16credit.歓迎会

 呆然とする。

 相変わらずのだだっ広い店内には、見渡す限りに広がるゲーム筐体。いくつかの階には飲食可能なレストランカフェや休憩スペース、たい焼きや爆弾焼きの出店なども用意されており、地下には巨大なスーパーマーケット、上層階にはホテルや居住エリアもある。ここで暮らすことに憧れるゲーマーは多いが賃貸はとんでもない額だそうだ。最低でもAクラス程度のプロでなければ厳しそうだな。さすが世界屈指の有名ゲーセンだ。


 そんな超有名ゲーセンに。



『マナカ・シュンくん歓迎会 ようこそサンシャインへ!』



 などという、バカでかいデジタル横断幕が煌びやかに張られていた。


「は? ……はぁっ!?」


 それだけではない。

 スタッフさんたちに客たち、老若男女を問わず多くの者たちが集まって“こちら”に注目していたのだ!


「シュンさ~~~~ん! どうもどうも! また来てくれたんですねお姉さんは嬉しいですよっ! 思わず歓迎のハグですぅ!」

「おわぁっ!? イ、イロハさん!?」


 真っ先に抱きついて熱烈なお出迎えをしてくれたのは、いつも通りのミニスカ和装なイロハさん。頭のうさ耳が嬉しそうにぴょこぴょこ揺れていた。ずっと思ってたけどそれどういう仕組みなんだ!? ていうかそのなんかもういろいろ当たってますんで!


「イ、イロハさんっ! ダメですよ急に男の子にハグなんて! そ、そんなキティみたいな大胆なこと!」

「あはー、すみませんつい嬉しくなっちゃいまして♪ でも私は、きっとシュンさんがまたここに来てくれると思っていましたよ。アリスさん、良かったですね」


 そう言ってニッコリと微笑むイロハさんに、アリスがちょっぴり照れたようにうつむいた。わずかに頬が赤くなっている。

 イロハさんは姿勢を正し、店内を手で示してかしこまる。


「いらっしゃいませ、ようこそあなたの『サンシャイン』へ。どうぞごゆっくりとお楽しみください♪ 皆さまがアツアツでお待ちですよ!」

「……皆さま? …………オイオイ、皆さまって……まさか……!」


 嫌な予感に顔が引きつる。

 果たしてその予感は当たっていた。


「ウェルカムトゥサンシャァァァイン! 歓迎するよニューチャレンジャー!」

「ふむ、お前さんがアリスの話していた新人か。筋肉はずいぶん未熟なようだが」

「ホホホ。少年よ、そのリビドーを牌にぶつけてみんか」

「アリスさんが目を付けた、ということはそれなりの実力者のようですね。楽しみです」

「ヒャヒャヒャ! オメーにサンシャイン名物が耐えられっかねぇええええ!」


 金髪碧眼の元気そうな女の子、ゴリゴリに鍛えた長身のマッチョ、仙人のように厳格な雰囲気の爺さん、光る眼鏡をクイッとやるインテリ少女、世紀末モヒカン風男子などが次々に押し寄せてくる。


「ちょ、はぁっ!? いきなりなんだよアンタら! サンシャイン名物……って、ま、まさか!!」


 ハッと気付いてアリスの方に視線を送る俺。アリスは少し申し訳なさそうに手を合わせて苦笑した。隣でイロハさんが暢気にデジタルクラッカーをパーンと鳴らしている。


「オイアリス! サンシャイン名物ってアレだろ! ホームゲーマー100人が100個のゲームで新人をひたすらいびるっていう歓迎とは名ばかりの地獄の洗礼じゃねぇか! クレイジーゲーセン特集で海外の人にめっちゃ叩かれてたぞアレ!」

「ご、ごめんなさいシュンくん。事前に話したら一緒に来てはもらえないかもと思いまして……その、ナイショで連れてきちゃいました……えへ♪」

「『えへ♪』じゃねぇええええ! 冗談じゃねぇ俺はそんなのごめ――あっ、ちょ、お前らなんだよ離せ! は? 最初はガンシューティングやろうって? だからやらねぇって! そもそも俺は越してきたばかりでサンシャインにも所属してな――てめぇら話聞けよおおおおおお!」


 こうして血気盛んなヤバイ連中に捕まってしまった哀れな俺は、文字通り地獄の100連戦という大歓迎デスロードを受けてぶっ倒れそうになるのだった――。

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