迷宮学園アプリ(4)

 飛鳥は、子竜を見送った。

 どうせ今の子竜になにを言っても、聞く耳をもたないだろう。

 おじい様に〈迷宮学園〉のことを話してくれるかもわからない。

 今の子竜は自分のもって生まれた能力なんて無視してるみたいで、心霊系の話題には完全に無視をきめこんでいる。

 もちろん、おじい様を悲しませたり、飛鳥たちに対する罪悪感が原因とはいえ、正義感まで全て捨ててしまったみたいなのはおかしい。

「飛鳥、一緒に帰ろう」

 バスケ部の女子から声をかけられる。

「ごめんね。ちょっと調べものがあるから」

「でもすぐに帰れって言われてるけど……」

「すぐに済ませるからっ。じゃあ、また明日ね!」

 飛鳥は早口でまくしたてて会話を打ち切ると、走り出す。ジャケットの内ポケットから取り出したカギをにぎりしめ、図書室へ向かった。

 これは書庫のカギ。

 昼休み中に、職員室の壁にかかっているカギを黙ってとってきたのだ。

 悪いことだけど、調査のためには学校の過去に関する情報が必要だ。

 学校の過去に関することなら卒業文集にまさるものはない。

 小学校では過去の卒業文集は書庫にあった。だから、中学校でもそうかもしれないと思ったのだ。

 図書室の受付カウンターをはさんだ向こう側に、書庫はある。

 飛鳥はカウンターの中に入ると、ドアノブのカギ穴にキーを差しこみ、回す。

 ガチャと音がして、カギが外れる。

 ノブを回すと、心臓がドキドキした。

 中はカビくさいし、窓がないせいか圧迫感がある。

 書庫にはスチール棚がずらずらとならんでいて、本がぎっしりと並べられている。

 電気をつけ、奧に向かって進む。

(あった)

 奧の棚のひとつに、文集エリアがあった。

 年度を確認すると、数十年前のかなり古いものまであった。

 古いものから順に手にとってぱらぱらとめくり、優が動画で言っていた呪いの件を裏付けられるものを探した。

 当たり前だけど、楽しい思い出しかなく、優が動画で紹介していたような内容はなかなか見当たらない。

(……子竜の言う通り、先輩がでっちあげたのかな……)

 頭の片すみでそんなことを考えていると、〈加藤秀樹の呪いについて〉というタイトルを見つける。それは今から15年前の卒業文集。

〈1年の時に加藤秀樹をいじめていた連中が行方不明になった。きっと、加藤があの世に連れていったのだろう。呪いなんてないって加藤先生は言っていたけど、先生は自分の子どもをいじめていた連中がいなくなって嬉しくないの?〉

(加藤先生の息子さんが、加藤秀樹くんなの? 加藤先生って担任の人?)

 はやる気持ちをおさえつつ、当時の3年生の担任をしていた先生たちの一覧を確認する。

 そこにあった名前は〈加藤育美〉。

「え!? 恒岡先生っ!?」

 名字は違うし、今よりもずっと若いけれど、まちがいなく恒岡先生だ。

(加藤秀樹くんが恒岡先生のお子さん?)

 他の年度も調べると、また別の記述を見つけた。

〈加藤秀樹の呪いは本当にあるんです。なぜなら私の部活の先輩が加藤秀樹の呪いのことを調べていて行方不明になったからです〉

 ごくりとつばを飲みこんだ飛鳥は文集をバックにしまう。

 子竜に見せよう。

 書庫の扉に耳をくっつけ、図書室に人がいないかチェックする。

 人気がないことを確認すると、書庫をこっそり出た。

「え」

 思わず声がもれてしまう。さっきは確かに明かりがついていたはずなのに、消えていたのだ。

 窓からの明かりがあるから完全に真っ暗ではないけれど、恐怖に呼吸が浅くなった。

 逃げなきゃ。飛鳥は図書室から出ようと、扉の取っ手を引くけど、びくともしない。

(どうして開かないのっ!?)

 その時、カツッという音が背後でした。

「!」

 苦しいくらいの人の気配を、背中にひしひしと感じる。

 振り向いちゃだめ。今さら意味はないと分かりつつも、唇をかみしめて息を殺す。

 しかし次の瞬間、背後から伸びてきた手に口をふさがれた。

「っ!?」

 急速に意識が遠のいていく――。

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