同じクラスの百合カップルをこっそり推し活していたら交際を迫られた件

嬾隗

推しに好かれて追われる

 今日も推しが尊い。正しくは推しカップル、略して推しカプだ。まさか共学で百合カップルを見守ることができるとは。あ、俺はシュウと申します、高校生です、ハイ。今まで人と話すのが苦手で友達もいなくて、SNSを流し読みする中で見つけた、未だ世間一般的ではない百合にどっぷりハマりましたのが中学二年生。そこから二年ほど熟成されて現在高校二年生。それはもう立派な陰キャぼっちに育ちましたよ、ええ。小学校の友達とは親の転勤で離れたから、そこから拗れに拗れました。大変ですね(他人事)。


 さて、本日も俺が観察しているのは『水分姉妹』と呼ばれているお二方。イズミ様、ミオ様にございます。どちらも名前が水に関係していることから、そう呼ばれています。水姉妹だと高貴なお二方には卑猥だということで、水分なんだそうです。というのも、名称はクラスメイトが話をしているのを盗み聞きしたので、確証はないのですけど。


 イズミ様、ミオ様は幼馴染。どちらも中堅企業の社長令嬢だそうで、何事もなければ会社を継ぐとか。まあ、そんなことはさておき。お二方の距離感は、まさに百合カップル。どこに行くにも引っ付いておられますし、登校も部活も下校も同じという徹底振り。ええ、これで付き合っていないなんて、おかしいでしょう。え、何故登校と下校が同じことを知っているのかって? それは俺の通学路が同じだからですよ。高校生になった時、一人暮らしをしたいと親戚の経営しているアパートに住み始めたのですが、お二方も同じような考えで同じアパートに住み始めたのです。それで、顔見知りになった訳です。いえ、恐れ多くてほとんど話したことはないですが。


 今日もお二方の後ろを下校しています。え、ストーカーだって? いえいえ、通学路が同じだけですよ。お二方の安全を願っているだけのただの厄介オタクです。


「でさー、今日さー」

「あはは、うけるー」


 はあ、会話しているのを見ているだけで浄化されます。


「お、可愛い子たちはっけーん。お茶しない?」


 む、ナンパ師! 百合に挟まる男は死すべし!


「い、いやです……」

「ミーちゃん、逃げようよ……」

「逃がさないよー」


 何!? 潜伏者がいたのか……。これは逃げられないぞ……。ん、あっちからなら逃げられそう。

 背に腹は代えられぬ! いざ参る!


「二人とも! こっち!」

「え、う、うん!」

「わかった!」


 物分かりのいい二人で良かった。あと、俺のコミュ力も完全には終わってなくて良かった。


「ふー、逃がせた……」

「おいてめえ、何してくれてんだ?」

「アッ」


 二人を逃がして逃げ遅れました。積んだわ。


「ギャー!」




 ◆




 俺はやっと怪我が治って転校しました。転校の理由? 親の転勤と、息子がまたひどい目に遭わないように、だと。いい親を持った……俺にはもったいない。


 ナンパ師はあの後補導され、どうなったかは知らない。噂ではイズミ様とミオ様の会社が潰したとか。ご愁傷様です。


 ああ、もうあのベストカップルを見ることはできないのは残念だが、しょうがない。また推しを見つけるとしよう。


「転校してきました、ショウと申します。よろしくお願いいたし――え?」


「久し振り、ショウ君!」

「元気そうだねー」


 な、なんでいるのーーーーーー!


「絶対彼氏にするから!」

「私がなるのー!」


 なんてこったい!





   完

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同じクラスの百合カップルをこっそり推し活していたら交際を迫られた件 嬾隗 @genm9610

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