5credit.ゲーマーズソウル

 ――『ゲーマーズソウル』


 五年ほど前に初登場した超体感型VR格闘ゲームであり、プレイドーム型筐体の中でアバターと自身の動きをリンクさせて体感的なバトルを楽しむことが出来るのが魅力だ。設定したオリジナルの必殺技リミテッドアーツや魔術を使うときなんて、まるで自分がファンタジーのキャラになったかのような爽快感を味わえる。めちゃくちゃ体を使うため、下手なスポーツよりこっちの方がよほど良い運動になるともっぱらの評判だ。


 そしてこのゲームの一番の特徴こそが、『プレイヤーの精神状態をダイレクトに反映する』という特殊なシステムを備えていること。


 例えばプレイヤーの“やる気”に応じて必殺技用のゲージが早く溜まったり、攻撃力や防御力にプラス補正が掛かったりする。その逆もまたしかり。これが本当に面白かった。

 さらにプレイヤーの実力――そのゲームを続けることで得られる経験値によってプレイヤーランクが上昇していき、ランク差がある場合は自動的にハンデが付くというところも、初心者上級者問わず楽しめる作りとなっていた。当然、今回はプロであるトキノミヤが大きなハンデを背負うことになる。だからといって初心者や中級者がプロに勝てることはあまりない。

 

 目の前に戦闘フィールドを選択する画面が浮かぶ。これは乱入した挑戦者側が選べるようになっているため、俺は最も普遍的な城内フィールドを選択した。

 すぐに画面が暗転し、『OPEN WORLD!!』の文字とSEでバトルがスタート。


 さて、どうするか。

 ブランクのある俺は攻めあぐね、まずは様子を見ようかと思ったのだが――


「――は?」


 気付いたとき、俺は倒れて天を見上げていた。

 身をかがめて疾走してきたトキノミヤの下段攻撃に足を取られ、流れるような連撃で宙に浮かされ、エリアルからの叩きつけを絡めたコンボで三分の一ほどの体力を持っていかれ、ようやくコントロールを取り返した――と思ったところで先ほどのコンボで溜まったゲージを絡めた必殺技で〆られた。

 何もさせてもらえず、たった数秒ほどで一本取られてしまった。

 続く二本目も、俺はろくに動くことが出来なかった。まるで身体が鉛のように重く、ガキの頃にやっていたような楽しさが微塵もない。そのまま二本目もとられてしまった。

 今回は三本先取設定のため、あと一回負ければ終わりだ。トキノミヤには相当なハンデがついており、体力差は倍以上。攻撃力や防御力もかなりの制限があるのに、それでもこの強さ。

 筐体内でもよくわかった。大いに沸く歓声が会場を盛り上げて、アリスコールが響き渡っている。


 ――息苦しい。

 ――ひどく苛立つ。


 行きたくもなかったゲームセンターに連れてこられ、闘いたくもなかった相手と闘わされ、無様にパーフェクト負け。皆が相手を応援している。誰も俺のことなんか見ちゃいない。

 心臓が速くなり、血が全身に駆けめぐっていく。

 アバターそのものと化した俺の足が、わずかに震えながら地を踏む。

 三戦目が始まり、トキノミヤが序盤から一気に距離を詰めてくる。ガード体勢に移った俺に対して連撃を入れてくるが、ハンデのおかげでしっかりとガードすれば体力はほとんど削られない。このゲームには痛覚こそないが、リアルな衝撃や重みが感覚としてダイレクトに伝わってくる。だからトキノミヤの猛攻の激しさが俺にはよくわかった。わずかにキョウの動きを思い出すような正確さだ。

 業を煮やしたのか。素早いジャンプで俺を〝めくり〟にくるトキノミヤ。いわゆるガード方向を狂わせる戦法で上空からの攻撃を繰り出してきたが――


「――甘いんだよッ!」


 俺はトキノミヤの上段をジャストガードで防ぎ、空中硬直で生まれたわずかな隙をぬって右の剣でトキノミヤに初撃を放り込み、左の剣による中段、上段からキャンセルで必殺技へコンボを繋げて地面に叩きつけ返し、受け身が可能になる寸前にギリギリでリードの届く剣の攻撃を挟むと、さらなる攻撃を繋げてラストは必殺技で〆る。ハンデのおかげで攻撃力がずいぶん上がっていたこともあり、ワンコンボで体力を削りきって一本取り返した。


「よしッ!」


 思わずガッツポーズを取る俺。不思議と急に軽くなった身体は、なまっていても闘い方を覚えていた。

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