陰陽師の少年(3)

 明王市立明王中学は創立60年の伝統がある。10年くらい前に古い木造校舎を取り壊され、新しい校舎が建てられた。男子の制服は昔は学ランだったが、今はネクタイにジャケット、スラックス。女子は昔はセーラー服で、今はジャケットにスカート。

 玄関に入り、自分の下駄箱を開ける。

「うわ……!?」

 飛び出して来たヒキガエルに、大声を上げてしまう。

「うわ、だとよ! あはははははは!」

 笑い声のほうを見ると、3人の男子生徒がいた。

 一番図体がでかいのが中学二年生の鈴木優。その右隣の眼鏡をかけているのが1年の森俊一郎。左隣の同じく1年で、太ってるのが曽根昭夫。この3人組は子竜だけでなく色んな生徒にちょっかいを出して、迷惑がられている。その上、先生の言うことも聞かない。優にいたっては親まで呼ばれているらしいけど、効果はないようだ。

「霊感があるくせに、カエルがいることも知らなかったのかよ! やーっぱ、インチキ霊能者だよなぁ!」

 優がスマホで撮影してくる。

「傑作だったぜ! ほら、笑えよっ!」

「おい、やめろ!」

 スマホを取り上げようとするが、子竜の一回りはある体格の優あいてではとても歯が立たない。

「おい、また変なのをつけてるなっ! 綺麗だし、俺がもらってやるよ!」

 優が子竜の右手首の数珠に手を伸ばそうとする。

「やめろ、よっ!」

 瞬間、身体が動いていた。優の右足のすねを思いっきり蹴った。

「うおっ!?」

 優は痛む右足を抱えながら、ぴょんぴょんと一本足でケンケンをする。

 子竜はカエルを手に逃げ出す。

「お前ら! さっさとあいつを捕まえろ!!」

 そう叫ぶ優の声を聞きながら、校舎裏へ避難する。

「はぁ」

 ため息をついてしまう。こうも落ち込んでいるのは、インチキ霊能者という言葉が胸に刺さったからだ。俊一郎と昭夫は同じ小学校だったから、子竜の過去をよく知っているのだ。子竜が嘘つきだということを。

「お前も災難だよな。悪かったな、俺のせいで」

 地面におろすと、カエルは草むらに逃げていった。

 気を取り直して下駄箱の様子を見ると、優たちはいない。

 子竜は玄関に向かって走った。

 校舎は5階建て。1階は職員室や生活指導室などがあって、2階が3年生の教室、3階が2年生、そして1年生は4階。5階が音楽室や美術室、家庭科室に理科室、視聴覚室などの特別教室が集中している。

 校舎から渡り廊下で結ばれた先が、体育館だ、

 教室に入ると、クラスメートたちがぽつぽつと席に着いている。

「おはよーっす」

 何人かのクラスメートにあいさつをして、窓側の列の一番後ろの席につく。

 スマホをいじっていると、登校してきたクラスメートで教室がにぎやかになってきた。

「おい、子竜! これ、見ろよっ!」

 クラスメートからスマホを見せられた。スマホにうつっていたのは有名な動画サイトで、下駄箱からカエルが出ておどろく子竜の姿が再生されていた。

「はあ!?」

「お前がよくからまれてる先輩いるだろ。その人のアカウント。でも、このタイトルの〈ニセ霊能者〉って何?」

「聞くなよ。黒歴史だから」

「あーハイハイ。俺も小六の時とか、何にも興味がないってキャラを演じてたもんな~」

(それは痛いな)

 動画を見ると、アカウントの登録人数は14人。

 動画はいくつかあったけど、どれも一ケタの再生数。

 これなら拡散する心配もないだろう。

 アカウント名は〈心霊探偵団〉だが、学校の七不思議を紹介してたのは最初だけで、その他は爆竹を爆発させたり、今朝のしょうもない動画だったりで、見てるほうが悲しくなってくる。

「――子竜!!」

「っ!」

 教室に飛び込んできたのは、スポーツバックを肩にかけた飛鳥。

「これっ!」

 今の動画を見せられる。

「ああ、それな。どうでも……」

「よくない! また、あいつらでしょ!? ほんっとサイテイ!」

「飛鳥、どこ行くんだよ!」

「先輩に、馬鹿なことはするなって言ってくる!」

「よ、よせ! 余計ややこしいことになるんだからっ! 前だって危うくなぐられそうになっただろ!?」

「避けたし! あんなのろいパンチが当たるわけないでしょ」

「そう。それで俺が殴られた」

「本当に子竜ってとろいよねー」

「いいから何もするな。いいな? 俺が大丈夫て言ってるんだからさっ」

 子竜が念を押すと、飛鳥はしぶしぶ「……分かった」と納得してくれた。

 チャイムが鳴った。朝のホームルームが始まる。

 子竜と飛鳥は自分の席に戻った。

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