12credit.目指すべきは頂点

 ――んで、結局強引すぎるアリスに付きそう形でゲームをやらされる俺。


 最新のVRゲームではなく、俺たちは四十から五十年以上も前の古いゲームばかりで遊んだ。VRの発展により、現代でPCゲームといえば大半がVR専用のモノを指すため、こうやってゲームパットやらアケコンやらを手にレトロなゲームをプレイするのは本当に久しぶりだった。そんなレトロゲームでもアリスは一切手を抜かず、チートみたいな“遊戯者の魂”で俺に圧勝してキャッキャと嬉しそうに笑う。ホントゲームバカだわコイツ!


 そしてようやくチャイムが鳴り響き、下校時刻を知らせる放送が流れてくれた。

 アリスが残念そうにつぶやく。


「ああ、もう部活の時間はおしまいですね。せっかくなので、FSⅡをあと20戦くらいしたかったのですが……」

「もう十分やったろ勘弁してくれ!」


 帰り支度を済ませた俺に、アリスもしょんぼりしながら支度を済ませる。

 二人で部室を出たところで、俺は尋ねた。


「なぁ。それでキョウの手がかりっていうのは?」

「へ? ……あっ、完全に忘れてました!」

「オイコラ完全記憶能力者! 俺はそのために入部したんだぞ!」

「ご、ごめんなさい。それじゃあ歩きながら話しましょう。えっと、シュンくんは『ニヴルヘイム』というゲームセンターをご存じですか?」

「『ニブルヘイム』?」


 眉をひそめる俺。

 北欧神話における闇の世界、霧の国や氷の国とも呼ばれる名を冠したそのゲームセンターは、ネット上で何度も聞いたことがあった。


「それって確か、世界のどこかでひっそり営業してるっていう闇ゲーセンのことだろ? 表の世界ではゲームをプレイ出来ないワケアリなヤツらが集まって、毎晩どこかで秘密裏に金を掛けてバトったりしてるっていう……。んでもそんなの都市伝説だろ? まさか、キョウがそこにいるっていうのか?」

「真実はわかりません。けれど、信頼出来る情報です。プロの間でも『ニヴルヘイム』は実在するんじゃないかと言われていますし、表の世界で敵なしと言われていたキョウさんですから、ひょっとしたらライバルを求めて裏の世界へ行った可能性もあるのではないかと」

「……なるほど、そういうことか」


 正直、腑に落ちるところはあった。

 最初は『ニヴルヘイム』なんて馬鹿げた噂話だと思っていたが、アリスが嘘をついているようには思えないしその必要もないだろう。それに、キョウならそうすることだって十二分にありえると思ってしまった。裏の世界に行くなら、表からは姿を消さなくては多くの人や場所に迷惑がかかる。俺みたいな家族にさえ内緒にしたのもそういうことかもしれない。なんだか真実みを帯びてきた。

 アリスは姿勢良く廊下を進みながら話を続ける。


「残念ですが、それ以上の情報はまだ。けれど、プロとしてランクを上げ続けていけば、もっと多くの情報が手に入るはずです。現世界王者の『ハクバ・スバル』さんに世界大会で挑み、勝利してランク一位となれば、今までとは比でない特権を駆使することも出来ます」

「なら、アリスは『ハクバ・スバル』を倒して王者になるつもりなのか?」

「はい。元々プロとして目指すべきは頂点のみでした。それは平坦な道ではないでしょうが、王者になればキョウさんを見つけることも出来るかもしれません。ならば私は、ただ真っ直ぐにその道を歩むだけです。正直なお話をすれば、キョウさんを見つけることは“ついで”です。私の夢は、いつだってこの世界のトップに立つことですから!」

「……お前……」


 そう語る彼女の横顔は綺麗で、本当に、何の憂いもない瞳をしていた。そんな彼女だからこそ、そんな燃えるような魂を持つからこそ、この年でプロとして活躍し続けているのだろう。

 本当に、すごいなコイツは。

 心から尊敬出来る。

 諦めさえしなければ……ひょっとしたら、俺も――


「シュンくんはプロを目指さないのですか?」

「……え?」

「プロになれば大好きなゲームがたくさん出来ますし、強い人たちとたくさん闘うことが出来ます。キョウさんを捜すためにも、プロになった方が都合が良いはずですよ」

「……まぁそりゃそうだろうけどな。俺にはキョウみたいな才能はないの。この前のプロテストにも落ちたからな。だから俺には無理だって」

「ふふ。ふふふふっ」


 そこでなぜか突然笑い出すアリス。俺は少しギョッとした。


「な、なんで笑うんだよ?」

「ボロを出しましたね? プロテストを受けたということは、やっぱりゲームが大好きってことです! シュンくんの負けです!」

「あっ――い、いやそれは昔の話で! てか勝ち負けの話じゃねぇだろ!」

「ふふふ、そうですかそうですかっ」


 くすくすとおかしそうに笑ってスキップを始めるアリス。くそっ、なんか上手いことハメ技でも喰らった気分だ!

 アリスはスカートをなびかせてくるっとこちらに振り返って言う。


「シュンくんシュンくんっ。明日は何をしましょうか? あっ、そうだアナログなボードゲームはどうでしょう! 母の会社で新作が出来たばっかりで、試遊してほしいって言っていたんです。私、運が重要なゲームも大好きだから!」

「もう俺がやること決定してるじゃん……つーかお前、普段とゲームやってるときとで全然違うよな。子供っぽいと言うかなんというか、生き生きしすぎてて別人みたいだぞ」

「よく言われます。でも、好きなことをしているときはみんなこうなるものですよね。シュンくんと同じです♪」

「だから俺は違うって!」

「ジャンルが偏ってももったいないですから、他にもいろんなゲームを用意しておきますね。音楽ゲーム、パズルゲーム、あとは恋愛シミュレーションも……ふふっ、当時一世を風靡した名作ばかりですし、この際ですから全部やろうかな♪」

「だから人の話聞いてくれるぅ!? 全部やってたらどんだけ時間かかるんだよ! つーかお前お嬢様だろ! プロだろ! 練習とか仕事とかあるんじゃないの!?」

「他の何より目の前のゲーム! トキノミヤ家の家訓です! お母様も悩んだらゲームを選べって言ってました♪」

「ヤベェ家じゃん!」

「部長命令ですよ。明日からも、二人で心ゆくまで楽しんじゃいましょう♪」


 ワクワクとそんな話をするゲームオタク全開のアリスは、やっぱり淑やかでお嬢様然とした普段の印象とは違い、無邪気な子供みたいに心から楽しそうで。

 そういえば昔、こんな子とゲームをやったような気がするなぁと、ふと懐かしい感覚になったのだった。

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