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 放課後。子竜がバックを肩にかけて、教室を出ようとしたその時、呼びかけられた。

「土御門くん」

 振り返ると、やわらかな笑みを浮かべた恒岡先生がプリントを何枚か手にしていた。

「何ですか?」

「ちょっとこれからお時間あるかしら」

「はい。大丈夫ですけど」

「良かった。実は明日、みんなに配るプリントのコピーを忘れていてね、良かったら手伝って欲しいんだけど、どうかしら?」

「分かりました」

「ありがとう。じゃあ、行きましょう」

 恒岡先生と一緒に職員室の隣にあるコピー室へ入る。何枚かのプリントを教室の人数分、どんどんコピーしていく。

 生徒たちの声で、廊下がにぎやかだった。

「土御門くん、ごめんなさい。こんな用事を頼んじゃって」

「いえ、平気です。どうせ帰宅部ですから」

「そうなのね。そういえば、稲荷さんとは親しいの? 仲よさそうだけど」

「飛鳥とは幼馴染です。仲は……普通ですけど」

「あらそうなの。うらやましいわ。幼馴染なんて」

「色々うるさいですけどね」

「それもまた青春ねえ。私にも……ふふ。なつかしいわぁ」

 恒岡先生はおばさんだけど、かわいらしい笑い方をする。

「……それで鈴木くんたちはどう?」

「平気です。あいつら、ふざけてるだけですし」

「本当に? もし困ってるんだったら、2年の先生に相談をしてみるけど」

「ありがとうございます。でも、あんな奴に負けませんし」

「勝ち負けじゃないわっ。もしものことがあったら……」

 語気が強くなったので、子竜は驚く。

「……ご、ごめんなさい。大きい声をだしてしまって……。でも先生はね、この学校が誰にとっても素敵なものであって欲しいの。けんかは時にはするでしょうけど、いじめは絶対に許されることじゃないもの。特に鈴木くんは、色々と問題の多い子だし」

 先生は本当に、子竜のことを心配してくれているのだ。

「もし本当にいやになったら、ちゃんと言います」

「……先生、余計なこと言っちゃったかしら」

「そんなことないです。心配してもらってうれしいです」

 コピーが終わる。

「生徒は私にとっては子どもも同じだもの。心配して当然。……あとは先生がしますから、土御門くんは帰っていいわ。また明日ね」

「最後まで手伝います。このプリント、どこに運びますか?」

「それじゃあ、職員室までお願いできる?」

「はいっ」

「失礼します」と職員室に入ると、先生のデスクにペーパーのたばを置いた。そこで写真立てがあるのを見つける。

 写真は学校の校門。校門には〈市立明王中学〉というプレートがはられている。

 大人の女性とつめえり制服姿の子ども。大人の女性は恒岡先生(今よりもだいぶ若い)。 ということは、となりの子どもは先生のお子さんだろうか。

「ありがとう、土御門くん。また明日ね」

「失礼します」

 頭を下げ、職員室をでた。

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