第6話 巣穴掃討作戦

窪地に到着すると三人は荷を下ろし準備に係る。窪地は入口から30m程の所にあり、木の隙間から入口前の様子がどうにか観察できた。ミリーアとシャルが少し移動して弓持ちの位置を確認する。


弓を持ったゴブリンが入口の上に生えている左右2本の木に簡単な櫓を組んで何となく見張りをしている。何となくと言うのは、見張りと言うよりは遠くの景色を見ている様に見えるからだ。しかも1体は少し眠そうだ。多分あまり脅威が来る事がないのだろう。


二人がひそひそと話をする。

「周りの木も邪魔でなかなか厄介な所にいるわね。窪地からは櫓の端しか見えなかったわ。」

「そうなんだよな。でも上から狙われるのは勘弁だから何とか頼むぜ。」

入口付近では槍持ちが入口の付近で槍を支えの様に立っており、ショートソード持ちが前衛を務めていた。それを確認してミリーアがシャルに悩まし気な顔を向ける。

「なんにせよ、やるしかない。準備しましょ。」


二人はある程度身を隠せてできるだけ巣穴に近い場所を探し、そこを作戦の開始場所とした。2人で窪地に戻ると、ミリーアが麻袋からいくつか道具を取り出す。一抱えもありそうな古布が巻かれた塊4つ、リンゴより二回りほど大きな炸裂玉が2つ、矢が5本。


「炸裂玉があったのはラッキーだったわ。」

独り言を言いながら炸裂玉をミリーアの腰裏のサイドパックに納める。さらに3本の矢を取って腰ベルトにはさむ。それ以外を手に持って窪地から櫓近くの作戦開始場所へと移動し、手に持っていた物を地面に落とした。


シャルとエドもそれぞれ不要な荷物を置いてミリーアの近くに移動し、武器を構える。エドはアックスの尖った柄尻を前に突き出し、刃を抱える様に持っている。重心を体に移し走りやすい体勢にする工夫だ。シャルも走りやすい様に剣を逆手に構えると、巣穴に戻るゴブリンがいないか背後を警戒する。


「準備オッケーね。」

そう言うとミリーアは全員に強化魔法を掛けるために呪文を唱える。それが終わるとイリュージョンクラフトの呪文を唱え、手から二頭の薄く光る蝶を作り出す。蝶は手から離れ弓持ちゴブリンの居る櫓の方へと羽ばたき飛んで行った。


蝶がそれぞれの櫓に居るゴブリンの近くを漂うと、ゴブリンは光る蝶をもっと観察しようと櫓の端まで顔を出した。

(今だ!マジックショット!)


ミリーアが小さくつぶやき素早く呪文を唱えると今まで地面に転がっていた矢が二本、凄い勢いでそれぞれゴブリンに向かって飛んで行く。矢の操作に集中しながら更に蝶を少し上に移動する。ゴブリンがそれを追う様に顔を上げると見事に顎から後頭部を突き抜ける様に矢が刺さる。


「ぎ、ぎゃ。」

突然の事に彼らには何が起きたのかも解らなかったに違いない。1体は櫓に座り込み絶命し、もう1体は櫓からズルりと下の茂みにガサリと落ちた。その音に入口付近のゴブリン達がそちらに顔を向ける。


「Go!」

ミリーアが入口に向かって左手を短く振り号令をかけるとエドとシャルが一気に走り出す。それを確認し、ミリーアはふぅと一息ついてから杖を脇に挟む。そして塊についている紐を4本掴んで後ろからブツブツ言いながら小走りで追いかける。

「あ~これ。地味に重い~。」


先頭を行くエドは足場が悪く最大速度で移動はできない。それでも一番盆地寄りのゴブリンが近づく気配に気付いた時には既にその手前に到着していた。エドは盾でそのゴブリンを跳ね除け、入り口の奥でまだ櫓を見ている槍持ちを後ろからアックスの柄尻で串刺しにする。


直ぐ後ろを駆けていたシャルが剣を突き立てる様に持ち替え、突然の出来事に呆然とエドを見ているショートソード持ちをあっという間に始末する。そして素早く剣を引き抜くと、先ほどエドの盾に跳ねられて起き上がろうとしているもう一体の首を跳ね飛ばす。


最後の見張りの槍持ちが慌てて立てていた槍を構えようとするが、槍を下ろす前にエドの盾で止められ、振り下ろされたアックスで頭をかち割られた。

エドはアックスに引っかかっているゴブリンを振り払う様にして壁に寄せると、巣穴の前に盾を構えて陣取り、次の敵を待つ。


周りにいたゴブリーナと子供達が騒ぎ始めるがシャルが剣を振って散らす。ゴブリン達は慌てて森の中へと逃げていく。

シャルがエドの背後とミリーアのルートを確保しながら周りに警戒をしているとミリーアが到着する。


「お待たせ。動きないみたいね?じゃ。」

そう言うと持っていた塊をエドの右後ろにゴロリと転がす。続いて呪文を唱えるとその塊に火が付き酷い匂いの煙を出し始める。


この塊はゴブリン燻りだし用に作ってもらった煙幕である。古布の中には薪に畑に撒く堆肥を吸った藁がたっぷり巻いてあり火が付くと酷い匂いのする煙が出てくるという代物なのである。


「エド、道開けて。」

エドが半身をずらすと藁が次々とマジックショットで勢い良く巣穴に吸い込まれていく。それを見届けると止めていた息を一気に吐き出してシャルの後ろにまで下がる。


エドとシャルも煙が掛からない様に入口から少し距離を置いて待つと、煙と共にゴブリン達がぞろぞろと出てくる。全員が全員目から涙を流し、口を覆う様にして走ってくる。煙幕の効果は絶大だったらしい。


二人はその中から鎧を着けているゴブリンを見つけ出しては切りかかる。遂にはエドは盾を捨て、空いた手で死体を後ろに放って、倒しやすい様に場所を開けながら戦いを続ける。いや、戦いと言うよりは一方的な殺りくである。巣穴から逃げまどい出て行った先では凶刃が待ち受けている。内も外も悲鳴が聞こえ阿鼻叫喚である。


「なんていうか、いつ見ても凄惨だわ。」

段々積みあがるゴブリンを見てミリーアが顔を顰めて呟く。

「しゃーねーだろ!巣穴やるときゃいつもこんなもんだ。」

飛び掛かってくるゴブリンを切り落としながらシャルが応える。


鎧を着たゴブリンが一匹、入口をよじ登り逃げようとしているのを見つけ、ミリーアがベルトに挟んだ矢を抜き取り投げつける。矢は一直線に飛んで行き、過たずゴブリンの頸部を貫き絶命させる。


そのうち周りに見逃されていたゴブリーナと子供達が集まり、石を投げつけてきたため、これも風の魔法で投げ返す。ゴブリーナ達が子供を庇いながら悲鳴を上げる。さらに突風で追い立てるとちりぢりに山へと逃げ出した。大凡30体近くは倒しただろうか、もはやゴブリンは出てこない。


仕上げに係るためミリーアは再度巣穴に近づいていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る