エピローグ(1)

 事件から数日後、子竜と飛鳥は一緒に帰り道を歩いていた。

 向かう先は、子竜の家である土御門神社。

 長い石段の先の境内にあがると、「わん! わんっ!」と焔が、子竜たちに駆け寄ってくる

「くぅぅん、くぅぅん」

 飛鳥の足に身体をこすりつけ、甘えた声をだす。

「ほーちゃん、よしよし」

「――来たか」

 じいちゃんが現れた。

「じいちゃん。言われたとおり、飛鳥をつれてきた」

「おじい様、こんにちは」

「こんにちは、飛鳥ちゃん。よく来てくれたね。2人ども、こっちへ来なさい」

 じいちゃんを先頭に、子竜の自宅へ向かった。

 居間に入ると、じいちゃんが子竜と飛鳥にお茶をだしてくれる。

「さて、恒岡先生のことじゃが――」

「じいちゃん、行方不明になった学生が戻ってきたんだけど!」

「囚われていた空間がこわれ、人々の魂が解放された影響じゃろう。それから、恒岡先生はもう平気じゃ。今はご自宅で身体と心を休めていらっしゃる。近々、学校へ戻られるだろう」

「良かった……」

 子竜と飛鳥はほっと胸をなでおろす。

 本殿に先生をつれていったじいちゃんは子竜たちから聞いた話、そしてじいちゃんが先生から読み取ったものを伝えると、先生は泣き出したらしい。

「どうして先生が蛇みたいな姿になって、自分の子どもにまとわりついていたんだ?」

「加藤秀樹くんの命を奪ったのは浮遊霊の集合体――俗に悪霊と呼ばれるものじゃ。そして悪霊どもは悲しむ先生の心につけこんだ。先生が蛇の姿になったのは悪霊に魂がけがされてしまったせい。そして結果的に、息子さんの魂をがんじがらめにしばりつけてしまったんじゃ」

「でも悪霊の気配なんて何も感じなかったけど」

「先生の中に身をひそめ、気配を消していたのじゃろうが、まあ、お前が未熟だったということが大きいだろうのう」

「う……。は、反省してる……」

「……悪霊につけこまれ、結果的に守りたいと思った息子さんの魂まで、あの空間にとじこめてしまうなんて……」

 飛鳥が声をふるわせる。

「飛鳥ちゃんの言うとおり、やるせないのう。他の学生が行方不明になったのも、悪霊のしわざじゃろう。先生のいじめっ子を許せないという気持ちを利用し、誰彼かまわずあの空間に閉じこめ、生気を吸っていたんじゃ」

 じいちゃんは軽くせきばらいをする。

「さて。次に子竜――お前のことじゃが……」

 と、飛鳥が前に出る。

「おじい様! 私たちを助けるために、子竜は温羅を呼びだしたんです! あの時とは違います! 子竜はなにも悪くありませんっ! もしバツを受けるのなら、私も受けます!」

「おい、飛鳥! なに言ってるんだよ! ――じいちゃん、俺が自分の意思で開放したんだ! 悪いのは俺で……」

「子竜はだまっててっ」

「俺のことだぞ!?」

「二人とも、落ちつきなさい」

 じいちゃんの言葉に、子竜たちははっとして口を閉じた。

「責めとるわけじゃない。小学校の時の子竜は、おのれの力がどれほど大きいかを自覚せず、いたずらに力を使った。じゃが今回は冷静に力を使い、飛鳥ちゃんたちや先生、あの空間にとらわれていた人たちまで助けた……。子竜。お前は土御門家の後継者。そろそろ力をつかっても良かろう」

「じいちゃん……ありがとう!」

「ただし、くれぐれも土御門家の跡継ぎとしての自覚を忘れてはならん。力に飲まれてはいかんぞ?」

「分かってるっ」

「まあ、飛鳥ちゃんもいるからな、心配はいらんじゃろう」

「信用ねーなー」

「では、がんばるのじゃぞ」

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