40credit.おかえりとただいま


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 今にも倒れそうなヘロヘロの状態で『ゲーマーズソウル』の筐体から出ると、待っていたらしいスバルが肩を貸してくれた。


「ああ、悪いな……ってぇっ!?」


 そこでギョッと驚く俺。

 サンシャインの中に溢れかえっていた人の数が先ほどの比ではない。おそらくは配信を見て駆けつけたのだろうファンやゲーマーたち、カメラやマイクを持ったメディア関係者、入り口の方までパンパンで満員御礼のライブ会場かよってくらいの人だかりになっている。


 イロハさんがマイクを手に言った。


『皆さま! リアルへ戻ってきたお二方へ今一度拍手を~~~~!』


 その声に応えるように、サンシャインのゲーマーを始めとするその場の全員が大きな拍手をしてくれた。さらにスバルが俺の右手を挙げてくれて、さすがにちょっと照れくさい。


「シュン! シュン~~~~~!」

「おうわっ!?」


 と、そこで横から俺に飛びついてきたのはキティ。


「勝ったね勝ったね! もぉ~~~~~~~すっごかったよぉ! かっこよかったぁ! おめでとう~~~~!」

「キティ。はは、お前を支えられないくらいフラフラで勝者の姿じゃないけどな」

「そんなことはない。全身全霊で挑んだ勝者の姿だ。誇れ、シュンよ」

「バンさん……そりゃどうも」

「その通りだよシュンくん。この姿こそが君の速さの証明さ」

「言ってることが全部速さ基準でよくわからんが、あれだけ動いてぴんぴんしてるアンタやっぱすごいな……」


 スバルは俺を抱えたままニッコリと爽やかに笑った。

 俺は尋ねる。


「……なぁ。アンタ、本当は――」

「それよりも先に。お姫様が速く速くと待っているよ」


「え?」とスバルが手を示す方向を見る。


 すぐそこで、アリスが祈るように手を組んだままじっと俺を見つめていた。

 俺はスバルに礼を言って一人で立ち、アリスの方へ向かう。


「よ、見てたか?」


 アリスはうなずく。


「お前、負けるなって叫んだろ。ここで、キョウとやりあったあのときみたいにさ」


 もう一度うなずく。


「お前の声で思い出した。ごめん。ずっと忘れてて。つーか、ビンタの再会がインパクト強すぎたかな。まさかアリスがお前だって気付けねぇよ」


 今度は少し照れくさそうにはにかむ。


「言ってくれりゃよかったのに。そしたらきっとすぐお前のこと――」


 するとアリスは首を横に振った。


 そしてつぶやく。


「思い出してほしかったの」


 大きな瞳を潤ませて、今にもこぼれそうな涙を浮かべて。


「ゲームを大好きな気持ち。誰よりも真剣に、泣いて、笑って、挑戦し続けてきたシュンくんの熱いこころ。それからじゃないと、意味がないもん」

「……そうか。そうだよな」

「あのね」

「ん?」

「キョウさんから、教えてもらってたの。いつか、シュンくんがここに戻ってくるって」

「……え?」

「だから私、ずっとここにいたんだよ。イケブクロに、サンシャインにいれば、きっとまた会えるって。陽光学園に入ったも、そう。『FS部』だって、そのために作ったんだよ?」

「そ、そうだったのか?」

「でも、あんな再会しちゃったからビックリして最初は逃げちゃって。それから、すぐ思い出してくれると思ったのに、なかなか上手くいかなくて……私とじゃなくて、スバルさんとの試合で思い出すなんてちょっと悔しい。お、お泊まりまでしたのに……」

「わ、悪かったよ……」

「……ね、シュンくん」

「ん?」

「また、私と闘ってくれる?」

「ああ」

「約束、ちゃんと覚えてくれてる?」

「お前こそ、覚えてて言ってるのかよ」

「忘れないよ」


 そうつぶやくアリスの瞳から、宝石みたいな涙がぽろぽろ流れ落ちた。



「おかえりなさい。ずっと、ずっと待ってたんだから!」



 あの頃ケンカをして競い合った生意気な女の子は。

 誰よりも綺麗に成長して、泣きながら微笑んでくれた。


 そっと、アリスの頬に手を伸ばす。


「――ただいま。やっと帰ってこれたよ」


 そう言う俺に、アリスの瞳がまた大きく潤む。


 少しずつ、俺たちの顔が近づいていく。


 周りのことなんて気にならないくらい、俺はアリスのことしか見えていなかった――。

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