第7話 私が悪役令嬢だなんて、酷すぎる。

 まぁまぁまぁと上級生のお2方に、同級生の私がよく諌めますので落ち着いてくださいとお願いすると、酷い事言われましたのに、やはり聖なる精霊姫は違いますわ。お願いいたしますわね。と言って去っていった。


 フゥッ。

 お節介だったかしらとは思ったけれど、見てしまったからにはそのまま放って置くわけにはいかないものね。でも、それは直ぐに後悔へと変わったのだった。



「えー!!悪役令嬢が精霊姫??何で原作ストーリーと違っているの?訳わかんないわ!!それにさっきの囲い込みイベントは悪役令嬢が起こすんでしょ?何でモブにやらせているわけぇ?」


 余りに勢い良くて、同じ人種とは思えない彼女の意味のわからない話に、足取り追いついたユリアンナやポーシャもわからないわと首を振るばかりだった。やらせているって、私が何をさせたっていうのよ!



「原作でもゲーム設定でもないなら、ここは何の世界観だろ?……ま、キャラに言っても仕方ないわね。」


 フムフム1人ごちて、何かを納得したらしい彼女は同じ勢いのまま私達に話しかけてきた。



「取り敢えずあんた達何やってたの?」



 明日の試験の練習をしていたという話をした筈なのに、どういう訳なんだか、気がつくと彼女に手首を掴まれて「あたしもやる!」と森の奥にずんずんと連れていかれてしまったのだ!



「ち、ちょっとお待ちになって、ユリアンナ達が追いついていませんわ。」


 私はグイッと強引に手首を引き上げ、掴まれた腕を離させた。乱暴にも程があるわ。掴まれていた手首は赤く痣が出来ていた。



「え??ゴメン。それにしても、柔な肌だね。」


 悪びれなく謝る彼女に困惑しつつも、話しかけた。



「私の名はミアベル・クリスタル侯爵令嬢ですわ。あなたは確かお隣のクラスメイトですわね。お名前をお聞きしても宜しくて?」



 よく知らない人には令嬢モードで話しかけるしかない。敵か味方か分からない人には、礼節を持った態度で防御しなさいと父に言われていたからだ。



「アレ?言ってなかった?…ってか、悪役令嬢なのに、ヒロインのあたしの事を知らないの?」


 これには流石の私も頭にきた。


「もう!さっきから、悪役令嬢、悪役令嬢って一体何ですの!そんなクラス劇に出た事は今まで一度もなくってよ!!それに自分を知らない人がこの世に居ない程の人気者だなんて、随分と自惚が強い方なのね。」



 つい、威圧魔法が出てしまい、この後、彼女にスゴいスゴいと囃し立てられ、イライラが絶好調となった。威圧魔法が最大限になった所で、冷や汗タラタラの彼女は漸く大人しく謝ってくれた。



「ゴメン、ゴメン。つい、調子に乗りやすい性格で、好奇心から凄い魔法で嬉しくなっちゃったの。へへへ。あたしの名前はリリアル・フローラルリンカ男爵令嬢よ。つい最近、父が男爵になった成り上がり一族の長女よ。宜しくね。」



「……それで、悪役令嬢って何の事ですの??」



 威圧魔法を解くと、私は腕を組んで理解出来なかった話の理由を聞いた。


 いや、脅したわけじゃないのよ?

 ………。

 少しはしたかもしれないけど、割とアッサリと白状したもの。



「……ええっとぉ……実はあたしは前世の記憶があってね。こことは違う世界の住人だったの。その世界で読んだ物語とか、ゲームの話はここと良く似た学園の物語だったのよ。」


チラリチラリと私の顔色を伺いながら、リリアナは話はじめた。


 彼女がいうには学園をモデルにした物語があって、私は王子の婚約者であり、王子に纏わりつく主人公をイジメ抜き、最後には王子の裁きによって、侯爵令嬢の身分も剥奪され、国外に追放されてしまうらしいの。


はぁ?何で王子の婚約者になんて、ならないといけないのよ!

そんな面倒な役柄、誰がやりたいと思うのよ!!



「そうなのよねぇ。今んとこ、王太子に婚約者はいないみたいだし、ミアベルって王太子から逃げ回っているもんね。どうも、私の知っているストーリーとは違っているみたいなのよ。」



それで、ゲームの方では一番最悪なバッドエンドというのがあるらしく、その線で終わると私がヒロインに毒を飲まし、聖なる光のオーラを発動したヒロインは助かるんだけど、悪役令嬢の私は処罰として、毒を飲まされ死んでしまうというラストもあるらしい。



「それに悪役令嬢が聖なるオーラ持ちとか、あり得ないんですけど〜。闇の魔法使いの筈なのにぃ。」



随分な言いようだわよね。失礼しちゃうわ!!

ちなみに私に闇の魔法は使えない。


「物語はあくまで物語でしょう?この世界の住人は実際に生きているの!皆、切磋琢磨して己を高めようと、学園で勉強していますのよ。勝手なあなたの物差しで、侮辱しないでくださいな。」



私がそう言うと、リリアナは頭をペコリと下げ、掌を合わせて謝罪した。


「……ゴメンなさい。それは本当に悪かったわよ。あたしが物語の主人公と同じ名前だし、周りの登場人物も一緒だから、ついつい嬉しくなっちゃったのね。まさか、こんなに違ったストーリーになっているなんて、思いもしなかったのよ。」



リリアナは今度は本当に悪かったと反省してくれたようだ。ちゃんと話せば、理解出来る位は頭は悪くなかったらしい。



所がそんな話をリリアナとしていた時、突然ユリアンナの悲鳴が聞こえてきた。

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