陰陽師の少年(2)

「じーちゃん、行ってきまーすっ!」

「おお。気を付けて行くんじゃぞ!」

 子竜はバックを肩にかけ、長い階段を下っていく。

 神社は高台にあって眺めはいいけど、学校まで遠いのが難点だ。神社から一歩でも出ると、子竜はうつむいて自分の爪先を見るような感じで歩く。これは身を守る手段だ。

(ヤバ……っ)

 赤信号になり、横断歩道で立ち止まる。その時に、思わず前を向いてしまう。全身の鳥肌が立つ。

 対岸の学生や会社員たちの中に、明らかに異質なものがいたのだ。

 ぼろぼろの服をまとい、自分の身体を抱きしめながら何かをぶつぶつとつぶやいている女性。

 その姿も異様なら、存在自体がおかしい。他の人たちにはちゃんと色がついているにもかかわらず、その女性だけ白黒。明らかに異質な存在にもかかわらず、周囲の誰も見向きもしない。

 子竜には幽霊が見えるのは、土御門家に流れる陰陽師の血のせい。

 神社は神域の力で守られているから悪いものは近づけないが、一歩でも外にでれば、異質な存在はそこかしこにいる。

 その中でもこんなにもくっきり見えるのは珍しい。ほとんどの場合、もやのようだったり、人の形をしていても男女の区別がつかない。

 それだけ念が強いということだろう。

 青信号になる。人の波が横断歩道を渡り始める。同時に女性も歩き出す。

 子竜には気付いていない。取り憑かれたらめんどうだ。目を伏せ、人ごみにまぎれる。

(無視しろ、無視、無視……)

 女性と擦れ違った瞬間。

 ――あの車、あの車はどこだよっ? あの男は……あぁ、殺す、殺す、殺してやややややる。

 やがて女性の霊は人ごみにまぎれて、いなくなる。

 対岸に渡った時、電信柱に看板が立てかけられていることに気付く。

〈○月×日 女性が自動車のひき逃げにあいました。情報がおありの方はご連絡下さい。

明王警察署〉

 かわいそうだとは思うけど、子竜には何もしてあげられない。

 なにより、祖父から幽霊や妖怪のたぐいに近づくことを厳しく禁じられている。

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