動画サイト(4)

 その日の夜、子竜が勉強机に向かって30分。ほとんど白紙のノートを前にしていた。

 数学の宿題だけど全くやる気がおきない。ていうか、分からない。

「はぁ~あ……」

 子竜は椅子の背もたれに背中を預けながら、伸びをする。電灯に照らされて、右手首の数珠がきらりと光った。これは子竜の身体に眠る温羅の封印を補強するもの。これが外れたらまた大変なことになってしまう。

 気分転換にスマホをいじって、適当に動画をながめる。お笑い芸人のネタやゲーム配信を流し見するけど、気分がのらない。

(そういえば……)

 優の動画サイトのことを思い出す。

 馬鹿らしいけど、ちょっと気になる。

(どうせ、まゆつばだろうけどさ)

 1時間前に新しい動画がアップされていた。

(放課後も待ち伏せされてなかったし、本当に忙しいのか? ま、こっちとしてはありがたいけど)

 最新の動画の再生数は今のところ、500回。

 勉強机、漫画がつめこまれた本棚、ゲームなどが転がされた六畳ほどの部屋を背景に、優がうつっていた。

〈みなさん。今朝の動画で紹介した通り、重大な事件の情報をお教えします。これをごらんください〉

 がさごそとカメラの外に腕を伸ばし、何かを探っている。

(本?)

 両手で抱えるくらいの大きさで、拍子には『ALBUM』と書いてあった。

〈これです〉

 本を開くと、そこには男女の写真がずらずらっと並んでいる。その男女の服装は、男子は詰め襟、女子はセーラー服。

〈これは俺の通う学校の卒業アルバムです。そしてこの子に注目して下さい。加藤秀樹。彼はここにのっていますが、卒業生ではありません。実は17年前、中学1年の時に亡くなっているのです〉

 次に優が見せたものは、薄汚れた冊子。

〈問題はこれからなんです。これは、とある年度の卒業文集ですが、このページを見て下さい〉

 優が開いたページには、〈加藤秀樹の呪い〉と書かれていた。

「ここにはこう書かれています。〈加藤秀樹はいじめられ、それを苦に自殺した。未練を残した加藤秀樹の魂が、ぼくをいじめた連中を連れ去ってくれた。ありがとう!〉と。

俺が調べたところ、確かに学校に通う生徒が行方不明になっているみたいなんです。これについてもっと調べて皆さんにお伝えします。いいね、チャンネル登録よろしくお願いします!〉

 動画が終わる。

 とんだデマだ。子竜は学校で幽霊なんて見たことなかった。

 もし加藤秀樹という亡くなった学生の未練の魂が、学校をさまよっていると言うのであれば、何も感じないわけがない。

 その時、スマホのメッセージアプリが着信を伝える。飛鳥からだ。

〈鈴木先輩の動画、見て!〉

 URLがはられている。

〈見たよ。っていうか飛鳥、先輩のファン?〉

〈違う。女バスの先輩からこのチャンネルを教えてもらったの。今日面白い動画をだすらしいから見てやって、って。そうしたら……。ね、大丈夫かな。呪いって言ってたけど〉

〈平気だよ。学校で幽霊や妖怪なんて見たことないから。これは先輩が雰囲気づくりのために自作しただけだよ。コメント欄も見てみろよ。そういう意見が多いだろ?〉

〈なら、大丈夫?〉

〈ま、あいつがどうなろうがどーでもいいけどさ〉

〈子竜! そういうこと言ったらダメだよ!〉

〈悪かった。とにかく心配しないでいいから〉

 そうメッセージを送信するとスマホを置き、宿題に戻った。

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