迷宮学園アプリ(2)
子竜があくびをかみしめながら登校すれば、異様な光景を目の当たりにした。
廊下や教室にいる生徒たちがみんな夢中でスマホをいじっていたのだ。スマホをいじるのはいつも通りだけど、しんっと静まりかえるくらい全員がいじっているのは見たことがない。
(気持ち悪いな……)
子竜はそう思いながら教室に入る。
「おはよー」
(む、無視かよ)
「なに見てるんだ?」
近場のクラスメートのスマホをのぞくと、画面には俊一郎の姿が映っていた。俊一郎がきょろきょろと辺りを見回したかと思えば、何かにおびえるような顔でこっちに背を向けて、奥の方へ走り出す。
「なんだよ、それ」
「〈迷宮学園〉だよ」
「は?」
「入れた覚えなかったんだけど、〈迷宮学園〉ってアプリがスマホに入ってたんだよ。それを開いたら、こんな映像が……」
「みんなもか?」
「さあ」
画面から俊一郎の姿が消えると、男子は画面を何度かタップする。タップするたび、画面が切り替わる。映像は廊下だったり、部屋の中だったり。そして何度目かのタップで、優の姿が表示された。優は部屋にいるらしい。
(教室?)
薄暗かったけど、黒板や教卓、並んだ机が見えた。
優は何かをわめきたてながら、教卓にもぐりこんだ。
「もうちょっと見せてくれ」
「おい、自分のスマホで見ろよ」
「わ、分かったよ……。そんなに怒るなって……」
子竜がスマホのホーム画面を見ると、入れた覚えもないのに、大きな目玉のアイコン――〈迷宮学園〉が存在していた。
もちろん、入れた覚えはない。今朝、ゲームアプリを起動した時にはこんなものはなかった。こんな強烈なアイコンを見逃すはずがない。
「っ」
アプリを起動した瞬間、ぞわっと全身に寒気がはしった。
教室にはどんどん人が入ってくる。みんな食い入るようにスマホを見ている。
やっぱり〈迷宮学園〉だ。
画面をタップすると、昭夫の姿がうつりこんだ。
昭夫は「ひいひい」と半泣きになりながら、画面の奥から手前へと走っていく。
さっきの映像で優はおびえながら、教卓に隠れていた。
その時、メッセージアプリが起動する。飛鳥だ。
〈体育館に来て〉
〈どうした?〉
〈〈迷宮学園〉っていうアプリ、見た? それについて〉
〈了解。すぐに行く〉
スマホをポケットにねじこみ、体育館へ向かう。その途中、生徒たちが何かに憑かれでもしたみたいに、〈迷宮学園〉を起動している姿は不気味だった。
校舎から渡り廊下で体育館へ。飛鳥は体育館の出入り口で立っていた。
「子竜、みんながおかしいの気付いた?」
「ああ。でもただアプリ見てるだけだって言われたぜ?」
「何も感じない?」
「感じるって、何を?」
「だって、〈迷宮学園〉なんて入れた覚えなかったのに突然はいってて……。消そうとおしても消えないし、おかしいよ」
「マジ?」
子竜はスマホを取り出し、〈迷宮学園〉を消してみるが、飛鳥の言う通り、消えなかった。何度同じ操作をしても結果は同じ。
「ね? おかしいでしょ? やっぱり何かあるんだよ。鈴木先輩たちが呪いに巻き込まれて……」
「あいつらのイタズラだよ。気にするなって」
「気になるよ! 3人とも、おびえてるみたいだし……」
「きっと、新しい動画の撮影で再生数を上げようとしてるんだ」
「……でもね、男子バスケット部の2年の先輩が鈴木先輩に連絡をとったんだけど、電話が通じないし、メッセージも送信できないって言ってたんだよ」
「不思議なことをいちいち呪いのせいにしてたら、キリがないだろ」
「ね、お願い。おじい様に相談してみて」
「どうしてそこまで……」
「子竜は心配じゃないの?」
「もし仮にこれがその加藤秀樹の呪いだとしたら……あいつらの自業自得だろ。動画の再生数が目的でやったらいけないことをしたとか、行ったらいけない場所に行ったとかさ。陰陽師はそんなやつらまで助けるほどひまじゃ……」
「そんな言い方ひどいよ! もういいっ!」
飛鳥は校舎に向かって走り出す。
「あ、おい……飛鳥……!」
あっという間に飛鳥の姿は、見えなくなってしまった。
(なんだよ、あいつ。相手は俺をからかってた連中だぞ)
面白くない気持ちで、少し遅れて子竜も校舎に戻る。
と、先生たちがスマホを見ている生徒を片っ端から捕まえては、注意をしていた。
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