21credit.アリスママ
「にしてもアリス、なんで俺の誕生日知ってんだ?」
「え? あ、えっと、キョ、キョウさんに聞いたことがあるんです!」
「キョウから? アイツと俺の誕生日の話なんてしてたんかよ」
「そ、それはもうしましたよ! シュンくんが小さな頃何も知らずに脱衣麻雀ゲームをプレイしてしまってすごく恥ずかしかったけどあれが性の目覚めで以来シュンくんは格ゲーでも普通に露出の多い女性キャラを使えるようになったから成長したってキョウさんが!」
「キティとバンさんもいんのにスラスラとなんつー話してくれてんのォォォ!? つーかお前ら勝手に何の話をしてんだよオイ!! ンギャー!」
不意に黒歴史を語られて悶える俺。口端にクリームを付けたキティが不思議そうに首を傾げ、バンさんが気難しそうな顔を赤くしていた。俺そんな暴露話した兄を捜そうとしてんの!? なんかアホらしくなってきたわ!
「ふふ。キョウさんはすごく楽しそうにシュンくんのことを話してくれましたよ。それで私、ずっとシュンくんとゲームがしたかったんです。だからあの日、サンシャインで――陽光学園で会えて、とっても嬉しかったんです」
「アリス……」
「私は一人っ子なので、少し羨ましく話を聞いていました。兄弟って、いいですよね」
入学初日からどうもやけに俺のことを気にしているとは思ったが、そういうことか。最初から俺をキョウの弟だと知っていたんだな。
「そういや、アリスは母親と二人暮らしなんだっけ? 今日はいないのか? さすがにここまでしてもらったら挨拶くらいしておかないと――あ」
「母は仕事で帰りが遅いんです。最近は“EGIS”関連の仕事がどんどん増えているみたいで。たぶん、今日も帰りは深夜に……うぅん、もしかしたら帰ってこられないかも……」
「そうなのか? じゃあ、今後ろに現れたアリスに似てるその人は……」
「えっ」と振り返るアリス。
そこには、びしっと決めたスーツ姿のキャリアウーマンが立っていた。
「ただいまアリスちゃん。それともママが帰ってきちゃって残念だった? シュンくんとイチャイチャ出来るチャンスだったのにねぇ。キティちゃんとバンくんもお久しぶりね」
手を挙げるキャリアウーマンに、キティとバンさんがそれぞれ挨拶をする。そしてアリスががばっと勢いよく立ち上がった。
「マ、マ、マ、ママ!? ど、どどどうしてっ! だって、今日はお仕事がって、えっ!?」
「それはもちろん彦星様に会いに。初めましてシュンくん。トキノミヤ・ユキノです。娘がお世話になっております」
「え、あっ、ど、どうも! こちらこそいろいろと!」
慌てて立ち上がり握手を交わす俺。
もちろんトキノミヤ・ユキノさんはネットの記事やニュースで顔写真を見たことがあるのだが、実際に会うと俺よりも背丈や手がずいぶんと小さくて驚いた。アリスによく似た容姿は高校生の娘がいるとは思えないほど若々しく、髪は綺麗だし肌つやも良いしなんだかやたらとイイ匂いがする。そしてアリスのスタイルの良さはこの人譲りなのだと強く実感した。将来はアリスもこうなるのかもな……。ていうか彦星様ってなんだ?
「あら、見惚れちゃってる? ダメだよ~彼女のママに浮気しちゃ♪」
「え? あ、いやっ」
鼻先をツンと指で押されてうろたえる俺。アリスの母親は「あははっ」と朗らかに笑った。
「なーんちゃって。それよりアリスちゃんに付き合うのは大変でしょう? この子、こうみえて私以上のゲームバカだし、なのにゲーム以外のことはわりかしへっぽこだったりするし、それにムッツリスケベなのよ~」
「マ、ママママママ!?」
「あのねぇシュンくん、この子ったらこれはゲームだから仕事ですみたいな顔してちょっとエッチな恋愛ゲームやってたりするし、夜中にこっそりちょっとエッチな漫画や同人誌読んでたりするし、趣味でちょっとエッチなイラスト描いてたりするのよ。私の影響もあるんだろうけど、可愛い顔してあちこち立派に育ってくれちゃって」
「は、はぁ……そうなんすか……」
「ママ! やめてママ! ママ!」
「それとねそれとね、この子貴方に会えたのがあんまり嬉しかったみたいで、今日のためにあれこれ準備して頑張っていたのよ。見ればわかるでしょ? バンくんに教えてもらいながらこんなドン引き必至のバカデカケーキ用意して飾り付けまでしてねぇ。あんなウキウキのアリスちゃん見るの久しぶりだったわ。あ、今日は遠慮せず泊まっていってね。それとママから一つ忠告。なんだかエッチな雰囲気になってきたら、ちゃんと灯りを消して、通信機器と端末はみんなオフにして、何よりも避――」
「ママぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」
アリスの大絶叫に思わず耳を塞ぐ俺。うおおお鼓膜ぶっ壊れるかと思ったぞ!
もう茹でダコみたいに真っ赤になったアリスは涙目で実の母親をぐいぐいと俺から引きはがし、さらに両手で押しのけ始めた。
「ママのバカっ! 信じられないっ! もういいから! 早く帰ってっ!」
「ええ~? 帰ってきたばかりのママに帰れなんてひっどーい」
「どうせまだお仕事あるんでしょ! ママのスケジュール全部覚えてるもん! 覗きに来ただけなんでしょ!」
「あはははっ、さすがアリスちゃんね。そうね、これ以上楽しいお誕生日会を邪魔しちゃったら申し訳ないし、ママはお仕事に戻ります。それじゃあねシュンくん。お誕生日おめでと♪ ゆっくりしていってちょうだい。キティちゃんとバンくんもね!」
「あ、ど、どうもっす」
「ハァイ! アリスママ、お仕事ファイトだよ~!」
「ありがとうございます。遅くまでご苦労様です」
「いいから早く帰ってぇ~~~~~~~~!」
アリスにぐいぐいぐいぐい押されながらリビングを追い出されていく母親。こちらにひらひら手を振っているところでアリスが無情に扉を閉じ、少しばかり部屋が静まりかえる。
肩で息をしながらスタスタと戻ってきたアリスは、俺の隣に座ると何も言わずにケーキをバクバク食べ始めた。横顔からわかるくらいに赤面している。俺は今のこいつに掛けるべき言葉を知らねぇ……。
「アリスママ、相変わらず面白い人だね! ねぇねぇアリス、それでアリスがやってるエッチなゲームってどんなのなの? キティマンガも好きだから読んでみたい! アリスのイラストも見てみたいな! シュンも見てみたいよね? ねぇねぇアリスおねがいおねがーい!」
「キティ……それ以上はやめてやれ…………」
バンさんがフォローに入るものの、止まらない無邪気ガールキティに腕を掴まれてぷるぷる震え出すアリス。ぷるぷるアリスさんは今にも泣きそうな訴えかける瞳で俺の方をチラ見してきた。その目やめてくれ頼む!
「あ、ねぇねぇシュン! それとダツイマージャンって何? あたし、マージャンもルールがわからなくてやったことないんだけど、ダツイってなにするの? 前にゲンジィが教えてくれるって言ってたのに、アリスたちにとめられたんだぁ。そうだっ、今から一緒にダツイマージャンやろうよ! それであたしに教えて! ねっ!」
今度は俺の方にくっついてくるキティ。好奇心に溢れた純真無垢な笑顔が眩しい。頼むバンさん止めてくれ。すまん後は任せたみたいな顔で俺を見ないでくれ! なぁ俺たちはキティをどうやって正しい道に導けばいいんだ!?
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