19credit.トキノミヤ家

 と、そこでキティが突然俺の腕を掴む。


「ねぇねぇシュン! 元気になったならまた一緒にゲームしよ!」

「またかよ。さっき俺、地獄の2時間を過ごしたばかりなんだが」

「たった2時間でしょ? せっかく友達になれたから、もっと一緒に遊びたいの! ねぇねぇシュンやろうよ~おねがい~! だめ? だめぇ……?」


 子犬みたいに瞳をキラキラ潤ませながら抱きつくように密着して懇願してくるもんだから、無理にふりほどくわけにもいかず困惑する俺。しかもキティの胸が当たりまくってなおさら動けなくなる。オイなんだよこの中二女子ズルすぎるだろ……。


「はぁ~、わかったわかった。まぁキティはそろそろ帰る時間だろうし、それまでは付き合ってやるよ」

「やったー! じゃあねじゃあね、まずスキレボやろっ! それから太鼓やドラムやワニ叩いたり、レースでかっ飛ばしたいな~! here we go!」

「激し目のばっかりじゃん! ちょ、オイ待てってキティ! 行くから離してくれ!」

「も、もう~! キティったら気に入った人にはすぐ甘えるんだから……! ワガママでごめんなさいシュンくんっ」

「海外出身ゆえか、キティはスキンシップが激しくてな。それに一人っ子らしく、兄姉のような相手が増えて嬉しいのだろう。無理せず付き合ってやってくれ」

「そう言われてもなぁ……だから行くって! 引っ張るなキティ!」

「えへへ! あ、それとねシュン! あたし、今日はサンシャインに泊まるから帰らなくていいんだぁ」

「は?」

「キティが帰るまで、付き合ってくれるんだよね? シュンってやっぱりお兄ちゃんみたいで優しいね! 大好きになっちゃった!」


 嬉しそうなキティから、無言でアリスとバンさんの方に目を移す俺。アリスは苦笑いを浮かべ、バンさんは諦めろと言わんばかりの達観顔でうなずいていた。


「まずはあたしと100本勝負しよっ! あ、でもアリスとバンも遊びたいだろうから、みんなで100本勝負もやろっか! それに、まだシュンのこと待ってくれてる人たちもいるから、みーんなで歓迎会の続きだね! 目指せ10000本勝負! show must go on!」

「いちまん!? さすがに勘弁してくれ!! キティ! オイ待ってくれ! マジでやめてぇ!!」


 こうしていよいよゲームに殺されかけた俺であったが、アリスが手引きしてくれた裏口から隙を見てこっそりと『サンシャイン』から脱出。難を逃れた。いやあのままアイツらとやってたらマジでぶっ倒れて死ぬぞ! キティも体力ありすぎだろ!


「シュ、シュンくん? 大丈夫……ですか?」

「ぜぇ、はぁ……だから、大丈夫じゃねぇよ…………でも助かった。サンキューな。つーかここって……」


 ようやく落ち着いて周りを見渡す俺。

 アリスのID認証によって高速エレベーターが辿り着いたのは、サンシャインビルの最上層階だった。開いた瞬間に緑豊かな屋上庭園が広がり、その先に豪奢な装いの玄関扉がある。昔、最上階には誰でも入れる展望台施設があったらしいが、今は個人所有の家になっているらしい。つまり絶景を独り占めってこったな。ま、セキュリティの問題で専用のID認証をしなきゃこの階に辿り着くことさえ出来ないはずだが……って、え?


「……アリス? お前、ひょっとしてここ……」

「はい。私の、と言いますか、トキノミヤの家です」

「やっぱり!? お前こんなとこ住んでんの!? ――ってそうか、サンシャインビルは『プリンセス・アーク』の所有だし、そりゃトキノミヤの家があってもおかしくないか。いや……なんかもうすげぇな……」

「すごいのは母ですよ。どうぞ、こちらへ」

「え? い、いやこちらへって……」

 アリスが当たり前のように歩み出し、戸惑う俺を玄関へと促す。

「ちょ、ちょっと待てよアリス。いや、いくらなんでもお前の家に避難ってのは。ていうか俺もそろそろ帰らないと……ってぇ! もう門限とっくに過ぎてんじゃんか!」


 手首をタップして出てきた立体時計を見て愕然とする俺。時刻は既に22時を過ぎている。陽光寮生の無断外泊には厳しい罰則があり、生徒が作ったゲームのデバッグを週末延々とやらされるらしいのだ。嫌だ絶対やりたくねえええぇ!

 動揺する俺にアリスがくすくす笑って話す。


「大丈夫ですよ。学生寮には私から連絡を入れて許可を頂きましたから」

「そ、そうなのか!? 助かった……ってオイ! ど、どういう連絡入れた!?」

「え? ええと、1年Sクラスのマナカ・シュンくんは、同じクラスのトキノミヤ・アリスの家で一泊致しますと。そう簡潔に連絡をしましたが……」


 と、そのタイミングで手首からの立体映像にぴこんっとボイスメールのアイコンが光る。差出人はリョウ。タップするとリョウの声で内容が読み上げられた。


『やぁシュン。早速トキノミヤのご令嬢としっぽりお泊まり会とは手が早いね。

 一つアドバイス。エッチなことするときは通信端末全部オフにしておいたほうがいいよ。あと録画もやめておくこと。情報漏洩や炎上は怖いからね。

 それじゃあ帰ってきたら感想聞かせてね。おめでとう』


「しねぇし感想なんて言わねぇよアホたれぇ!! ぐああああ~~~~……!」


おそらくは既に寮生全員に知れ渡っていることだろう。もはやそれ以上言葉もなく頭を抱える俺。最悪だ! おめでとうって何だよ! 

 隣のアリスはぷるぷると震えだし、ようやく自分のしでかしたことを知ってか顔中真っ赤になっていた。下手したら特大ネットニュースになって俺は終わる。終わるかもしれないが、サンシャインに戻ればゲームやりすぎ死確定なため、ここで一泊していくほかはない。ていうか何もしないし問題ねぇじゃん! そうだよなアリス!?


「あ、あの、あの…………そ、そそそういうことは! まだ、は、早いかなって、わ、私、ごごごめんなさい何も準備していなくてあのっ!」

「いらんいらん準備なんてすな! 普通に泊めてください!」

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