第三章 ホーム
14credit.ゲーム漬け生活
翌日からいよいよ本格的な高校生活がスタートした。
「皆さんおはようございます。この一学期ではプロゲーマーになるため、またはゲームクリエイター等を目指すための基本的な知識を学ぶことになります。進化を続ける現代のゲームがどのように生み出されるのか、ゲームが市場でどのような価値を生むのか、そして皆さんがその世界にどう関わっていくのか、よく考えながら学園生活を送ってくださいね。それでは早速授業を始めましょう――」
担任のアマミ先生が、ホームルームからそのまま一時限目の座学をスタート。俺たち生徒はそれぞれ専用端末を使って教科書を読んだり先生の話を録音したりする。電子ノートを使って書き留める生徒もそれなりにいた。
初日の内容は現代に続くゲームの歴史から、時代を作ったゲームやゲーマー、クリエイターたちのことまで。まず教わるのはやはり基礎的な知識だ。
この時代、一番の娯楽施設はやっぱりゲームセンターである。
と言っても、ただ流行りの最新ゲームを遊ぶだけの場所ではなく、ホテルなどの宿泊施設や飲食店、映画館、中には水族館や動物園、サーキットコース、カジノといった珍しい施設まで持つ店舗も全国には存在している。ゲームセンター同士で客と所属プロとを奪い合う構図によってそれぞれの店舗が特色を作り、進化していった結果だ。
そのため今ではどんな小さな市町村にも大体一つはゲームセンターがあるし、地方都市クラスになればドーム規模の巨大な店舗やサンシャインビルのような“観光名所化”した店舗もある。店舗が有名になればなるほど多くのプロゲーマーたちが『ホーム』として利用してくれるようになるし、アリスやハクバ・スバルのようなスターゲーマーが所属してくれれば売り上げ大幅アップにも繋がるため、ゲームセンター側も必死だ。そして運営をサポートしたり配信で実況解説などを行うイロハさんのようなゲームセンタースタッフも花形職業となっている。
しかし、やっぱり皆が目指すのは“プロゲーマー”だろう。
WPGAが基準を設けたプロテストは世界のどこででも受験でき、合格すれば世界ランキングに名を連ねられるようになる。プロとしてまず目指すべきことは、このランキングを上げて名を広め、収入を得ることだ。そのためにプロはランカーバトルに参加したり大会に出たりする。大きな大会にもなると優勝賞金は数十億以上にもなるため、勝てば一躍大スターだ。
アマミ先生が巨大電子ボードに表示したランキングシステムを差して説明する。
「プロになった方は皆、最下位のDクラスからスタートすることになります。そこからランキングを上げるに連れてC、B、Aと所属するクラスも上がり、世界ランキングトップ100に入れば晴れて最高位のSクラスゲーマーとなることが出来ます。世界に100人しかいないSクラスのトッププロになればWPGAより手厚い最高保障が受けられるため、ゲームのみに集中する環境を得られるでしょう。――と、簡単に言いましたが、それは本当に一握りのプロだけです。私はまだAクラスが最高ですから、既にSクラスプロとなって活躍しているトキノミヤさんは憧れの生徒、というわけです! 今度ゲーム教えてね!」
先生のお茶目発言でアリスに注目が集まり、皆が「おお~」と軽く拍手をした。アリスは照れ照れとうつむき加減だ。
先生の発言は決して大げさじゃない。
ボードに表示された世界の“EGIS”人口は現在10億人以上にものぼるが、その中で正式なプロとなっているのは500万人ほど。そのほとんどが最下位のDクラスだ。Cクラスのプロでさえ100万人ほど。Bクラスは10万人。Aクラスは1万人と、どんどん狭き門になっていく。
アマミ先生のAクラスというのも本当に優秀なゲーマーしかたどり着けない世界で、Sクラスゲーマーがいかにバケモノ揃いかということがわかる。かつてその頂点に立っていた一番のバケモノこそが俺の兄――キョウだ。
そこでボードの映像が切り替わり、話は陽光学園のシステムへ移行。
「皆さんもプロになれば、常にランクを意識しなくてはなりません。そのために、陽光学園では『ランカー試験』と呼ばれる学内ランクを決定するテストシステムがあります。学内ランクによって自分がどの程度の力を持っているのか、どのランクを目指すべきなのか、自身を客観視することはとても大切なことです。ランクとはプロにとって強さの証明であり、誇りです。皆さんも学生のうちから真剣勝負の世界に身を置き、立派なプロを目指してくださいね!」
アマミ先生の教えはわかりやすく、そして背中を押してくれる熱量と優しさがあった。ゆえに話を聞いていた皆はワクワクした表情をしていて、今にも闘いたいという感じだ。
もちろん陽光学園のような“EGIS”校でもそれなりにしっかりと一般科目は学ぶことになるが、しかしそこは“EGIS”校。やはりゲーム系科目の授業で目を輝かせる者たちばかりだ。特にこのSクラスはそれが顕著だろう。
――というわけで四時限目。今日初めてのゲーム実技ではやはり皆のテンションが大きく上がった。こういったゲーム科目でも現役プロの講師たちが座学や実技指導をしてくれることが多く、学園側が生徒のモチベーションをコントロールするのが上手かった。
ここで俺が驚いたのは、クラスメイト達のゲームの腕前だ。
さすがは陽光のSクラス。アリスのようにプロ資格を得ているヤツらも存在し、既に小学校中学校で結果を出している者も多く、それぞれから高いセンスと実力を垣間見ることが出来た。数戦ほど手合わせすれば俺にもわかる。
「マナカだっけ? なーんか途中から動き硬くなってたなぁ。集中保った方がいいぜ?」
「マナカくんってすごく操作が上手いのに、良いところでちょこちょこミスしちゃってたよね。もったいないよ~一緒にがんばろ!」
「お前さ、ちょっと手ぇ抜いてね? マジでやらねぇと置いてかれんぞ」
対戦したクラスメイトたちからそれぞれにそんな言葉を頂いた。手を抜いていたつもりはないが、集中出来ていないゆえのミスが多いというのはその通りだと思う。実際に、キョウがいなくなったあの日から俺は本気でゲームに集中出来たことがない。全戦全敗。彼らに負けるのも必然だろう。
「そうは言われてもなぁ……」
騒がしい方へと目を向ける俺。
一方のアリスは、実力者揃いのクラスメイトにも負けじと見事なプレイを見せつけ、本日の対戦勝率9割超えを誇っていた。彼女へ挑戦状を叩きつけるヤツらも多く、実技科目はとかく盛り上がりを見せた。昼休みになってもゲームを続ける者が多いくらいに。
そんなこんなであっという間に一日の授業が終わり、皆は部活や放課後のゲーセンにと足早に教室を出て行く。
「さぁシュンくん、今日も一緒に遊びましょう!」
「うーんいくらやらないといっても聞いてくれない我が部長の強引さよ」
もはや抗うことを諦めていた俺はアリスと共に『FS部』へと足を運んで彼女のやりたいゲームに付き合い、寮に帰ればリョウにからかわれ、眠りにつく。
こんな日々が一週間ほど続き、陽光学園生徒としての日常にもだいぶ慣れ始めていた――。
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