を送る。ミナからレジーナに攻撃することは一切なく、くるくる舞うように戦うレジーナをひたすら応援し続けるのだ。
ちなみにスナオズの
「レジーナ様! もう限界です! 撤退のご指示を!」
戦闘員の一人がヨロヨロとレジーナの元にやってきて、指示を仰ぐ。レジーナは(体力の限界で)倒れている怪人と戦闘員達を見渡し、ハッと冷静になる。
「分かりましたわ。皆様、撤退しますわよ! スナオズ……いいえ、スナオイエロー! 今日のところはこのへんにして差し上げますわ! 次こそは……とも…………貴方を倒してみせます!」
レジーナは
「ちょっと待ってくださいッス!」
「……なんですの?」
横たわっているウサギ型の怪人に手を貸し、ジェット機に乗り込もうとしたところで、ミナに声をかけられ、レジーナは嫌な予感がしつつも振り向いた。
「あの、もしよければグッズを作ってくださいッス! ジブン、レジーナ姫のグッズがほしいッス! いい値で買うのでお願いします!」
レジーナは最初、何を言われたのか分からず、ぽかんとした。しかし、頭の中でミナの言葉を復唱することで、意味を理解したレジーナはぷるぷると震え出す。
「
「レジーナ様! 落ち着いて下さい! ここはひとまず退きますよ!」
今までにないくらい激怒なレジーナをウサギ怪人は宥めながら、半ば無理やりジェット機に乗せる。
ミナは去っていく
スナオズの本拠地『オネスト』休憩室。
「怒られたッス……
「ミーちゃん、大丈夫? よしよし」
机に突っ伏し、ショボンとするミナの
「しえり
「レジーナを怒らせてるのはいつものことだろ? 悪いと思ってるなら次会った時に謝ればいいんじゃないか? レジーナならきっと許してくれると思うぞ!」
スナオズのリーダー・スナオレッドこと
「あの怒り方はいつもと違うんスよ〜なんていうか、普段は照れ隠しに怒ってる感じなんスけど、今日のはガチ怒りだったんス! はぁー……やっぱ厚かましがったッスよね……
「姫は別にミナチャンが厚かましいから怒った訳やないと思うで。あれは多分、ミナチャンにバカにされたと勘違いしたんやわ」
メンバー内最年長のスナオブルーこと
「オレも
スナオホワイトこと
ミナは少しの間だけ無言になった後、ポニーテールが大きく揺れるくらい、勢いよくガバっと顔を上げた。
「そうッスね……誤解されてるなら誤解を解いて、きちんとレジーナ姫に謝るッス!」
ミナは「皆さん、ありがとうございます!」と元気よくお礼を言った。そんなミナを見て、四人はホッとしたように微笑んだ。
次にレジーナがやってきたら絶対に謝ろう。
そう思っていたミナの前に、思いがけない形で、レジーナは現れた。
「メイド喫茶『ハウラー』です。よろしくおねが……」
「レジーナ姫ッスよね……?」
秋葉原にアニメグッズを買いに来ていたミナは、眼鏡をかけメイド服に身を包んだレジーナを見て固まった。一方レジーナは
しばらく口をパクパクさせていたレジーナだったが、恥ずかしさと、ミナに対するいろんな感情が爆発して、泣き出してしまった。
「ごめんなさいッス!」
レジーナと一緒にビラを配っていた先輩メイドのはからいで、二人は近くの公園のベンチに座っていた。ミナはオロオロしながらレジーナが泣き止むのを待ち、彼女が落ち着いたタイミングで立ち上がり、バッと頭を下げる。
「別に、
「その、前にジブン、レジーナ姫を怒らせたじゃないッスか。だからレジーナ姫に会ったら、謝ろうってずっと思ってて。本当にごめんなさいッス! でも、レジーナ姫のこと大好きなのはホントッス! グッズが欲しいというのも本音ッス! バカにしたつもりは全くないんです。好きって気持ちに嘘偽はないって、胸を張って言えます。レジーナ姫、大好きッス。あなたのこと、ずっと推していたい、本当に大好きッス!!」
ミナはレジーナの目を真っ直ぐ見つめ、誠心誠意自分の想いを伝える。
「……貴方は、何も悪くないですわ……
レジーナは一度、目を逸らし俯いたものの、意を決したように顔を上げ、初めてミナの前で本音を口にした。ミナはレジーナの意外な言葉に驚いたものの、恐る恐る「ジブンのこと、許してくれるんスか……?」と問いかける。
「許すも何も、八つ当たりと言ったでしょう。寧ろ、許しを請うのは
「ジブンはレジーナ姫に怒ってないッスよ? それなのに、許すとか許さないとか、ジブンなんかが決めるなんて恐れ多いッス!」
「ふふっ……貴方ってどこまでも
レジーナは今まで見せたことのない柔らかな表情で、ミナに微笑みかける。
「かわいい……笑った顔も鬼かわいいッス!」
ミナはこれでもかっていうほど緩みきった顔で、デレデレしている。そんな彼女を見て、照れくささがMAXまで到達したレジーナは、いつものようにツンとした真っ赤な顔で「可愛くないですわ!」と叫んだ。
レジーナのグッズの件だが、
“勘違いしないで下さるかしら。これは貴方の為ではなく、あくまで御父様のお心遣いを無碍にはしたくなかっただけですわ”
グッズと一緒に届いた手紙に書かれていた、ツンデレな
「素敵なグッズありがとうございます! でもタダでもらう訳にはいかないッス! お金を払わせて下さいッス! せめて製作にかかった費用だけでも!」
「費用はかかってませんので結構ですわ! これは
こんなやり取りを二・三した後に、“グッズ代のかわりに、レジーナが働いているメイド喫茶の常連になる”という、ミナにとっては得しかない条件をレジーナが強引に押し付けたことで、『スナオイエロー、ツン・デーレ襲撃? 事件』は幕を閉じたのであった。
その後、ミナはレイナ(レジーナの源氏名)とチェキを撮ることを目標にメイド喫茶『ハウラー』に通い続け、ツン・デーレとの戦闘時ではレジーナに怒られながらも変わらず彼女に声援を送り続けている。
【樹乃川ミナ 視点 完】
素直なヒーローとツンデレ異世界人【エピソード1】 双瀬桔梗 @hutasekikyo_mozikaki
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