鏡の世界(2)

〈迷宮学園〉をタップし、三人のゆくえを探すと、俊一郎と昭夫が二人で抱き合いながら泣いている場面がうつった。場所はどこかの教室。

「飛鳥、いけるか?」

「大丈夫!」

 子竜と飛鳥、焔は廊下を歩き出す。

「でも、どこにいるか分かるの? どこも同じような光景ばっかりで……」

「〈迷宮学園〉で確認するんだ。しらみつぶしに探せば、見つかるはず」

 その時、「うわああああ!!」という悲鳴が廊下に響き渡った。

 子竜と飛鳥は顔を見合わせ、声のした方に向かって走った。

「く、くるなぁっ! こないでくださいぃ!」

 とある教室をのぞけば、四つん這いの人体模型がうつぶせに倒れた昭夫の右足に抱きついていた。

「俊一郎、助けてくれえ!」

「ごめん、ごめん、昭夫ぉ……」

 少し離れた場所にいる俊一郎は目をぎゅっと閉じ、昭夫に近づこうとしない。

「わおぉぉぉんっ!」

 焔がかみつけば、「ギイアアアア!」と人体模型は悲鳴を上げ、昭夫の足から離れる。

「焔、離れろ!」

 子竜はさっきと同じ要領で印を結び、護符を人体模型へ投げつける。たちまち人体模型は紅蓮の炎に包み込まれた。

「平気!?」

 飛鳥が2人の元に駆け寄り、ケガがないかを聞いている。

 2人とも特別ケガはしてないみたいだ。ちょっとくさいけど。

「優はどこだ?」

「わ、わかんない……。気付いたらはぐれちゃって」

 俊一郎ががくがく震えながら言った。

「なあ、何か食べるもんないか? 何も食べてなくて、身体に力が入らなくって……」

 昭夫は肩で息をする。

「腹がすいてるんじゃない。この空間に、生気を吸われてるんだよ。飛鳥は平気か?」

「うん。ちょっとつかれてるだけ」

 飛鳥は焔をなでながら言うと、俊一郎はびくっとする。

「まあ、こいつらとはここにいる時間が違うからな……。――って、俊一郎、どうした?」

「い、稲荷さん、なにしてるの?」

「なにって……ほーちゃんをなでてるんだけど」

「ほーちゃん? ほーちゃんって何?」

「俺の……てか、じいちゃんの式神」

「しき、がみ?」

「使い魔みたいなものかな」

「うん。すっごく可愛いよ。炎をまとった犬なの」

「なんだよ、お前インチキ霊能者じゃないのか!? 二人とも、ふざけてるのか……うひゃあ!?」

 焔が俊一郎の股をくぐれば、彼は尻もちをつく。

「今、何か足に触った!?」

 俊一郎は泣きそうになっていた。

「俺たち……も、もう死んじゃうんだ……」

 昭夫は頭を抱える。

「昭夫、おちつけっ。俺と一緒にいれば大丈夫だ」

「なに言ってるんだよ! インチキ霊能者のくせに! 変な格好しやがって!」

「これは陰陽師の正装だっ」

 昭夫が子竜に食ってかかってくるが、飛鳥が子竜を守るように大きく手を伸ばして、立ちはだかった。

「な、なんだよっ」

「二人を助けたのは誰? 子竜でしょ!」

「おい、飛鳥。俺は何とも思ってないから……」

「よくない! 子竜はインチキ霊能者じゃない! れっきとした本物の陰陽師よ! あなたにしがみついていた人体模型の怪物を倒したのは、子竜よ。違うっ!?」

 俊一郎は目を伏せた。

「もういいよ、飛鳥」

「でも!」

「俺がインチキかどうかなんて、元の世界に戻ってから話してもいいだろ」

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