34credit.叫び
内なる声を聞いたとき、俺は立ち上がって口を開けていた。
「ハクバ・スバルッ!!」
その呼びかけに、群衆の中を歩いていたスバルがこちらを振り向く。
「見切りまで速すぎるんじゃないのか? まだここに一人サンシャインのゲーマーがいるぜ。さっさと戻ってこいよ。俺と、闘えッ!」
自身の胸元を親指で指し示す俺を見て。
スバルの両目が、光を灯すように瞬いた。
「シュン、くん……」
「シュン! ほ、本気なの!?」「シュン……お前……!」
アリス、キティ、バンさんたちが不安な様子で俺を呼んだ。
颯爽と駆け戻ってきたスバルが俺の眼前にその顔を近づけてくる。
「……そうか! そうかそうかそうか! 僕と闘ってくれるのか! 君が!」
「近ぇな! ああやってやるよ! 俺が勝ったらまずアリスに謝ってもらう。それとサンシャインは潰させない。それでいいな?」
「もちろんだとも! さぁ、さぁさぁ速く闘ろうじゃないか!」
「その前に一つ訊かせろ。あんたみたいに立場のある人間がなんで“嵐”なんてやった。なんで
そんな俺の発言に、ハクバ・スバルは素早く反応した。
「――キョウ。……そう、キョウだよ。キョウ! キョウ! キョウ! キョウなんだよ!」
スバルは大仰な演技でもするように頭を抱えてからバッと両手を広げ、スポットライトを浴びるように天井を仰いだ。
「嗚呼! キョウ以上に僕を速くしてくれる男はこの世界に存在しないのだろうか! 今の僕にはキョウが姿を消してしまった理由がわかるよ!」
「は?」
「彼もきっと僕と同じ気持ちだったのさ! 自分よりも強い相手が存在しない絶望。魂の熱が引いていく恐怖。心が渇いていく焦燥。退屈の海底でもがき、さらなる光を求めて手を伸ばした。たとえそれが闇からの囁きであったとしても」
「あんた……何言って……」
「君にも解るはずだろう?」
スバルが、ゆっくりと顔を下ろす。
「ずっと……ずっと、ずっとずっとずっと待っていた」
大きく開かれたその嬉々の目が――真っ直ぐに俺を見た。
「僕は君を待っていた――マナカ・シュン!!」
ぞくっ、と全身を寒気が襲う。
一瞬で身体が理解した。
コイツは“
ハクバ・スバルはまばたきもせずさらにこちらへ歩み寄ってきた。思わず俺が後ずさりすると、背丈よりもずっと大きく見える男が高みから俺を見下ろして肩を掴んでくる。その目は真に迫っていた。
「みんな遅い、遅いんだよ! キョウよりも速い者が存在しないんだ! 僕よりも速い者が現れない! そんな世界でトップをとって何の意味がある!? 虚無さ! 解るかい? 解るだろう? 広い宇宙に僕一人が漂っている孤独を!」
「ア、アンタ……」
「君は、君だけは解るはずだ! キョウと血を分けた兄弟である君なら! キョウがいなくなった世界の虚しさを!」
――そうだ。
この男の言う通りだった。
キョウがいなくなったことで、俺の世界は空っぽになった。
小さな頃から追い続けてきた兄の背中。目標。最強のライバルと闘える充実感。
すべてが消え去って、世界は虚しいものになった。
コイツがなぜ荒らしなんて真似をしていたのか理解出来た。
――スバルは俺なんだ。
キョウを失って、熱を向ける相手を失くした。
満たされない魂は獣のように獲物を探し、彷徨い続ける。
優男なんかじゃない。紳士的な、模範的なゲーマーなどではない。
ただ強い獲物だけを求める猛獣の雄叫び。
そのためなら他のすべてを捨てられる男。
生まれついてのバトルジャンキー。
それこそが本当のハクバ・スバル。
今、俺が闘いたいと叫んでいる王者の姿。
そんなヤツ…………最高の相手じゃねぇかッ!!
「君の、君だけの魂を速く僕に見せてくれッ! マナカ・シュン!!」
「速く速くってうるせぇな。じゃあ望み通りやろうぜ! ハクバ・スバル!!」
俺たちはそれぞれに『ゲーマーズソウル』の筐体に入り込み、VRリンクでアバターと同化。フィールドが俺の選んだコロシアムステージへと変化すると、さらに歓声がわく。俺たちを囲う一面の客席にサンシャインの皆が、そして世界中から観戦にきた人たちが集まっていた。観戦モードがオンになったんだ。
準備完了の音声が流れる。
勝負はいつもの三本先取。
魂と魂を存分にぶつけ合える俺たちの居場所。
俺もスバルも笑っていた。
望んでいた。お互いにお互いを。
猛る鼓動を抑えてその時を待つ。
そして、すぐにその時は来た。
『OPEN WORLD!!』
俺とスバルは、まったく同じタイミングで飛び出す!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます