11credit.嘘です
「…………ていうか。ち、近いぞ……」
「へ? ……ふぁああっ!」
ようやく気付いてくれたらしいアリスが慌てて俺から身を離す。お互いに目をそらし、なんだかこそばゆい空気が流れているような気がした。
「ご、ごめんなさいっ。あの、じ、実はそれだけではなくって、以前、キョウさんと闘ったときに話してくれたことがあるんです。いつか弟が“ここ”に来るって。だからその、ひょっとしてシュンくんが、と、思いまして……」
「……ああ、そういうことか」
だとしたら。
キョウはまだ、俺との約束を守ろうとしてくれていたはずだ。にもかかわらず、なぜ突然表舞台から姿を消したのか。そう考えると、悔しさと同時に怒りもこみ上げてくる。思わず手に力が入った。
「あの……シュンくん。それからもう一つ、改めてごめんなさい」
「ん? 何のことだよ」
「今朝のこともそうですが、昨日、『サンシャイン』で」
「ああ……」
頭と頬がすぐに思い出す。あの強烈な一発を。
「本当にごめんなさい。あのときは、衝動的に手が動いてしまって……」
「もういいって。
「うう、すみません……でも、どうして昨日はあんなプレイを……? 三戦目なんて本当にすごい動きで、見惚れてしまったくらいでした! なのに……」
「あんなってお前……いやまぁそうか……」
なんだか責められているような気がして、居心地悪く頬を掻く。
一、二戦目はやる気もなく何もさせてもらえなかったし、三戦目は勝ったものの、四戦目のラストはあえて手を止めてしまった。アリスみたいなヤツからすれば、それは舐めプレイに他ならないだろう。本気のヤツほど相手の本気度がわかるからだ。
俺はあえておどけたように返答する。
「俺さ、もうゲームは飽きたんだよ。昨日はたまたまイロハさんに捕まって無料クレジットをもらったからプレイしただけ。本当にあそこでプレイするつもりなんてなかったんだ」
するとアリスは俺を顔を真っ直ぐに見て。
「嘘です」
と、即断した。
「それは嘘です。シュンくんは飽きてなんていません」
「な、なんでそんなこと」
「三戦目に感じた気迫は間違いなく“遊戯者の魂”を持つ者のそれでした。それに、本当に飽きたのならたとえたまたまでも『サンシャイン』に足を運びはしないでしょうし、ましてや無料であってもゲームをプレイしたりしません。なによりも、あなたがこの学園を選んだことが証拠です」
「い、いや、ここに来たのは両親が…………」
なんて言い訳も、なぜか途中で言い淀んでしまう。
アリスは俺の目を見つめたまま、ふっと優しく微笑んだ。
「思い出してほしいです。純粋にゲームを楽しむ素直な心を。あなたの魂の声を」
――どうして、会ったばかりの俺の気持ちを知った風なことが言えるのか。
それが少しだけ苛立ったが、ケンカしたいわけでもないし俺は何も反論せず立ち上がる。
「……話はもう終わりだろ? じゃあそろそろ行くわ」
「え? あ、待ってくださいっ。ま、まだお話したいことがあるんです」
「今度は何だよ?」
「さっきはああ言いましたけれど……あの、『FS部』に入っていただけませんか?」
「……へ?」
予想していなかった言葉に間の抜けた声が出てしまう。
「……あのな。だから俺はゲームをするつもりもこの部に入るつもりも――」
「キョウさんの手がかりをお話すると言ってもダメですか?」
「は?」
これまた想像もしなかった返答に息を詰まらせる。
それから尋ねた。
「……知ってるのか? キョウの居場所を」
「いえ、そこまでのことは。けれど、プロゲーマーになって得た物を惜しみなく使ってなんとか貴重な情報を手に入れることが出来ました。シュンくんになら、お話します」
「入らなきゃ教えてくれないのか?」
「はい、教えません!」
爽やかに笑ってうなずく、意外にも腹黒いお姫様。だが、彼女にそんな一面があることがわかって俺はむしろ好感を持った。
「……わかったわかった。幽霊部員でいいなら入ってやるよ」
「本当ですかっ? わぁ、ありがとうございますシュンくん!」
「あくまで幽霊部員だぞ。ゲームもやるつもりはないからな」
アリスはぱぁっと顔を明るくして俺の手を握り、嬉しそうにブンブンと上下に振る。やれやれ。俺みたいな弱小幽霊部員を手に入れて何がそんなに嬉しいのか。
というわけで仕方なくその場で入部届に記入をし、部長であるアリスに手渡した。彼女は本当に嬉しそうに受け取ってくれたため、まぁ、こんなもんでそこまで喜んでもらえるならいいかと思ってしまう俺もいた。
アリスは両手をぱん、と叩いて言う。
「それでは早速部活動の続きをしましょう! このままFSを続けますか? それとも他のにしましょうか? シュンくんはどんなゲームがしたいですか? あっ、こちらの
「俺の話聞いてたぁ!? ゲームやらないっつったろがい!」
「どうぞ、シュンくんはこちらのアケコンを使ってください♪ やっぱり専コンは必須ですよね! あ、もしパッドの方がよければこちらに用意してありますからね!」
「だからやらないってええええええええ!」
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