続々、乙女ゲームの世界に転生しましたが、平和が一番です!ー

鴎 みい

第1話

 構えて臨んだ日曜日は、呆気なく、肩透かしを食らうほど平和に終わった。

簡単に言えば、仲の良い友達同士で行く映画、そのままの感じ。

 うちの学校だけではなく近隣の学校からも人気のある先輩だから、そのファンに見つかったら今後色々と面倒だと思って学校から電車で一時間ほどかかる場所を選んだのだけど、それが結果的に良かったのかもしれない。

打ち合わせの時に、選んだ映画館の場所が遠い事に対して難色を示してくれたら、それを理由に断ろうと思っていたのに。

 でも返ってきたのは同意で、しかも映画館のある駅で待ち合わせしましょうと提案をしてくれた。

本当は先輩も行きたかったわけではなかったのでは?と思って、質問しようとしたらその理由を教えてくれたけれども。

 そんな感じで私が危惧した事も起こらず、映画もハラハラドキドキな冒険ものを観て感想を言い合って。

最後に和やかにカフェでお茶をして、同じように待ち合わせをした駅前で別れて帰宅したという、本当にあれだけ拒否した私はなんだったんだろう?というぐらい普通だった。

 世界強制力が……。

なんて変に考えすぎたのかもしれない。だって私モブだし。うん。モブだし!

大事な事なので繰り返しました。

 イベント的な事がモブ相手に起こるわけがないよね、普通に考えれば分かる事だった。

自分を主役と勘違いしてイベントが起こるなんて考えるとは、恥ずかしすぎる。

 ううっ、これは間違いなく黒歴史入りだよ。

この事が誰にも知られていない事だけが唯一の救いだけど、それでもダメージが大きすぎる……。

自爆なんだけど、自爆なんだけど……っ!!

 心の中ではあまりのダメージにのた打ち回りつつ、表面上は普段と変わらないようにしていたんだけど、何故か弟に心配されてしまった。

 まさか、ダダ漏れ!?

私のこの恥ずかしさのあまり、転げまわりたい気持ちが滲み出てきたの!?

そう思ってさり気なく弟に聞いてみたけれど、そういうわけではなく、何となくいつもと違うから心配になって声をかけただけだと言われてホッとした。

 何か心配事があれば何時でも力になるから、溜め込まずに言ってほしいと何故か凄く真剣な顔で言われた事がとても居た堪れなかったけれど、それでも何とか動揺せずに何かあったら相談をさせてもらうねと返事が出来た自分は上出来だったと思う。

 まぁ、その返事をした後は即刻自分の部屋へと逃げたけど。

ついでにそのままベッドに突っ伏したけれど……。

 ウーウーと唸りながら、一人ベッドで悶えている姿を見られなくて本当に良かった。

空気を読んだのか、部屋に来なかった弟に感謝しなくちゃね。

こんな姿を見られたら絶対に、質問攻めにされるの分かっているし。

その質問をはぐらかす事はきっと私には出来ないから。 

 その後何とか自分の心を落ち着けて、普段通りに振る舞う事が出来るようになったからいつもと変わらない月曜日が始まると思っていたんだけれど……。


──それはいつもと変わらない朝を迎えて登校し、授業を受けた後のお昼休みの時の事。


 何時もの様に愛瑠ちゃんと一緒にお昼ご飯を食べていた。

変わった事と言えば、場所が屋上だったという事。

 普段は中庭を利用する事が多いのだけれど、たまに愛瑠ちゃんの気分次第で場所を変える事がある。

私は別段、食べる場所にこだわりはない。楽しく食べられればそれでいいから。

だから彼女が場所を変えたいと言えばそれに素直に頷き、その場所に行くんだけれど今回は場所を言ってくれなかったので彼女の後を着いて行ったら、まさかの屋上だった事にちょとビックリした。


──実はこの学校、屋上は基本的に開放されていない。

 フェンスがあるとはいえ、何か事故があれば大変だという事で。

まぁ、学校側の事情も分かるし、それ対して私は不満を持ってはいない。

一部の生徒は違うみたいだけれどね。

そんな基本的に開放されていない屋上に連れられて来たら、驚くのは当たり前だよね?


「ふふっ。ビックリしたでしょ」


 言葉が出ない為コクコクと頷くだけの私に、悪戯が成功したと言わんばかりの笑みを浮かべながら、愛瑠ちゃんは迷いもなく進む。

 初めて此処へ来たけれど、開放されていないはずの屋上は思った以上に綺麗だった。

それは定期的に人の手が入っているという事。


「はーい。此処に座るわよ」


 そのまま思考に没頭しそうになるのを、愛瑠ちゃんの声で中断する。

 開放されていない場所なので勿論ベンチ等がある筈もなく、地べたにそのまま座るしかない。

思った以上に綺麗だからと言って野ざらしな場所だ。流石にそのまま座ると制服が汚れてしまうのは間違いない。

とりあえずハンカチでも敷いておくしかないかな。

そう思っていたんだけれど、どこから持ってきたのか、気が付くと愛瑠ちゃんがレジャーシートを敷いていた。

 いやほんと、愛瑠ちゃん、どこからそのシートを持ってきたの?

教室からは、お弁当の袋しか持ってきてなかったよね?

しかもおまけにクッションまで用意されているのですが。


「ほらほら! 何を呆けているの。さっさと座るわよ!」


 私の追及を避ける為なのか、強引にクッションへと座らせる。


「やっぱりさ、下がコンクリートだと冷えちゃうじゃない? クッションがあって正解だよね」


 私の追及を避けたのではなく、たまたま?


「時間もあまりないし、早く食べよう!」

「ねぇ、そのクッションどこから……」

「早く食べないと、食べる時間がなくなるよ!」

「ああ、うん……」


 結局追及はさせてもらえないみたい。

上手くはぐらかされたというわけではなく、単純にお腹が減っただけ?

 なんとなく釈然としないけれど、時間は有限だもんね。

食べ終わった後の移動時間も考慮しないといけないから、確かに早くご飯を食べないといけない。


「あっ! 玉子焼き頂戴ね!」

「うん。いいよ」


 そんな会話をしながら何時もと同じようにお弁当を食べてお昼を過ごしていた筈なのに、いきなり愛瑠ちゃんから爆弾を投下された。


「もう気が付いてるかもしれないけれど、私、ここの理事長の姪なのよ」


 ああ、そういえばゲームで玖芝愛瑠はこの学校の理事長の姪という設定あったなぁ……って!?

思わず最後まで咀嚼できていないコロッケをそのまま飲み込んでしまった。

他の物なら間違いなく喉を詰まらせるところだったよっ!

 じゃなくて、なぜこのタイミングでカミングアウト!?

本当の本当にいきなりすぎない!!

 知っていたと言えば知っていたけどそれは乙女ゲームの設定で知っていただけで、しかも主人公との友情エンドにて初めて分かる事だよ!?

 それをどうして私にカミングアウト!?

しかも気付いているって……。

 普段その事をひた隠しにしているのに、どうして私が気付く事が出来ると思うの!?

少なくとも私は、知っているなんて素振りをした事はない筈。

それに、ゲームの設定がそのままこの世界で反映されているわけじゃないという事を知っているから。

だからどうして愛瑠ちゃんがその様に思ったのかが分からない。


「あれ? 知らなかった?」


 だからどうして不思議そうに首を傾げるの!?


「んー……。まぁいっか。

 私が理事長の姪だから、今回屋上の鍵を借りる事が出来たんだけど……」


 いや、そんなカミングアウトいらないからね!

私は当たり障りなく生活できて、この学校を卒業出来れば十分なので、ほんと乙女ゲームのシナリオに巻き込まれるのとか望んでないの!

 私はあまりの衝撃で、話し続ける愛瑠ちゃんをただ見つめるだけしか出来なかった。

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続々、乙女ゲームの世界に転生しましたが、平和が一番です!ー 鴎 みい @haru0u0-ki

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