22credit.アリス > キティ
――で、結局アリスがキティを風呂に誘うことでなんとかキティの興味関心を脱衣麻雀やエッチなゲームからそらし、事なきを得た俺たち。キティから一緒に入ろうと誘われてまた別の意味で焦ることになったが、アリスがさっさと連れていってくれてマジで助かった。俺たちは本気でキティを教育してやる必要があるかもしれん。
そのままバンさんが帰ってしまったこともあり、俺も用意してもらった客室のシャワーを浴びてスッキリとする。なんとなくいつもより念入りに体を洗ってしまった。他意はない。
こうして先に出た俺が貸してもらったパジャマ姿でリビングでくつろぎつつ、ネットニュースやゲーム配信なんかをチェックしていると、しばらくしてバタバタと廊下の方から足音が聞こえてきた。
「お嬢様たちのお戻りか」
ようやくアリスとキティが戻ってきたかと思ってそちらに顔を向けると、すぐにリビングの扉が開く。
俺の目に飛び込んできたのは、素っ裸のキティだった。
「スッキリサッパリキレイになったよ! おまたせ~~~シュン!」
「ぶっ!? ちょおっ! キ、キティ!?」
裸のまま走ってきた彼女はソファに座る俺の方へまたジャンピングダイブをしてきて、当然「ぐえっ!」と潰される俺。
「だから危ないって――つーかなんで全裸なんだよっ!?」
「あたし、お風呂のあとはいつも裸んぼなんだ~! えへへ、でもシュンに見られるとちょっと恥ずかしいね♪」
「なら服着てくれる!? だーもう裸でくっつくなって! オイ! キティ!」
どうやら家では裸族だったらしいキティの柔らかな肌の感触があちこちに密着してきてちょっとやばキティマジでデカってなにしてんのこの子は「オイ保護者のアリスさぁん!?」
「こ、こら~! まだ髪を乾かしてた途中だよキティ! ちゃんと服も着なさい! それに走っちゃダメって言ったでしょ! 滑って転んだらあぶな――ってわあああああ何やってるのキティ~~~~~!」
「アリスコーラ飲もっ! シュンもね! お風呂上がりにみんなでシュワ~ってリフレッシュして、それからみんなでゲームやろ! 楽しみだねっ!」
「わ、わかったから! シュンくんから離れてキティ! は、はやく~~~!」
まだバスタオルを巻いただけの状態で走ってくるアリス。その様子にも驚いてつい目をそらし掛けたが、バトラーさんが布巾を持ってきていたことでその危険に気付いた。
「アリス待て! そこ! 濡れてっから!」
「えっ?」
先ほどキティが走ってきた床面が雫で光っており、危ないからお前こそ走るなと言いたかったが時既に遅し。見事に濡れた面を踏んだアリスがつるんっと足を滑らせた。
「アリスッ!!」
その瞬間――俺の視界がスローモーションへと変わる。
こちらへ手を伸ばしたままのアリスが大きく目を見開いて、バトラーさんが布巾を、メイドさんがバスタオルを手に駆け寄ってきていた。このままだとソファやテーブルの角なんかに頭をぶつけるかもしれない。
不思議と視野が広くなり、何よりクリアになっていた俺の頭は瞬時に判断を下して身体を動かした。
キティをソファの横へどかして一歩を踏み出す。
両手を広げてスライディングし、倒れるアリスの影に入るような形を作った。
アリスと目が合った刹那――スローモーションは解除されて俺はまた「ぐえっ!」と押しつぶされるハメになり、しかも後頭部を床にぶつけて体力ゲージがちょっと減る。高級ふかふか絨毯があって助かった!
「いってぇぇ……だ、大丈夫かアリス」
すぐそこで、俺の上に乗ったアリスが大きな目をパチパチさせていた。彼女はようやくハッと気付いて返事をする。
「ひゃ、ひゃいっ! それよりシュンくんがっ! ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!? 頭を打ったんじゃ!」
「いや平気平気。キティ、急にどかして悪かった」
「うぅん! それよりすごいねシュンっ! なんか『ゲーマーズソウル』の
「ソウルアーツ?」
「うん! なんかね、シュンだけがシュバーッって加速して動いてたみたいで! 残像が見えそうなカンジで! 格ゲーの必殺技みたいだったの! カッコよかったな~!」
「そういうことか……いや大げさだろ」
と思ったのだが、バトラーさんやメイドさんたちもポカンと呆けるように固まっていた。急に動いてそんなに驚かせてしまっただろうか。
「あー、アリス。悪いんだけど、そろそろどいてもらえると」
「あ……は、はいそうですよねすみません! すぐにどきます!」
アリスが勢いよく身を起こそうとしたそのとき、俺の視界が突然何かにふさがれた。
なんだなんだと掴んでみると、それは少々しっとりと濡れたバスタオルだった。ボディソープか何かの良い匂いがする。
視線を動かす。
四つん這いのアリスが、一糸纏わぬ姿で呆然と俺を見下ろしていた。
お互いに言葉を失う。
「シュン? アリス? ぼーっとしてどうしたの? あっ、やっぱりどこかケガしちゃったの? だったら大変! 大丈夫?」
隣でしゃがみこむキティが心配そうな顔をしている。こっちもまだ全裸だった。
「…………あぁ~~~……」
ゆっくりと目を閉じた俺がなぜか演歌歌手のようにうなってしまったところで、ようやくバトラーさんとメイドさんたちがバタバタと動きだし、やがてリビングを出て行くような音が聞こえてからようやく目を開ける俺。どうやら無事にアリスとキティを連れていってくれたようだった。
「…………録画とか、されてないよな……?」
念のため自分の端末をチェックし、安心したような残念なような気持ちになる俺。
アリスがまだキティに負けていないという事実をまさかこの目で確認するはめになるとは思ってもなかった。
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