8credit.Sクラスの特待生たち
そしてトキノミヤが新入生代表としての優等生的挨拶を済ませた入学式を終えた後、俺たち新入生は振り分けられた各々のクラスへとやってきた。
「『トキノミヤ・アリス』です。得意……と呼べるほど習熟出来たゲームはありませんが、ゲームはなんでも大好きです! ここでしか得られないものをたくさん学んで、楽しい3年間にしたいです。皆さま、宜しくお願いいたします」
歓声と拍手。担任の先生までキャーと嬉しそうに手を叩いていた。ちなみにそんな『アマミ・リサ』先生は現役女性プロゲーマーであり、プロの仕事の一環として教育活動を行っている人だ。
――1年S組。
ここは“EGIS”特待生のためのエリートクラス。つまり全員が優秀な成績を収めてきた若きゲーマーたちで、その未来を期待されているヤツらだ。陽光のSクラスといえば数多くの有名なプロゲーマーを輩出した登竜門として有名で、全国からここを目指して入学してくる若きゲーマーが山ほどいるくらいだ。たとえSクラスに入れなくても他のクラスに入れただけで十分に“箔”が付くと云われている。
トキノミヤがここにいるのはわかる。成績も誰より優秀だったろうしな。
しかし、たまたま運良く受かっただけの俺には不釣り合いな気がする。考えたくはないが、忖度されたんじゃねぇだろうな……。
「あれ? あの人、確か朝にアリスちゃんと……」
「ほら、校門のところでさ……」
「特待生? でも中学大会とかでも見たことないけど……」
定番の自己紹介タイムに当然の注目を浴びてしまう俺。やめろやめろ。俺はそんな大したヤツじゃないぞ。
「ええと、『マナカ・シュン』です。得意なゲームは……まぁぼちぼちみたいな感じで。よろしくお願いします」
それだけ告げて席に戻る。「え? マナカ?」などと皆は少しだけざわついたが、すぐに次の人へ移って事なきを得た。
皆、好きなゲームや得意なゲーム、将来などについてあれこれと熱く語っている。これからの学園生活を期待して目を輝かせる皆を、俺はどこか他人事のように見ていた。
……俺、なんでここにいるんだろうな。
アマミ先生から今後のカリキュラム予定や学園生活についてのあれこれを聞いて本日は終了。次に俺たち新入生たちを待ち受けるのは、大講堂での部活紹介レクリエーションだ。
陽光学園の大講堂は“EGIS”の各ゲームにおける全国大会やプロゲーマー向けの大会が開かれる会場でもあるが、今日ばかりは新入生のためだけに使われる。
「うお……すげぇ……!」
ド田舎出身の俺は来たこともなかったが、もちろんネットなどでは何度も見たことがある。それでも実際目の当たりにすると呆然としてしまった。
だだっ広い講堂の中央に大ステージがあり、そこで各ゲーム部が紹介を兼ねた熱い戦いを繰り広げる様を、俺たち新入生はもちろん在校生まで含めて皆が盛り上がって見守る。普通の学校ならこういうときは運動部が幅を利かせるところだが、陽光のような“EGIS”校は違う。
――音ゲー部。格ゲー部。STG部。レースゲーム部。クレーンゲーム部。大型アーケード部。レトロゲーム部などなど、各ゲーム部が必死に新入部員を求める。“EGIS”の
二時間ほどの部活紹介が終わり、新入生たちは一斉に外へ出た。
すると当然、アイツのような有名人は真っ先に狙われる。
「トキノミヤさぁーん! 是非俺たちの音ゲー部で桜の音を開花させましょう♪」
「いやオレらの格ゲー部にきてくれぇぇぇ! アリスちゃんはぜってぇ格ゲー人だぁ!」
「トキノミヤさんは平和で華やかなクレーンゲームが合ってるよ! 遊びにきてね!」
「最先端のアーケードこそ至高! トキノミヤのご令嬢よ、是非我がアケ部へ!!」
「フヒヒヒ! 我らと古き良きレトロゲーで時代を感じようではないか!」
「あ、あのあのっ。皆さまどうか落ち着いてください。私はもう、あの、あの~!」
興奮した様子の諸先輩方に囲まれるトキノミヤ。まぁ当然だ。有名ゲーム企業のご令嬢な上に既にプロとして活躍しているアイツが部に入ってくれれば百人力だろう。
朝のときのように、俺はそんなトキノミヤを尻目に立ち去ろうとしたのだが――
「あっ! シュンくん!」
「――っ!?」
いきなり呼びかけられてドキッとする俺。
トキノミヤは先輩たちの間を抜けて俺のところへやってくると、両手で俺の手を取った。
「待っていてくれたんですね。ありがとうございます! さぁ、こちらへ!」
「はっ!? ちょ、オイ! トキノミヤ!? ていうか今シュンって――」
「皆さまごめんなさいっ、私、もう入る部活は決めているんです! それではごきげんよう」
「トキノミヤ! オイコラ話をっ、ど、どこ行くんだよっ! オイ!」
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