第5話 温羅(1)
「ん……っ」
飛鳥は目を開けると、身体を起こす。
そこは家庭科室。
ちゃんと月や星の輝き、そして街のあかりがベランダから見える。
(現実世界に戻れたんだ……)
教室の床には、優たち3人、そして恒岡先生がたおれていた。
調べると、全員気絶しているだけのよう。
(子竜は?)
教室のどこにもいなかった。
飛鳥はふらつく足に力をいれて、廊下に出る。
子竜、いや、今は温羅の後ろ姿が見えた。彼は廊下を歩いていた。
「温羅っ!」
飛鳥は、温羅の腰にタックルをして抱きつく。
「!? な、何するんだ! 離れろっ!」
「温羅! さっさと子竜に代わってっ!」
「イヤなこった!」
ジャケットの内ポケットからとりだした数珠をつけようとすると、温羅が暴れた。
「オレが命を助けてやったんだぞ!?」
ずるずる身体を引きずられながらも、飛鳥は必死になって右手首に数珠をはめようとするが、うまくいかない。そうこうする内に温羅が廊下の外に面した窓を開けると、窓わくに足をかけた。
「どこまでがんばれるか、試してやるよ!」
「え!?」
温羅は窓わくを蹴り、とんだ。
「いやああああ!」
飛鳥は温羅の右腕にしがみつく。
学校がみるみる小さくなり、空のいただきで輝く満月が近くなった。
そうかと思えば、落下していく。
「~~~~~~~~~~っ!?」
少しでもしがみつく力を弱めたら、すぐに吹きとばされてしまいそうなくらい強い風圧にさらされてしまう。
温羅が街中のマンションの屋上に着地する。
「おお! なかなかの根性だな!」
「子竜、起きて! 私の声が聞こえるでしょ! 目を覚まして! 温羅に好き勝手にさせないで……きゃあああああああああああああ!?」
再び、温羅が人間ばなれした力でとんだ。
「こいつはオレを自分の意思で呼んだんだっ! また封印されてたまるかよっ!」
再び落下したかと思えば、その先にあったのは、ちゅうしゃ場の車。
着地した瞬間、車はものすごい音をたてて、ぺしゃんこになってしまう。
(うそでしょ!?)
色んな部品が飛び出し、タイヤが転がった。
「な、なにしてるのよ!!」
「よっ!」
別の車に飛びうつれば、さらにその車がめちゃくちゃにこわれてしまう。
「温羅、子竜の身体でこんなことするなんて最低だからっ!」
温羅の両耳を引っ張った。
「いでえええええええ……フハハハハ!」
「耳を引っぱられてるのに笑うなんて、こわれちゃった!?」
「あいつなら、今ごろ幸せさっ! 現実世界に帰りたいなんて思わねぇよっ!」
温羅は再びとんだ。
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