3credit.ゲームセンター『サンシャイン』

「ハイハーイ到着致しました~♪」

「うわ……」


 イロハさんに引っ張られてきたサンシャインシティビルの一階――ゲームセンター『サンシャイン』入り口。

 そこからは既に多くの人が盛り上がっている姿が認識出来て、一階は主にクレーンゲームとプリクラコーナーになっている。雑誌やネットで何度も見た場所だから階層の区分けも完璧に頭に入っていた。


「ところでおにーさん、お名前は?」

「え? ああ、マ……シュ、シュンです。」

「シュンさんですね。ようこそゲームセンター『サンシャイン』へ! ここは全世界すべての方にお楽しみいただける新時代の楽園ニュー・ゲーム・パラダイス! 勉強に疲れたお子さんも、お仕事に疲れたお父さんも、育児に疲れたお母さんも、みんなが毎日をハッピーに過ごすための楽園です! 心ゆくまでお楽しみください♪」


 その場でくるくる回ってからビシッと目元にピースサインをキメてウィンクするイロハさん。派手に動くもんだからまた胸が揺れてしまっていて、それを見た周りのお客さんたちから「おお~」と歓声と拍手が上がってイロハさんが手を挙げて応えた。


「さてさて、シュンさん当店は初めてですか? 必要でしたら店内サービスをご説明致しますよ」

「ああいや、子供の頃に一度だけ。ただ、もう登録は切れたかな。今日田舎から出てきたばっかりなんで……」

「まぁそうでしたか! 『サンシャイン』だけではなく、ようこそ『イケブクロ』へ、というわけですね! それでは早速IDの再登録をさせていただきますねー。チップを確認させていただいてよろしいですか?」

「あ、はい」


 イロハさんは俺の隣に寄り添うようにくっつき、俺の手首をトントン叩いてICチップを起動。ホログラム映像が飛び出す。個人情報は他人には見えないようになっているため何も問題はないが、他人にチップを起動されるのは慣れない。


「あ、あの。ID登録くらい自分で出来ますけど……」

「うふふ、サービスだと思ってくださいな。――はいっ、当店『サンシャイン』のご会員として登録いたしましたよ! これで今より遊び放題でございます! ただーし、お子様は規定時間にはキッチリお帰りいただきますし、クレジットもほどほどにでございますよっ☆」

「は、はい。どうも」


 そもそも『サンシャイン』に入店するつもりもゲームで遊ぶつもりもなかったのだが、ここまで来て「やっぱ帰ります」とは言えないのが情けないところだ。わざわざこうしてイロハさんに良くしてもらったのだから申し訳ない、という気持ちもある。

 ……ま、ちょっと見ていくだけならいいか。

 別に上の階に行く必要もない。一階でクレーンゲームだけ覗いて帰ってもいいんだ。

 なんて思いながら入り口のゲート装置に手首を当ててIDを認証。ウイーンとレバーが上がったところでゲートをくぐる。


「マナカ・シュンさん」


 そこで後ろから名前を呼ばれ、振り返る。

 イロハさんは、ニコッと優しく笑いかけて。


「イケブクロは楽しくてステキな街ですよ。ここが、あなたにとっての大切な居場所ホームになることを心から願います」

「……イロハさん」

「クレジット、サービスしておきました。三回までどのゲームでもお試しいただけますよ♥ それではまた!」


 そう言ってウィンクをし、イロハさんを手を振って外へと出て行く。


 ……三回まで、か。

 イロハさんの心遣いを無下にはしたくないと、俺はとりあえず三回だけゲームをやっていくことに決めた。

 ――ん?


「あれ。俺、イロハさんに名字教えてない……よな……?」



 新時代VRオンラインゲームが主流となった現代のゲームセンターだが、レトロなゲームも根強い人気を保ち、昔とほとんど変わらない造りのゲームもいくつかある。

 それがこの一階にあるクレーンゲームとプリクラ筐体である。

 ただのデータだけではなく、写真やシールとして実物を残せるプリクラはずっと手堅い人気があるらしいし、クレーンゲームはいわずもがなだ。古くからあらゆる年代の人に愛されてきたクレーンゲームはVR要素など必要としない完成されたゲームで、いつでも誰でも気軽に楽しめるナンバーワン愛されゲームだろう。何より景品をゲットして手にする瞬間はリアルの場所でしか味わえない。


 そんなクレーンゲームを二回ほどして、残すはもうあと一回きり。ちなみに二回しかやってないのに別段欲しくもなかったフィギュアを――イロハさんをモデルにしたお土産としてファンに大人気な例のポーズの限定品をゲットしてしまった。


「最近のってすげぇよく出来てるな……髪とか服とか、特に胸の再現度が……っていやいや! 取っても置くところねぇだろどうすんだよ」


 なんて思いつつドラッグストアの袋に詰め込んでおき、さて残すあと一回をどうするか。

 と、そんなとき目についたのは、一階に置かれている超大型LEDスクリーンの映像。

 そこには7階アーケードゾーンのプレイ映像が流れていて、とあるプレイヤーが四十九人抜きを果たしており、多くの観客が拍手をしていた。


 そのゲームとは――


「……『ゲーマーズソウル』か」


 俺にとっては特別で、思い出深いゲームである。

 でも、だからこそもうやりたくはないと思っていたゲームで。

 なのに、俺の身体は震えていた。まるで武者震いするかのように。

 そして、気付けば俺の足は自然と7階へ向かっていた。

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