第八章 ニュー・ゲーム・パラダイス
39credit.ありがとう
続く四本目の勝負も制した俺は、あの王者ハクバ・スバルと五本目の勝負を始めていた。
「すごいすごいすごいすごいよシュンくん“視えて”いるんだねまるでキョウのようにこんなのは想像以上だははははは僕はこれほど速くなったことはないこの世界は初めてだなんて楽しいんだろう夢のようだいつまでも闘っていたいなシュンくんシュンくんシュンくんシュンくんんんんんん!!!!」
「
どうしてコイツに勝てているのかなんて俺自身にもわからない。ただ、目の前の楽しすぎる時間を全力で満喫していただけだ。
だから本当にもったいなく思う。
五本目の勝負。どちらが勝とうが負けようが闘いは終わってしまう。それが無性にもったいなく、だからこそ最高に楽しい。
もうスバルへの怒りなんてこれっぽっちもない。
アリスの仇をとりたいなんて思いもまったくない。
正直サンシャインのことなんて忘れていた。
ただ純粋に。
今、世界で一番強いヤツと全力で闘えるこの時間を堪能していたい!
だから悪いなアリス。視界の端で楽しそうな顔して泣きながらなんか叫んでるみたいだけど、何言ってるかもうまったく聞こえねぇんだわ!
スバルの光剣が俺の顔先スレスレを斬り裂く。
「僕だッ! 僕だよシュンくん僕だけを見てくれッ僕だけを僕だけの君でいてくれ!!!!」
「アンタもホント! 楽しそうだなオイ!!」
一進一退の攻防。既にお互いの体力ゲージは削り取られ、どちらかの攻撃がまともに一度でも入れば勝負が決まる瀬戸際。凝縮された時間の中で互いに互いの速さを超えようともがき合い、さらに速度は増していく。俺もスバルも疲労など忘れて魂を完全燃焼させて闘っていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
「ははッ! はははははははははははははははははははははははははッ!!!!」
人間の限界を、光さえ超えた速度の世界で、思考すら置き去りにした勝負に熱中する。
集中すればするほど、世界が遅く見えた。
1フレームの速さで動くスバルの“先”が視えていた。
『――未来を視ろ。それくらい出来ないと俺には一生勝てない』
そういうことかよ!
なぁキョウ。お前もこんな世界を視てたのか?
だとしたら――ずりぃな!
キョウはずっと、こんな楽しいことをやってたんだろ?
安心したよ。
わかったからな。
このまま闘い続けていれば、いずれキョウとの約束は果たせる。そうなんだろ?
なら――!
「――ここで負けるわけには……いかねぇんだよおおおおおおおおおおおお!!」
スバルがようやく見せたほんの刹那の隙。
左手の剣を横に払い、最後の一撃を放り込もうとしたそのとき――
「――っ!?」
がく、と左のひざから力が抜けた。
体勢が崩れる。
視界がぼやけた。
――限界を超えた反動。
当然だ。プロゲーマーたちの試合はその一戦一戦が凄まじいエネルギーとカロリーを消費する。
アスリート以上の訓練を積んでいるスバルたちとブランクのある俺との、決定的な“差”。
“遊戯者の魂”に目覚めたばかりでその力を全力で振るい続けた俺が長く持つはずがない。
それだけじゃない。
「ははははははははははははははははははははははははははは!!」
笑いながら俺に最後の一撃を繰り出すスバル。
コイツ、この一瞬を狙ってやがった――!
一戦目から始まった右サイドからの執拗な攻撃。神速の連撃による手数はヤツの方が圧倒的に多い。それをすべてガードで受けたことによる蓄積されたダメージは、削られた体力ゲージ以上に俺の身体へ負荷をかけていた。ゲームシステム上の隙ではない。俺自身の隙。
そんなところまで計算に入れて闘う。これが世界の頂点……!
終わっていくスローモーションの世界で、スバルの剣が、少しずつ速さを増して俺へ迫ってくるのがわかった。
その最中――俺は感謝していた。
勝つか負けるか。
どちらがより強いのか。
ゲームの世界は明確でいい。
馬鹿になって遊べばそれでいい。
こんなにも楽しい世界と出会わせてくれたこと。
こんなにも熱くなれる勝負をしてくれたこと。
幼い頃からずっと相手をしてくれたキョウに。
キョウと俺にゲームを教えてくれた両親に。
この街で、このゲームセンターでゲームの楽しさを教えてくれたアリスに。
キティやバンさん、目の前のスバルや、今まで俺と闘ってくれたすべてのゲーマーたちに。
こんな世界を創り上げてくれたゲーム開発者たちに。
この最高の“一瞬”に!
「――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
スローモーションが完全に解け、俺の世界が再加速する。
瞬間、思いきり身をひねって回転した俺の短剣がスバルの“最後の一撃”をギリギリで上へ弾き飛ばす。
スバルがどんな顔をしているのか、もうよくは見えない。
特別な力も才能も何もない。
この瞬間。
このタイミング。
ここへ剣を振れば勝てる。
そんな、一プレイヤーのただの“カン”だ!
「ありがとう! 楽しかったッ!!」
そう叫んだとき――スバルが満足げに目を閉じたような気がした。
――『End game!!』
揃って倒れる俺たち。
決着のSEと共に、勝者表示が華やかに演出される。
『――試合っ! 終了おおおおおおおおおおおおおっ!』
イロハさんがマイクに向かって叫んだ。
『この壮絶なバトルを制しましたのは! なんとなんと! ――マナカ・シュン選手です! 皆さま、どうか最高の勝負を見せてくれたお二人に心からの拍手を!!』
一斉に観客が沸き上がり、今日一番の歓声と拍手がコロシアムを包み込む。
起き上がる気力さえ使い果たしていた俺は、虫の息で寝転がったまま空を見上げる。
そんな視界に入ってきたスバルが、俺に手を差し出してきた。
「こちらこそ最大限の感謝を。最速の楽しさだったよ!」
「……どっちが勝者かわかんねぇな、これ……」
スバルの手を取る。
こうして、俺たちの燃えるような勝負は終わった――。
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