愛しの推しの為に。

燈樹

愛しの推しの為に。

 



「尊い、マジで尊い。これで今週も生きていられるご馳走様です」


 齢二十を超えてもなを週刊少年誌を読むなんてと両親には言われるが、それとこれは別。

 愛しの推しがいる事で私達オタクは今日も健気に生きていれるのである。


 この道に進んではや十年は過ぎていたが、私は数々の作品の中に自分の推しを見出した。押し活をする人間の中には一作品の一人しか推せない人もいれば、複数押すものや旬ごとに推しが変わるヤツもいる。

 どちらかといえば私は複数の作品のキャラを推しているが、どの子も推せるので浮気ではない。

 推しが尊いのがいけないのである。


 それはともあれ私は何を隠そうオタクだ。時折薔薇や百合も尊ぶオタクでもある。

 高校を卒業して社会人になってからは、給料の半分は推しに貢いだと言っても過言ではない。漫画は発売日に購入し、DVDも勿論ゲット。グッズが出れば系列店を梯子し、イメージカラーが固まれば、衣類や小物は大体その色に染まる。

 それがオタクというものでもあるのだ。


 だがしかし、それ故に困った現象にも行き渡るわけで。

 何度も言うか私はオタクだ。十代の頃からオタクであったのだ。周りの同級生達がメイクやファッションに気を使い始めていた頃、残念なことに私のお小遣いはほぼ推しへと貢がれていた。言い訳にしか聞こえないであろうが、私は世間の目を気にしな過ぎていたのである。


 故に高校を卒業し社会に出てみれば、当たり前のように女はメイクしてなんぼの世界。ノーメイクなんて冷ややかな目で見られてしまう。

 どうして化粧の仕方もわからないの?なんてなじられるのも当たり前で、同期の可愛い子と比べるハゲ上司もいたものだ。

 そりゃあオタ活に勤しんでいた私も悪かったと思うが、じゃあ校則でメイク禁止なんてするんじゃねぇ、むしろ授業に入れろと叫びたい。


 つまり何が言いたいのかといえば、私はオタ活のしすぎで女として求められているものに背を向け過ぎていたのだ。

 勿論同志の中にはメイクが上手くそれこそコスプレイヤーになったものもいるし、オタ活全てが悪い訳ではないのは分かっている。

 しかしながら今更メイクなんてどうすればいいのだと友人に愚痴ったものだ。


 けれどもこの悩みも尊き推し様のお陰で解決するならびとなった。

 何故かって?

 コラボ品が出たからだ。一番くじで、メイク用品が。


 日頃手に取っていなかったメイク用品でもそれが推しが具現化されたものならば買わない手はないやらない手はない。

 ロット買いするつもりで貯金も崩した。結果、手元には推しがプリントされた化粧品の山が出来上がったわけである。


「おぅふ。これはどうしたら……?」


 そうなって私は初めて気づいたのだ。

 推しは尊いが、メイクができない消費もできない。飾るだけでも十分いいが、できることなら推しが描かれたメイク品を使ってみたいという新たな欲の出現に。


 私はは悩んだ、このままでいいのかと。

 もしかしたらこれは尊き推しのお導きなのではないかと。


 そこからの行動早かった。

 仲良しのレイヤーさんに声をかけメイクを教わり、メイクに似合うファッションの研究。すると推しカラーの衣類を購入する気にもなる。しかしながら可愛い服はサイズが合わないことが発生し、そこから怒涛のダイエット。

 その頃には推しを推していて恥ずかしくない自分に!と志もなってきていた。


 最初こそクソダサいオタク女子だった私は見事に垢抜けに成功し、今は推しのイメージされた公式香水までもつける毎日である。


「尊い、マジ尊い。え、今度コラボ腕時計が……? 四万? 安い安い」


 ポチッと予約ボタンを押してカード番号入力。

 きっとこれで公式様も潤うはず。


「──この時計、かっこいい感じだよね? 今のファッションとメイクには似合わないなぁ。よし! 似合う女になろう!」


 私は今日も推しに見合う女になる為走り出す。

 尊い彼の方の為ならば、私はいくらでも変わって見せますと決意して。



 誰がどう言おうと、これが愛しの推しに貢ぐ私の推し方である。




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愛しの推しの為に。 燈樹 @TOKI10

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