陰陽師の少年(4)

 帰りのホームルームが終わって、教室が騒がしさを取り戻す。

 子竜が廊下に出る――と、優が待ち受けていた。

 これみよがしに指をぽきぽきと鳴らしているのが小者感あふれる。

「分かってるよな?」

「何がですか?」

「俺は先輩だぞ! 俺の足を蹴りやがって!」

「そんなことありましたっけ?」

「このままボコボコにしてやってもいいんだけどさ、もし俺の言うことを聞いたら許してやってもいいぜ?」

「何をすればいいんですか?」

「これから動画を撮影するから付き合えよ。――インチキ霊感少年がする霊視! どうだ、面白そうだろ!」

「いや、つまんなそう」

「はあああ!? なんだと、てめえっ! 俺に逆らうのか!」

 胸ぐらをつかまれる。

「やめなさいよっ!!」

 優の顔面に、スポーツバックがクリーンヒットした。

「ぬぁ……!?」

 胸ぐらから手が離れ、優は倒れた。

「子竜、大丈夫!?」

「飛鳥、何してるんだよ!」

「だって、危なかったじゃないっ」

「俺なら大丈夫……ってか、お前がやってる方が何百倍も危ねえからっ!」

「お前って言わないで!」

 そんな話しているを間に、優が起き上がった。さらに、「優さん!」とかけつけてきた俊一郎と昭夫が、両脇を支えながら優を抱き起こす。優の顔にはスポーツバックの赤いあとが、くっきりとついていた。

「おい、飛鳥。あのバックの中に何をいれてんだよ……」

「マイボールとか……ちょっとした筋トレグッズ……」

「て、てめえら!!」

 耳まで真っ赤にして激怒した優が追いかけてくる。

「飛鳥、逃げるぞ!」

「えええっ!?」

 子竜は飛鳥の手を掴むと走り出した。

「逃げるなぁ! 待てぇえええええええ!!」

「待つかぁ!」

 その時、子竜たちの教室からグレイのジャケットにロングスカート姿、黒縁眼鏡をかけたおばさんが出てくる。子竜の担任の恒岡育美先生だ。先生は若い頃にこの学校で先生をしたことがあって、何度かの転勤のあと、最近この学校に戻ってきたらしい。

「こら、何をしているんですか。騒ぐのはやめなさいっ」

「あ、先生……すみません……でも……」

 優との距離がちぢむ。

 恒岡先生が優に気付いたらしい。

「またですか、鈴木くん。下級生をいじめてはいけませんよっ」

「うっせえ! ババア! 邪魔だっ!」

「ちょ、ちょっと……!」

 恒岡先生を無視して、優たちが近づいてくる。

「先生、ごめんなさい!」

 子竜と飛鳥は再び走り出した。

「どいて、どいてっ!」

 生徒の間をぬうように突っ走る。でも――。

「はぁ、やばぃ……帰宅部にはきつすぎるぅ……はぁ、はぁ……」

 あっという間にスタミナがなくなった子竜は、情けない声を漏らす。

「子竜! さっきの勢いはどうしたのよ! 来てっ!」

「あ、飛鳥!?」

 子竜の体力のなさに呆れたのか、今度リードするのは飛鳥。

 子竜は足をもつれさせながら、飛鳥に引きずられていった。

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