28credit.“嵐”

 トキノミヤ家の専用エレベーターでアリスのIDを認証し、トキノミヤ家に飛び込んだ俺は、倒れたアリスをバトラーさんたちに任せて事情を説明。オンラインですぐに連絡が取れるトキノミヤのかかりつけ医が駆けつけて彼女を看てくれた。


 結果、疲労による発熱や緊張と緩和による自律神経の乱れが倒れた原因だろうと判明。しっかりと栄養をとって休めば問題ないとのことだった。仕事中だったアリスの母親――ユキノさんも駆けつけて安堵し、彼女を運んできた俺に感謝の言葉を述べてくれたが、俺はただ心苦しかった。アリスはああ言ったが、やはり彼女をこんな状態にしてしまったのは俺だと自覚していたからだ。


 それから逃げるようにアリスの家を出た俺は、エレベーターで下層へ。そしてゲームセンターの『サンシャイン』で降りたとき、そこは大きな騒ぎになっていた。


「……なんだ?」


 まだランカーバトルが盛り上がっているのだろうか。そう思って店内に入った俺だったが、その予想は外れた。

 ざわつく皆が注目していたのは、壁面の超大型ディスプレイ。そこに映し出されている今夜のランカーバトルの結果のようだった。


「あっ! シュン~~~~!」


 そこで俺に声を掛けて飛びついてきたのはキティ。バンさんの姿もある。


「シュンも来てたんだね! あのね! 大変なことになってるの!」

「なんだよ大変なことって。こっちこそアリスが倒れて大変だったんだぞ。まぁもう落ち着いてるみたいだったけど」

「ええ~アリス倒れちゃったの!? そっちこそ大変だよ後でお見舞い行こ! ねっ!」

「ふむ、今日のアリスは調子を崩していたようだったからな……。そちらも気がかりだが、シュン。とにかくあのスクリーンをよく見てみろ」

「一体なんなんだよ……」


 バンに言われてもう一度そちらに目を見張る俺。

 バンさんやサンシャインのゲーマーたちはそこまでランクに変動はなく、現在は海外にいるらしい王者スバルも当然トップを保ったまま。1位になるには年末の世界大会で勝つしかないからな。つーわけで、アリスが多少下げたこと以外は特に驚くような結果ではないかと思ったのだが――


「……っ!?」


 やがて皆が驚いている理由に気がついた俺。


「嘘だろ……シブヤが……!?」


 俺の声に、キティやバンさんが大きくうなずく。

 モニターに表示されているのは、シブヤで最も有名なゲームセンター『901ストリーム』のランカーバトル結果。そこに所属するプロゲーマーたちが、軒並みランクを大きく落としていた。ほぼ全員がだ!


「『901ストリームキューマル』は、『サンシャイン』やシンジュクの『メトロポリス』に匹敵するニホン三大ゲーセンだぞ!? 実力者揃いのプロたちがなんで揃いも揃って――!」


 驚く俺の声を掻き消すように、会場の誰かが叫んだ。


「“アラシ”だ!」


 ざわつく一同。その誰かがさらに叫ぶ。


「キューマルの知り合いから連絡が来た! ランカーバトル前にいきなり余所モンが乗り込んできて、キューマルのプロを全員叩きのめしたらしい! そのせいで全員メンタルボロボロだってよ!」


 どよめきが起こり、皆が端末で情報を調べたりどこかに連絡を取ったりし始めた。怯えて動揺している者たちもいる。

 キティがぎゅっと俺の腕を掴んだ。


「ね、ねっ。どゆこと? アラシってナニ? ヘーセーのアイドル? 台風みたいなコト!?」

「“ゲームセンター荒らし”だ」


「えっ」と困惑するキティに、俺もまた当惑しながら説明を続ける。


「ホーム以外のゲーセンに乗り込んで片っ端から勝負を挑む道場破りのことをゲームセンター荒らしって言うんだよ。それこそ台風が去った後みたいになるから、暴風の意味の“嵐”とも言われる。昔は結構あったらしいけど、今はそんな非常識で迷惑なことするヤツなんかキョウくらいしか……だよなバンさん」

「うむ。現代での嵐などマナカ・キョウ以外に聞いたことはない。しかもランカーバトル直前のゲーセンに乗り込むなど、前代未聞の礼儀知らずだ」

「え、ええ~~~ナニソレ! ただの遠征じゃないの? な、なんかこわいっ! ねぇシュン、そ、それでこれからどうなっちゃうの!?」

「そんなん俺が訊きたいくらいだって……」


 アリスの体調不良に、突然現れたシブヤのゲームセンター荒らし。


 俺は戸惑いの中、しばらくその場で立ち尽くしていた――。

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