第6話 ヒロイン登場?


「こんなはずではなかったのにぃ!」

「ミギャヤァァァァァ〜!!!」

「怖い怖い怖いィィィィィィ〜ヤァ〜!!!」

「ヒョワァァァァァァァァァ!!!」



 何故か今、私達は涙目で魔王の森の奥にある修羅のダンジョンでA級魔物から、全力で逃げ回っている。



 ブモォォォォォォォォォォォ!!!



「こらぁ〜!!コッチに来るなぁぁ!!」



 リリアナは走りながら、光魔法をケンタウロスに当てている。眩しさに眩んで私達を追い回すのを止める事が出来るだろうか。



「あたしステーキは好きだけど、アンタみたいな筋肉質な男は好みじゃないのよぉ!」



 リリアナは掌に光魔法を集めていく。

 段々濃度を増し、これ以上集めたら魔力爆発するのではないかとハラハラする私達を嘲笑うかのように、迫り来るケンタウロスに向かって光魔法を発射した。発動というより、発射って感じだったのよ。



「光魔法『レーザー光線』 」


 リリアナの掌から尋常じゃない光の放線がケンタウロスの胴体を突き抜けた。まるで暗い洞窟が日中のお日様のように、辺りを暖かく包む。

 あまりの眩しさに瞼を開けてはいられない。



 ブモォォォォォォォォォォォ……

 ……

 …



 お腹に穴があいたケンタウロスは、耐えきれるわけもなく、その巨大な図体が後ろに傾き、勢いよく後ろ向きに倒れた。


 ズジィィィィィィィンン!!


 地響きが辺りにこだましてして、自身の体にまで震えた。



「ヤッタネ!一丁上がり〜!」



「ひぃ。はぁ、はぁ、はぁ。」

「ふぅっ。フゥッ……オエッ。」

「も、もう走れませんわ。」


 私達は恐怖と光魔法の凄まじい威力に腰が抜けたように倒れると、その場から立てなくなっていた。


 リリアナは万歳!万歳!と腕を振り上げ、ピョンピョンと1人、その場でジャンプして、オーバーな位に喜びを表現していた。


 そして、私はそんなリリアナや皆の無事を確認すると、安心してしまったせいで気が緩み、頭の傷の痛みからか、あろう事がまだダンジョンの中だというのに、その場で意識を手放してしまった。





 *****


 事の起こりは魔法防御試験が終わった後に起きた。試験順位は今までの成績順で行われる事が我が学園ルールだった。


 早々に試験が終わった私達3人は明日の攻撃魔法の準備や練習を兼ねて、魔王の森の浅場で一角ウサギやグレードマウス狩りに飽きて、ツノ猪を狩ろうと相談していた。


 森の中部に差し掛かった時、女生徒の争うような声が聞こえてきた。何があったのかと好奇心からつい話声が聞こえる所まで足を進めてしまった事が始まりだった。



「あなたは元平民の癖にあろう事か、殿下に気安く話しかけるだなんて、図々しいにも程がありましてよ?わたくし達だって殿下に対して、馴れ馴れしく話しかける事等出来るわけもなく、分を弁え控えているのが解らないんですの?流石、貴族の常識を知らない平民育ちは違いますわねぇ。ちょっと光魔法が得意だからって、はしたない行為は目に余りましてよ!控えなさい。」


「そうですわよ!あなた一昨日もユーストス公爵子息にベタベタ纏わりついていましたわよね!あの方には同じく五大公爵の令嬢の婚約者がおりましてよ!」


 整った金の縦ロール眩しい、アマリア侯爵令嬢とイライザ伯爵令嬢の2人にピンクの髪の女生徒が詰め寄られていた。彼女は確か隣のクラスの方ですね。



「おお!コレは悪役令嬢イベントでしょうか?アマリア侯爵令嬢って、モブキャラじゃないの?ゲームにも原作に出てませんよね?」


 ピンクのポニーテールを左右に振りながら、顎に親指を乗せて大人の男の人がよくするようなポーズをとった。結構可愛い顔なのに、こんな上位貴族の上級生に囲まれて恐ろしいシチュエーションな筈なのに、全然堪えてなさそうで平然と何だか分からない言葉を呟いていた。



 ……ゲーム?

 原作って?



 そんな態度が更に油に火を注いでしまったようで、イライザ伯爵令嬢がキーキー言って、扇子を振り回しだした。


 いやいや、令嬢達のそんな態度も、ちょっとどうかなと思いますよ。止めた方が良いのかなと近付いてしまった。



「あっ!ミアベル悪役令嬢だ!凄い!本物?」



 突然、私に向かって2人に詰め寄られたピンクのポニーテール女生徒が指を指して叫んだ。




 はい?悪役令嬢って?何それ……。



「んまぁ!!なんて事!!よりによって、精霊姫に対して、何て口の利き方なのかしら!!」

「悪役令嬢ですってェェェ!?アナタいい加減になさい!!私、許せませんわ!!」



 はい?


 何だろう?


 精霊姫って何ソレ美味しいの?

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