38credit.誰よりも馬鹿な人
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「……シュンくんが、一本、とった…………」
私がそうつぶやいた直後、割れんばかりの歓声がコロシアムを包んだ。
「やった……やったやったやったあああああ~~~! すごいっ! シュンが一本とったよ! ねぇアリス! あのスバルから! ねぇねぇすごいよすごいよ~~~~~~!」
「……どうやら、新しい仲間は逸材だったらしいな」
キティがぴょんぴょん跳びはねながら私に抱きついてきて、バンさんが驚愕に打ち震えるようにそうつぶやく。サンシャインの仲間たちもみんなみんな、驚きと喜びを同時に爆発させてこれ以上ないくらいに盛り上がっていた。きっと、世界のみんなが同じくらいびっくりしているんだろうな。
『ニホンの、そして世界の皆さん! これは間違いなく世界大会決勝レベルの大一番です!! 絶対にお見逃しのないようご注目ください!!』
イロハさんの実況がさらにみんなを盛り上げて、四本目の試合が始まる。
さっきまで多くの人たちがスバルさんのことを応援していたけれど、今はシュンくんを応援する声もすごく増えていた。世界中の人たちが、二人の最高のゲーマーを心から応援してくれている。
「……ふふっ!」
思わず笑みがこぼれる。
私は驚いたりしないよ。
知っていたから。
信じていたから。
覚えていたから。
彼の強さを。
あの夏の日の輝きを。
あの瞬間に感じた彼の魂の熱を。
それでも自然と溢れる涙を拭うこともせず、私は、笑顔で前を向く。
プロになって、初めてキョウさんと闘った日のことを思い出した。
『トキノミヤ。なぜ泣く』
『負けて……悔しいからに、決まって、ます…………!』
『なら馬鹿になれ』
『……え?』
『馬鹿なヤツほど強くなる。そして本物の馬鹿ってのは、負けても笑えるヤツさ』
『笑える……ひと……』
『泣くならそれ以上に笑え。何万回でも挑戦して、そのたびに泣いて、笑って、立ち向かって、たったの一勝をもぎ取れよ。そのうち、そんなとびっきりの馬鹿がくるぜ』
あのとき笑っていたキョウさんの目には――やっぱり、未来が見えていたのかな。
私も見届けます。
誰よりも楽しそうな笑顔で闘う彼を。
「シュンくんは負けないよ。だって――あのキョウさんに勝った男の子だもんっ!」
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