18credit.キティ&バン


「ラブ! ダーイブ!」

「うわっ!? ちょおっ!?」


 なんとか抱き留めることに成功したものの、彼女の顔やら胸やらが思いきり当たった上にむっぎゅぅ~~~と押しつけられて痛いやら気持ちいいやら!

 そうこうしていると授乳室からもう一人長身の大男がぬっと現れて、なんだか申し訳なさそうにつぶやく。


「すまん……うらには止められなかった……」

「いえ、バンさんのせいでは……キティはこういう子ですし……はぁ~。ごめんなさいシュンくん。二人は私と仲良くしてくれているゲーマー仲間で、改めてちゃんと紹介したかったんです。それで控えていてもらったんですが……」

「いやそれはいいけどあんたらどこに待機しとんじゃい! つーかお前! 危ないから急に飛びついてくるな!」

「ゴメンねっ! ラブテンションが止まらなくって☆」


 俺の膝の上に座り込んだまま、「てへへ」と無邪気に笑う目の前の小柄な少女。綺麗な金髪と赤いリボン、綺麗な青い瞳がよく目立ち、後ろで二つに結った髪型や顔立ちからはまだ幼さが感じられるものの、先ほど俺に押しつけてきた体の一部は大変なボリュームに成長している。女性らしくも活発な印象の女の子だ。

 対戦前に一度聞いたが、確か名前は……


「えーっと、カトリーナ、だったっけ?」

「イエス! あたし『カトリーナ・アニエス=ウィンズレット』です! プロを目指してがんばってるの! 覚えててくれてウレシイよ~シュン!」

「そりゃあ初っぱなからVRホラーゾンビシューティング激悪難易度でやらされたらなぁ。しかもお前、両手銃でパーフェクトとってたし。ああいうのが得意なのか?」

「うん! はじめてパパとプレイしたのがガンシューで、それからすっかりゲームにハマっちゃったんだ! 愛称はいろいろあるんだけどねー、みんなはキティって呼んでくれてるの! シュンもそう呼んでくれたらウレシイな!」

「あ、ああ。わかった。キティな」

「うん! これからよろしくね、シュン! チュッ☆」


 屈託のない朗らかな笑顔でまた抱きついてきたかと思えば、いきなり俺の頬にキスをしてきたキティ。アリスが「ほぁー!?」と昔のゲームの変なSEみたいな高い声を上げてキティの腕を掴み、俺から引きはがす。


「キ、キ、キティのバカぁ! シュンくんには絶対いきなりキスしないでねって言ったのに!」

「そうだったっけ? ゴメンねアリス! ラブテンションマックスだったから~!」

「キティ……お前さんはもう少し日本人としての慎みをだな……」


 ゲームも上手いが日本語もめちゃくちゃ上手いスーパーポジティブガールキティは、アリスともう一人の男に諭されながらもニコニコ楽しそうに笑っていた。何なのこの子。え? つーか日本人なの?

 それから俺は筋骨隆々な男の方へ視線を向ける。


「あんたとはクレーンゲームで闘ったよな? 名前は……スマン」

「気にするな。うらは『ゴリガワラ・バンタロウ』。アリスから話は聞いている。イケブクロで暮らすなら、それなりに会うことも多いだろう。よろしく頼む」

「ああ、どうも」


 差し出してくれた手を掴み、握手をする。がっしりとした手は大きくてとても力強かった。そしてこの筋肉質な手や体からは想像出来ないほど繊細で慎重なプレイをしていたのが記憶に残っていて、クレーンゲームでは一切のミスなく目的の景品を乱獲していた。人は見かけによらないものだ。


「にしても、ゴリガワラってすごい名前だな。名は体を表すというか……」

「よく言われる。地元イシカワの方の名前でな。小さい頃のあだ名はゴリだったが、今はバンと呼ばれることも多いな。好きに呼んでくれ」

「北陸の人だったのか。わかった、じゃあ俺もアリスにならってバンさんで。年上、だよな?」

「21才だ。大学に通いながらプロゲーマーとして活動している」

「そっか、じゃあやっぱりバンさんで。敬語……にした方がいいかな」

「気を遣わなくていい。ホームの仲間ならなおさらだ。なにか困ったことがあれば聞いてくれ」

「どうも。つっても、まだサンシャインに所属してるわけじゃないんだけどな。んで、ずいぶん仲よさそうだけどキティはアリスと同い年くらいか?」


 まだ愉快にドタバタしていた二人の乙女に問いかけると、


「あっ、あたしは13才だよ! 今月中学二年生になったばっかり!」

「は?」

「アリスはね、お姉ちゃんみたいな友達で昔から大の仲良しなんだ~! シュンもあたしのお兄ちゃんみたいな友達になってくれたらウレシイなっ! えへへへ!」


 アリスに頬ずりしながら無邪気に笑ってほんのりと頬を赤くするキティ。

 俺はさすがに動揺していた。じゅーさん? 中二? 嘘だろ? そんなにご立派なものをお持ちで? これがグローバルサイズってことか? いやまぁ確かに童顔だしそう言われりゃおかしくないかもしれないがいややっぱりこのサイズはおかしいだろでもさっきバンさんが日本人とか言ってたし……ええっ……!?


「シュンくんの考えていることはわかります……キティは外国の子なんですが、6才の頃にこちらへ移住してきているので、中身はすっかり日本人なんです……それとよく食べるんです……」


 と、アリスがキティの胸元を見つめながら教えてくれた。マジでわかっておられた。


「あのね! あたしが小さい頃にスバルがうちにホームステイにきてね、それで一緒にゲームしてすっごい楽しくて! それでニホンに来たんだ~!」

「へぇ……スバルって世界王者のか? それで移住してくるなんてアクティブだな」

「うんっ! 今じゃニホンも心の故郷だよ! 毎日楽しくってラブハッピー!」


 と言いながらアリスにぐいぐい抱きついて胸を押しつけているキティ。顔が埋まりそうになったアリスがさすがにぐいっとキティを押しのけた。


「うう! キ、キティは確かに素直な良い子で成長も早いですけど、で、でもまだ私の方が大きいですから! ほら見てください! 負けてませんからっ!」

「はぁ!? な、なにを張り合ってんだよアリス!」

「アリスは相変わらず負けずギライだね! でもでもっ、大成長期のあたしもも~っとおっきくなってアリスを抜いちゃうぞ!」

「お、お前たち……はしたない争いはやめておけ……」


 どうやら意外とウブらしいバンさんが耳を赤くして目をそらしながらたしなめる中、アリスとキティはお互いの胸を押しつけ合って謎の勝負を始めていた。なにこの人たち……やっぱプロゲーマーってクセ強いのかしら……。

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