35credit.“神速”の覇者



「はははははははははははははははははははは!!」



 笑いながら激しい連撃を仕掛けてくる王者スバルの剣は、その一振り一振りが閃光のように速く、そして吹き飛ばされそうになるほど重い。ガードしていても減り続けるこちらの体力ゲージが俺自身の体力と完全に同期していた。


「く――おおおッ!」


 スバルの攻撃をかいくぐるように何度目かの双剣を振るうが、そのすべてがスレスレでかわされて逆にカウンターをもらい、ピヨり発生のクラッシュダメージを受けてしまう。


『これはマズイ! マナカ選手、クラッシュにより1秒間のスタン! 当然見過ごさない王者ハクバ選手! 下段始動、中段、上段へコンボを繋ぎエリアルアーツを繰り出してそのままマナ選手のゲージをすべて持っていったあああああ!』


 その声はイロハさんのもの。VR空間内にも彼女の実況が聞こえると同時に客席から大きな歓声が広がり、思わず舌打ちをする。

 スバルは俺とのリーチ差を完璧に把握しており、自分の有利を押しつけられるシーンを巧みに選び続けている。俺とのバトルで重たいハンデを背負うスバルは体力ゲージが最初から五分の一ほどしかなく、攻撃力や防御力も相当に下げられていてこれだ。完全に遊ばれている。さすがは世界王者ってこったな。


 俺から一本目を奪ったスバルは、仁王立ちのまま笑っていた。


「遅い、遅い、遅いよ。さぁ、もっと魂を加速させよう!」

「ハンデなんてないようなもんじゃねぇか。このバケモンが!」


 二本目の勝負が始まる。

 スバルが飛び込んで来る前にこちらから仕掛ける!


『二本目の勝負が始まります! マナカ選手、大きな踏み込みで恐れることなく突っ込んでいきました!』


「おおおおおおおッ!」


 風に乗るように走る。スバルの騎士アバターはスピードタイプに特化しているようだが、こちらも同じくスピードタイプ。そして双剣は長剣よりリーチが短い分さらに初動が速い。初手をとることが出来ればこっちもチャンスを作ることが――


「遅いよッ!!」

「――なっ!?」


 出来るはずだったが、スバルはさらに速い動きで俺の初動を潰してくる。つまり俺の動きを先読み――いや違う! コイツ、


 わずかな動揺で動きが止まりかけた俺にスバルが剣を振るい、ガードが間に合わず吹き飛ばされコロシアムの壁に激突。フィールドクラッシュ効果で一瞬身動きが出来なくなった俺に詰め寄るスバルは一気に勝負を決めようと隙の大きい大振りな一撃を放ち、こちらの体力を削り取る。


「遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅いなァアアアアアアアアアアアアア!」

「ぐぁっ!!」


 長剣タイプのアバターが持つガード不可能ガー不必殺技アーツを喰らい、そのまま倒れた俺は二本目も奪われる。あっという間に追い詰められた。


『な、な、なんということでしょう! ハクバ選手、先手をとろうとしたマナカ選手の動きをさらに上回るスピードでカット! さらにフィールドの仕様まで利用した攻撃で高難易度のコンボを決め、さらに専用のガード不可能なアーツで勝負を決めてしまいました! これが世界王者! これが神速の皇帝! これが“閃光”の“遊戯者の魂ゲーマーズソウル”を持つ男! やはり彼に敵う者はいないのでしょうか!』


 イロハさんの実況と共に、皆の歓声はさらに大きくなる。


『うおおおすげええええええええ! これが王者スバルだあああああああああ!』

『きゃああああ~~~~~! スバルさまぁ~~~~~~~~~~~!』

『サンシャインのことはよくわかんねーけど、やっぱスバルはすげーよ!』

『カッコよすぎぃ! サンシャインはカワイソーだけどスバル様応援しちゃうよ!』

『俺たちは王者の闘いが見られりゃなんだっていい! このまま完勝しちまえ!』


 先ほどまでサンシャインを潰そうと攻め込んできた“敵”のはずのスバルは、その優雅で爽快なスピードプレイでもって皆を魅了し夢中にさせ、視線を独占する。熱狂する世界のファンたちは加速するように彼の応援を始めていた。


『スーバール!』『スーバール!』『スーバール!』

  『スーバール!』『スーバール!』『スーバール!』『スーバール!』

『スーバール!』『スーバール!』『スーバール!』

 『スーバール!』『スーバール!』『スーバール!』

『スーバール!』『スーバール!』『スーバール!』『スーバール!』


 熱のこもったコール。

 まるで世界大会のときのように、皆がこの試合に熱狂している。


「……へへ」


 思わず笑ってしまう。

 これでいい。

 俺は“悪者”と闘っているわけじゃない。


 スバルが倒れた俺を見下ろしながら髪をかき上げる。


「こんなものなのかい? だとしたら期待外れもいいところだ。申し訳ないが、キョウと比べてしまうと天地の差だね」

「はっ。お前以上のあんなバケモンと比べんな。何よりキョウとの差は俺が一番知ってるよ。知ってるからこそ解ることもあるしな」

「どういう意味かな?」

「キョウと比べりゃアンタも期待外れの相手だってことだよ」


 そう挑発した俺に。

 ハクバ・スバルは大きく目を見開いて笑った。


「はははははははははははははははははは! さぁ!! 速く立ち上がってくれ! 二人でキョウよりも速い世界へ到達しようじゃないか!!」


 立ち上がれば三本目が始まる。

 次を落とせば、俺の負けだ。

 そんな俺の耳に、一際大きな声が聞こえてきた。

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